栄光を飾ったマシン
1勝目と2勝目を繋いだ架け橋

1967年F1世界選手権ドイツGP出場車 No.7 ジョン・サーティース
Honda第1期F1活動、3作目のマシン 高回転/高出力の新開発3Lエンジンを搭載
1965年のF1最終戦メキシコGPで悲願の初優勝を飾ったHonda。この一戦は同時に1.5Lエンジン規定で行なわれた最後のレースでもあり、それはつまり66年からのF1世界選手権は大変革シーズンとなることを暗示していた。
新エンジン規定の主題は排気量の拡大。いきなり前年までの倍、最大3000ccまでと変更され、エンジンはおろかマシンもフルモデルチェンジしなくてはならなくなった。結果を見ても、振り返ってみれば確かに混乱のシーズンであった。各サプライヤーのエンジン製作が間に合わない、性能が安定しないなど、各チームともまともな戦力を揃えることができない状況に陥っていたからである。

伝統のHマークを配したステアリング。シフトレバー取り付け部分は軽合金のボックス内に収蔵された。
この年、各チームに供給されたエンジンを見渡してみると、高出力が期待できたが重くて故障の確率も高かったBRMのH型16気筒、信頼性は高いが多少パワーで劣るレプコV8、軽量だがフルサイズの3Lを確保できなかったクライマックスV8ぐらいのもの。いずれも一長一短で決定打がなく、各チームとも苦渋の(妥協の)選択を強いられていた。
こうした状況は、すべて内製で対応してきたフェラーリやHondaにとっては有利に働くはずだったが、フェラーリはエンジンの仕様決定に手間取り、Hondaは前年の最終戦まで目前のレースに注力するスタンスを採っていたため(その結果が初優勝へと結びついたのだが)開発作業自体が遅れていた。

重厚長大なV12エンジンをモノコック形状に合わせるために縦置き・90度バンク角とし、吸排気を上方に集中させた。黒いマグネシウム製エキパイは67年ドイツGPから採用。
Hondaが3Lモデルのニューマシン「RA273」を準備できたのは66年シーズンの折り返し点も過ぎた第7戦イタリアGPだった。この年は第9戦メキシコGPが最終戦だったので、たった3戦限りのシーズンとなった。ドライバーは1.5L時代に引き続きリッチー・ギンサーとロニー・バックナムのふたりが務めた。
エンジンは1.5L時代と同じくV12を選択。高出力指向のHondaらしいチョイスと言えた。RA273E型とネーミングされたこのエンジンはシャシーと同歩調で開発ができる利点を活かして、メインモノコック断面にすっきり収まる独特の90度バンク角を持ち、断面積の広いサイドチューブ上に搭載される。搭載方式はエキセントリックな横置きからコンベンショナルな縦置きへと変更されている。特徴的なのはストローク値が52.2mmと極めて短く、高回転・高出力型で設定されていたこと。バンク角は重心高を下げるため90度を採用し縦置きマウントとしたが、センターテイクオフ方式とした点はRA272までの横置き時と同じだった。
パワーと信頼性こそ、他陣営を引き離すほどの実力を発揮した。しかし問題は、やはり車両重量にあった。エンジン自体も重量級(200kg)だったが、アルミモノコック構造を採用しながら安全係数を高く取るためのシャシー構造が重量増を招き、最低規定重量を150kgも上まわる650kgに達していた。
こうした状態の車両で参戦しても、まともな戦績など望めそうにないことは明らかだったが、先にも触れたようにこの66年シーズンは混迷を極めていただけに、とにかく完走すれば思わぬ上位に食い込めるチャンスが残されていた。

ノーズ上面に屹立するエアインテーク(のようなもの)。外観上の大きな特徴となっている。ラジエターの熱気を逃がすための排熱口とブレーキフルード類への冷気導入口を兼ねている。
ギンサーのRA273が最終戦のメキシコで4位(バックナム8位)に食い込めたのも、まさにこうした流れがもたらしたもので、依然としてマシンのダイエットは大きな課題として残されていた。Hondaは翌67年シーズンもRA273を継続使用する意向で熟成と軽量化を進めた。投入2戦目のアメリカGPではリヤサスペンション・ラジアスロッドのピックアップポイント増設やワイドトレッド化などを断行。実戦5レース目の67年モナコGPではエンジンブロックをアルミからマグネシウム鋳造品へと変更。ノーズ形状にいたってはモナコ用、オランダ用と仕様違いがいくつも作られた。
一方でHondaはチーム体制の強化にも着手。F1参戦以来起用し続けてきたギンサーとバックナムと袂を分かち、起死回生を図って元世界チャンピオン(ジョン・サーティース)を招聘。加入後初のレース(67年開幕戦南アフリカGP)ではRA273を3位表彰台へと導き、イギリスGPで6位、ドイツGPで4位と着実に結果を残した。また彼のもつ英国内での人脈パイプ、さらに現場サイドの進言もあって英国ローラカーズ社との提携を決定するとインディ用T90シャシーをベースに熟成極まったRA273Eエンジンを搭載する新型マシン「RA300」を6週間で生み出すことに成功し、これが9月のイタリアGPへ登場するやデビューウイン、奇跡の2勝目達成を成し遂げる。RA273はRA272とRA300という、2台の優勝経験車に挟まれた境遇に生まれた。優勝こそならなかったものの次作への開発上の指針となったという意味で見捨てることのできない、貴重で価値ある1台と言えよう。

シャシー
型番 | Honda RA273 |
車体構造 | アルミニウムモノコック、アルミボディ |
全長×全幅×全高 | 未発表 |
ホイールベース | 2510mm |
トレッド(前/後) | 1550/1485mm |
サスペンション(前後とも) | ダブルウイッシュボーン |
タイヤ | グッドイヤー、ファイアストン |
燃料タンク | 240L |
トランスミッション | Honda製5速MT |
車体重量 | 650kg |
エンジン
型式 | Honda RA273E |
形式 | 水冷縦置き90度V型12気筒DOHC48バルブ |
排気量 | 2993cc |
最大出力 | 420HP/11500rpm |
重量 | 200kg(ギヤボックス含む) |
RA273E
