
HRC角田哲史LPLが語る
新規定PUの注目点とHonda製PUの開発ポイント
2026.01.20新シーズン解説
- 2026年からのパワーユニット(PU)の難しさやポイントとなりそうな部分を、開発エンジニアの立場から教えてください。
- 「難しさという点では、もう全部です(笑)。エンジンの骨格、つまりICE(内燃機関)のV6ターボという以外はすべて新しいので、全部やり直しになりました。骨格については、エンジンマウントの距離とか位置が変わりますが、全体としては従来のものと大きく変わらずにいけます。しかし、その中身は燃焼システムや燃料が変わるので、まったく違うものが要求されますから、新たなエンジンと言えると思います。つまり、MGU-Hがなくなりターボチャージャーの使い方、上限が抑えられた圧縮比、それから可変吸気も使えなくなって、どのようなエンジンを作っていくか、それはまったく新しいチャレンジになりました。電気系も、出力が大きく上がり、バッテリーやCE(コントロールエレクトロニクス)もエネルギーの出し入れがモーターに合わせてものすごい量になりますから、これに合わせた最適なバッテリーの開発とそれをうまくコントロールできるCEを作らなければならなくなります。つまり、すべて新規開発が必要となるPUということです」
- MGU-Hを廃止することによって、シンプルな構造になると言われていますが、それについてはいかがですか?
- 「複雑という意味ではMGU-Hがある方が複雑と言えると思いますが、新しいルールは電動エネルギーの量そのものが大きくなっているので、ちょっとした差が明らかな差になるというところが今までとは違うところで、シンプルになったとはいえ難易度は高いと思います。加えてエネマネ(エネルギーマネジメント)も、限られた量をどこで使うかという部分で差が出るでしょう。基本的にはストレートでいっぱい使ったほうがいいのですけど、例えばクルマの特性に合わせてショートコーナーの繋ぎで使ったりすると、ストレートでのエネルギーが減ってしまったりとか、そういうことはもちろんあると思います。それ以外にも、ターボ、エンジンをどう作ったか、トルク特性やピーク馬力を出すために電気エネルギーを使うこともあると思います。MGU-Hがなくなり、ターボラグが大きな課題となるわけですが、それをカバーするのに電気を使うということも十分考えられます。しかし、電気エネルギーは限られているので、いつでもどこでも使えるわけではありませんから、使い方がとても重要になります」
- 電気エネルギーは常に足りない状態という理解でいいのでしょうか? そうなると使い方と作り方がとても難しい問題ということですね?
- 「その通りで、足りない電気をどう効率的に作り、どう使うかが大きなポイントです。これは単純にパワーアシストというだけでなく、ICEの特性やそれぞれのコースやレースの状況、そしてドライバーの走り方などによっても変わってくるでしょうから、とても細かなコントロールが必要で、難しいポイントだと思います」

- 耐久信頼性の面ではいかがでしょうか? 前規定の時には当初MGU-Hをはじめ、多くのトラブルが発生しました。
- 「信頼性の面で言うと、MGU-Hの難しさは我々も痛感しましたが、あのような未知の領域の回転数とか複雑な機構というものは今回ないので、前回のように壊れまくるということはあまりないかとは思います。しかし課題となる部分はしっかりあります。たとえばMGUの駆動系も電動出力が増大するだけに高トルクが及ぼす影響は難しい点になると思います。また、バッテリーやモーターの熱対策や温度コントロールは、各PUマニュファクチャラーで考え方が異なる可能性が高いので、信頼性にもそれなりに影響が出るでしょうね」
- サステナブル燃料の使用も、大きな影響がありますか?
- 「それはあります。燃料の成分などルールそのものはまったく変わっていますし、我々としてもある程度の知識はあるものの、新しいハードウェアとどうマッチングさせて、どういう成分がどのような効果を表すかというところは仕切り直しでやらなければならない部分なので、やはり新規開発としての難しさを実感しています。特にサステナブルで製造し使用するという厳しい制限がありますから、燃料開発はアイデアとスピードの勝負になる部分ではあると考えています」
- バッテリーも新規定では性能差が現れる領域となりますか?
- 「容量そのものは変わらないですが、出し入れの量が大きくなり、エネルギーロスやデプロイの長さで違いが出ると思います。また、劣化による性能ダウンもパフォーマンスに影響を及ぼす要因になるでしょうね」
- Honda製PUの開発に関して、お聞きしたいと思います。具体的なことは秘密でしょうから、角田さんの認識や考え方について教えてください。HondaのPU開発にあたり重視されたことはなんですか?
- 「多くの新しい要素があり、どれも重要な部分なので疎かにできるところはないのですが、差がつきやすいところとしてはやはりICEなのではないかと考えています。ICEの出力をいかに出して行くか、新たな燃料とセットでどのように高性能を出すかがとても重要だと思います。我々としては、前のP Uで成果を出した高速燃焼が、圧縮比の制限や燃料流量の変化などでほぼ使えなくなりました。なので、新たなアイデアで性能を上げなければならないわけです。もちろん他メーカーも同じ状況だと思いますので、新たなアイデアの勝負になると考えています」
- バッテリーに関しては、性能の優位性が前のPUから引き継げるものと思っていいでしょうか?
- 「そう考えていますし、そう信じています(笑)。バッテリーに関しては、活動終了を決めた後も、F1だけに限るのではなくその開発を継続していたという経緯があります。それだけに進化していますし、自信がある部分です」
- エネルギーマネジメントについても、レッドブルパワートレインズとの技術提携によって参戦を継続し、経験もデータも十分なのではないでしょうか?
- 「そうですね。その点ではバッテリーの性能を活かしつつ、エネマネで勝負していきたいという思いはあります。ただし、エネマネについてもこれまでとはまったく状況が違うわけです。昨年までは半分はMGU-Hで、半分はMGU-Kで作っていたエネルギーですから、MGU-Kの使い方が全体に対して占める割合は、ものすごく大きいわけではなかった。特にMGU-HからダイレクトにMGU-Kにエネルギーを投入できたので、MGU-Hの頑張りが差の出やすい状況でした。MGU-Kはブレーキングでエネルギーを取るわけですが、サイズが小さくあまり差が出なかった部分でしたが、今回は全部MGU-Kでやるわけなので、エネマネの考え方もリセットなんです。経験やデータはあるに越したことはなく、ある程度有効だと考えていますが、実際にはやってみなければわからないところです」
- ウィンターテスト、そしてシーズン開幕が目前ですが、現在の状況は?
- 「2026年シーズン用のスペックは固まっていて、今はホモロゲーションまでに信頼性を上げる開発に主眼を置いています。ただし、クルマに積んで実走しないとわからないことが多いので、ウィンターテストで、実際の車体や走るのにほぼ等しい車体に搭載して、ちゃんと問題なく動くかの確認が非常に重要な作業で、それをやらなければならない段階です」
