Hondaは長年ロボットの研究に取り組み、人とロボットが安全に共存していく社会の実現をめざしています。今回その研究の一環として、楽天グループ株式会社と共同でNEDOの技術開発事業に参加し自動配送ロボットの走行実証実験に取り組みました。人や自転車などが行き交うような環境で走行実証実験を行うことによって、人と混在する環境下で安全に移動するために自動配送ロボットに求められる要件や課題を抽出していきます。

※ NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

Hondaは人とロボットが暮らす社会を見据えている

Hondaは創業以来、“技術は人のためにある”という信念を持ち「人間研究」を重ねてきました。その企業姿勢を活かし、人研究を深めることでロボット研究を前進させ「世界中の一人ひとりの『移動』と『暮らし』の進化をリードし、すべての人に『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」ことをめざしています。
2000年にヒューマノイドロボットASIMOを発表するなど、Hondaはかねてから人とともにあるロボット研究に情熱を注いできました。将来ロボットが人の生活に入っていくためには、人がロボットによって提供される価値を認知し、ロボットという存在を許容し受け入れること、すなわちロボットが社会的に受容されることが重要となります。


2000年に発表したヒューマノイドロボットASIMO

CES 2018で発表した3E-C18。「人と共に成長する」をテーマとしたAI搭載のプラットフォーム型ロボティクスデバイス

今回の走行実証実験を行った自動配送ロボット。動力源はHonda Mobile Power Packで作動

前後輪の間にHonda Mobile Power Packが2つ装備される。充電されたものと交換することで、充電待ち時間をなくすことができる

Hondaはロボットの社会実装をめざし、NEDOが進める“新型コロナウイルス感染症の影響によるラストワンマイルにおける「遠隔・非対面・非接触」での配送ニーズの増加や、少子高齢化に伴う配達員不足など、顕在化する社会課題の解決”をめざす「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に、自動配送ロボットを使った走行実証実験として参画しました。
自動配送ロボットに求められる機能や性能、安全性についての要件・技術課題を抽出し、社会に自動配送ロボットが受容されるための課題を明らかにしていくことで、人と社会に貢献するとともに、ロボット研究を加速させようと考えています。

自動配送ロボットの移動にはどういう難しさがあるか

自動配送ロボットは、自律移動(自動運転)により、目的地まで自動で判断して移動します。自動車の自動運転の場合は、交通ルールを守って車線の中を決まった方向に走る自動車やバイクの動きを予測しながら移動します。一方、自動配送ロボットの場合、人や自転車が行き交う環境の中で、周囲に合わせて安全に移動する必要がありますが、車道と異なり歩道には明確な交通ルールはありません。したがって、起こり得るケースのバリエーションが非常に多く、より複雑で難しい環境の中を自律移動する必要があるのです。
走行実証実験を行っているのは、住宅や店舗、広場が点在し、それらを結ぶ道を人や自転車が行き交うような場所です。そうした場所で例えば道の端を自動配送ロボットが進んでいるとき、正面から自転車が近づいてきたとします。自転車はロボットの脇をすり抜けようとしているのか?気付いておらずぶつかる可能性があるのか?という判断をロボットが自律で行うのは簡単ではありません。そうした複雑な環境の中で周りの人や自転車の通行に危険を及ぼさないようにしながら、配送時間を考慮してあまり頻繁に止まり過ぎず円滑に進むことが重要で、そのために何が課題になるのかを洗い出しています。

株式会社本田技術研究所 ライフクリエーションセンター
有泉 孝裕

1999年入社。ASIMOの顔認識機能開発など、人とロボットのインタラクション機能の研究開発に従事。2020年より自動配送ロボットの実証実験プロジェクト推進責任者を務める。


走行実証実験を行う道では、人や自転車が複雑に行き交う

一番狭いところでは、自転車とロボットが接近してすれ違うこともあるような歩道で、走行実証実験を行っている

現状の実験では、万が一の場合はロボットを外から止めるというような体制をキープして実験を進めるようにしている

走行実証実験で何を行っているか

現場での走行実証実験を行う前に、走行中の自動配送ロボットの人との接近・接触のパターンと、それらの発生頻度、人に与える危害レベルなどを想定。その想定のリスク検証を行い、リスク回避のために必要なセンシング範囲や対象について仮説を立てます。そして走行実証実験を行い、実際に起こったケースから仮説に対する確からしさを検証。仮説の妥当性や技術的な要件を抽出し、アップデートしていきます。

検討すべき事象が生じると、すぐにスタッフがその場で集まりどのようにすべきかなど要件についてディスカッションを行う。そのファクトを記録し蓄積するのが今回の実験の主な目的である

自動配送ロボット自身で判断・行動できないケースが存在するため、遠隔からオペレーターが補助する必要がある。その際に使用する遠隔監視・操縦ツールに必要な機能や技術課題の検証も行っている

人の中でロボットはどう動くべきか?

例えば、道幅の狭くなった場所で人と人がすれ違うとき、人はお互いによけたり、状況に応じて片方の人が止まって道を譲るといったことを自然に行います。しかし、未だ身近とは言えない移動するロボットが相手の場合、その行動を予測することは簡単ではありません。同じような状況では、ロボットに道を譲ってくださる方もいれば、ロボットが止まるだろうと考え道を譲らないことも起こり得るでしょう。どこまでロボットが自律で判断・行動すべきで、どこから先は人に譲ってもらえるように促すべきかというバランスを探り、動きの速さや動くタイミング、LED表示など周囲へのアピール手段を組み合わせることによって、トータルで人にとってわかりやすい動きをロボットにさせていくことが必要になっていくと考えています。

ロボットの走行に伴い、周囲を通行する人や自転車との間にさまざまなシチュエーションが発生する

人が直前を横断しようとしたとき、どのくらいの間合いであれば停止すべきか?

走っていた自転車が急に向きを変えたとき、どのくらい離れていればそのままやり過ごせるか?

人とすれ違うとき、どのくらいの近さなら停止すべきか?

今回の走行実証実験で得られたこと

今回、人や自転車が複雑に行き交う道で走行実証実験を行ったことで、さまざまなケースの仮説を検証することができました。予測が適切だったり、甘く見積もってしまったケースや厳し過ぎたケースもありました。たくさんの仮説の確からしさを検証できたことで、自動配送ロボットに求められる安全要件の分析が進みました。さらには、発進時や右左折時にどう振る舞い、どういうアピールを周囲に対して行うべきかなど、自動配送ロボットという存在が人々に受容されていくためには、振る舞いのルールが社会で統一されていくことが必要であると痛感しました。今回の実証実験で得られた結果を、NEDOの「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の成果として共有することで、今後の自動配送ロボットの社会実装に向けた統一ルールづくりに貢献していきたいと思っています。

モビリティーカンパニーとしての強みを活かして貢献

Hondaは、これまで取り組んできたロボット研究で、人と混在する環境の中で安全に移動するための知見を蓄積してきました。また、二輪・四輪・ライフクリエーション製品など、安心して使っていただける製品を世に送り出してきました。そこで得られた開発・設計・製造のノウハウなどモビリティーカンパニーとしての強みを活かし、Hondaは人と共存可能で高品質な自動配送ロボットの開発に取り組んでいきます。
今後も、自動配送ロボットの公道実証実験を通じて、人とロボットが共存する社会の実現を目標に、世界中の一人ひとりの『移動』と『暮らし』の進化をリードすることをめざしていきます。

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