研究開発部門が独立している理由
Hondaは研究開発部門を営業販売部門と切り離し、独立して機能させている。それは、「技術は人のために」という創業以来変わらないものづくりの姿勢を貫き、発展させるためだ。創業当初は本田宗一郎というひとりの天才が開発を率いてきたが、会社が組織として永続的に人の役に立つ技術を開発していくためには、何人もの本田宗一郎を生み出し、集団でチャレンジしていくという考え方である。
研究開発部門を独立させたのは、個人ではなく集団で新しい価値を創造していくためだ。Hondaの研究開発部門は他部門と密に連携しながらも目先の業績に左右されることなく、自由な発想ができる環境のもとで研究開発を行なっている。
商品の企画が生まれてお客様の元に届くまでには、企画→開発→生産→販売のプロセスをたどる。1974年には、開発から生産そして販売へとリレーされ市場に送り出されていた従来の体制から、S=Salesセールス(販売)、E=Engineering(生産・生産技術)、D=Development(研究開発)の3部門が同時進行することでダイレクトに市場や生産現場の意見を開発に反映させ、有機的に連動しながらお客様に喜ばれ満足していただける製品開発を目指すSED開発がスタートした。
四輪・二輪・パワープロダクツなどの各部門において、人や社会の役に立つための商品企画を担うのが企画部門だ。商品企画と連携して動く開発部門は2つの領域に分かれている。ひとつは長期的視野に立ち、将来的に商品として具現化したい新技術の研究を行なう基礎研究(Research)部門。もうひとつは、企画された商品を具現化するために開発を行なう量産開発(Development)部門だ。狭義にはR=研究、D=開発である。
四輪を例でいうと、燃費と走りを高い次元で両立するハイブリッドシステムや、電気自動車向けや燃料電池システムなどの次世代パワートレーン、トランスミッションなどの駆動系、走行性能を向上させる車体やシャシー、電装・電子制御システム、予防安全・衝突安全、自動運転・知能化など、多彩なテーマに関し、研究と開発に取り組んでいる。
Hondaの研究開発への想い「技術は人のために」
時代のニーズを先取りし、独自の技術でモビリティ社会の発展に貢献することを目指すのがHondaの技術開発の歴史である。創業者の本田宗一郎が戦後間もない1946年9月、軍需工場に残っていた無線機の発電用エンジンを自転車に補助動力として取り付けたことが、「技術は人のために」の原点といえる。
自転車用補助エンジンから商品づくりを始めたHondaは、1947年にオリジナル設計のA型エンジンを生産、1949年にフレームからすべて自社製の本格的なオートバイ、ドリームD型を発売する。1953年にはHonda初の汎用エンジン、H型を発表。1959年には二輪車づくりで培った技術と生産体制を生かし、Honda初の耕うん機、F150を発売した。
1964年にはHonda初の船外機として、「水上を走るもの、水を汚すべからず」という本田宗一郎の信念のもと開発された4ストロークエンジンのGB30を発売している。1972年には世界の自動車メーカーが達成不可能と主張したマスキー法(米国大気浄化法)基準を達成する低公害エンジンのCVCCを完成させ、シビックに搭載した。
2000年には、人間社会の生活を豊かにするという夢の実現に向けヒューマノイドロボットのASIMOを発表。2015年には「自由な移動の喜び」を空に広げる商品として、小型ビジネスジェットのHondaJetの量産体制を整えた。現在は空をもっと身近にすべく、電動垂直離着陸機のeVTOLの開発を進めている。
ガスタービン発電機とバッテリーを利用したパワーユニットを動力源とするeVTOLは、レース活動で培ったハイブリッド技術やHondaJetの航空エンジン技術や型式認定取得経験など、Hondaがこれまでの研究開発で連綿と築き上げてきた知見を、軽量構造や超高回転ジェネレーターなどの技術に活用。陸と空のモビリティを手がけて技術を蓄積してきたHondaらしい、時代のニーズを先取りしたモビリティである。
「自由な移動の喜び」を生み出す研究開発施設
こうしたさまざまなモビリティの研究開発は、各地域のお客様ニーズに根ざして行なうべく、グローバルに研究開発拠点を整備している。すなわち、日本、北米・中南米、中国、アジア・大洋州、欧州だ。日本には北海道地区、栃木地区、埼玉地区、東京地区、浜松地区、鈴鹿地区、熊本地区の7つの主要拠点がある。
このうち1979年に設立した栃木プルービンググラウンドと、1986年に設立した栃木研究所は、東西1360m、南北1860m、約2.13km2の敷地に研究開発施設とプルービンググラウンドを備えている。
各種テスト走行を行なうプルービンググラウンドは敷地の東側に配置。研究開発を行なう建物は縦横ツリー状の配置とし、設計部門は中央に配置して横方向に展開。研究部門は縦方向の配列とし、テスト結果が速やかに設計部門にフィードバックでき、問題解決がスムーズに行なえるよう効率を考えた配置とした。
Hondaは数々の研究開発施設を活用しながら、世界中のすべての人に「自由な移動の喜び」を提供すべく、チャレンジを重ねている。Hondaの研究開発施設はいくつもの困難を乗り越え、多くのモビリティで多くの価値を世の中に提供してきた、Hondaのものづくりが始まる場所である。現在もまさに、新たな技術、新たな商品が生まれようとしている。