数多くの新技術を導入した6代目
SC79の電装系パーツのイメージ図
6代目のゴールドウイングとして、2018年から発売を開始したSC79は、スロットルバイワイヤや4種類のライディングモード、7速ミッションとウォーキングスピードモードを導入した第三世代のDCTなど、新技術を随所に取り入れています。なかでも先代以前との最大の相違点は、構造をテレスコピック式からダブルウィッシュボーン式に改めたフロントサスペンションです。
四輪で採用例が多いダブルウィッシュボーン式サスペンション
四輪とは90度異なる角度で設置するダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを二輪で採用した最大の理由は、限られたスペースを有効に活用して、理想の車体パッケージングを実現するためです。そしてその背景には、水平対向6気筒エンジンは上部にショックユニット用のスペースが確保しやすく、ダブルウィッシュボーン式との相性が良いという点がありました。
車体パッケージングのイメージ図
ダブルウィッシュボーン式の利点
SC79が導入したダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションは、操舵と衝撃の吸収というふたつの機能を分離しています。既存のテレスコピック式フロントフォークは操舵と衝撃の吸収を兼務しているので、車体のバンク中や転舵時は曲げ荷重による摺動抵抗が発生し、スムーズな伸縮を妨げることがありますが、SC79のダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションはふたつの機能が独立しているため、確実な操舵と滑らかな衝撃の吸収が可能です。さらに転舵軸と操舵軸と別軸とした効果もあり、ハンドルグリップに伝わる振動は先代に対して約30%低減しています。
テレスコピック式とダブルウィッシュボーン式の比較
また、構造をスリム化することで先代に対して転舵時の慣性マスを40%以上低減したこと、アッパーアームとロアアームの角度の最適化で自然なアンチノーズダイブ効果が獲得できたこと(先代のアンチノーズダイブシステムはブレーキと連動する油圧式)、転舵軸と操舵軸を別軸とすることで操舵軸の設定の自由度が増したことなども、SC79用として開発したダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションの特徴です。
ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションの利点(先代モデル比)
シリーズ初のメカニズムを採用するにあたって、各部の素材と構成には独自の手法を投入しました。左右一体型のフロントフォークは軽量高剛性化を念頭に置いて設計したアルミダイキャスト製で、その上部のフロントフォークホルダー内部に備わるテーパー形状のステアリングステムシャフトは、スエージング加工で成型しています(上端の外径はφ48mmで、下端の外径φ78mm)。
ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションの各部の名称
四輪のダブルウィッシュボーン式サスペンションでは、可動部の軸受けにはボールジョイントやラバーブッシュを使用するのが一般的ですが、摺動抵抗の低減を徹底的に追求したこのモデルでは、アッパーアームとロアアームの支持部にニードル/ボールベアリングを使用しています。その一方で、転舵軸と操舵軸を連結するステアリングタイロッドには荷重がほとんどかからないため、専用設計のボールジョイントを採用しました。
アルミツインチューブフレームの改革
SC79のアルミツインチューブフレーム
SC79のフレーム形式は、先代と同様のアルミツインチューブタイプです。ただし、形状と製法は先代とは異なります。その主な理由はフロントサスペンションの変更で、ステアリングヘッドパイプ周辺はダブルウィッシュッボーン式に適した構造です。また、剛性バランスの調整や補器類の搭載、万が一の転倒時に緩衝になることを考慮して、ボルトで締結するダウンチューブ(既成のパイプではなく、シラフォント素材の鋳造品)を採用したことも、先代とは異なるSC79の特徴です。
先代のアルミツインチューブフレーム
先代のフレームが、ステアリングヘッドパイプとスイングアームピボットを結ぶ素材に異形4層構造の押し出し材を使用していたのに対して、SC79はすべてを鋳造部品で構成しました。この製法には、板厚の変更による剛性バランスの調整が容易、部品点数の削減(23→4個)、総溶接長の短縮(8.0m→3.6m)、重量の軽減(先代に対して約4kgの軽量化を達成)という利点があり、近年はスーパースポーツやMotoGPレーサーなどのフレームも同様の手法を採用しています。
軽量化とネジレの抑制を実現する技術
スイングアームは片持ち式のプロアーム
リアタイヤの交換を容易にすると同時に、パニアケースの左右幅をできるだけ抑える機構として、ゴールドウイングシリーズは2001年モデルから片持ち式のプロアームを採用しています。SC79は同様の機構を踏襲しながら、新設計のスイングアームとその関連部品には、軽量化やネジレの抑制を実現する技術を取り入れました。
スイングアームピボットシャフト周辺の構造図
なかでも最も重要な点は、スイングアームピボットシャフトの締結方法です。Hondaが過去に生産したVFR1200Fシリーズのような例外は存在しますが、スイングアーム内にドライブシャフトを設置する車両では、ピボットシャフトが分割式になるため、軸受けに与圧をかけるテーパーローラーベアリングを使用し、フレームのスイングアームピボットプレートは与圧が前提の剛性を設定するのが一般的です。そういった構造からの脱却を図るため、SC79は左側のみに締結機能を持たせ、右側はピンの保持のみという構成を導入しました。
プロアームを採用しているので後輪左側はスッキリした印象
締結方法の変更による最大の利点は、フレーム設計の自由度が増し、軽量化が図れることですが、定期的な与圧の管理が不要になることも重要な要素です。そして与圧を考慮する必要がなくなったため、SC79のスイングアームピボットシャフトの軸受けには、他機種で一般的なニードル/ボールベアリングを採用しています。
構造を刷新したプロリンク式リアショックユニット
後輪を支持する構成が左右で異なる片持ち式のプロアームは、ストローク時にわずかなネジレが発生します。この問題を解消するため、SC79はリアサスペンションのリンクプレートを左右で異なる肉厚とし、リアショックユニットの上下には、ラバーブッシュではなく、ピロボールを採用しました。また、リアショックの上部はフレームに直接マウントするのではなく、緩衝材となるコの字型のスチールプレートを介して配置しています。
シリーズ最良の乗り味
1998~2000年モデルのゴールドウイング1500
1975年から発売を開始したゴールドウイングシリーズを、Hondaは時代とともに進化させてきました。なかでも進化の幅が大きかったのは、エンジンを水平対向4気筒から水平対向6気筒に変更した1988年モデルや、アルミツインチューブフレーム/リンク式モノショック/プロアームを初めて採用した2001年モデルです。
2001~2017年モデルのゴールドウイング1800(SC68)
2018年から発売を開始したSC79は、それらと同等以上の進化を実現しました。先代以前で構築したノウハウをベースにしながら、ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを筆頭とする数多くの新技術を採用し、アルミツインチューブフレームやプロアーム関連部品を刷新したSC79は、歴代ゴールドウイングシリーズの中で最良となる乗り味を獲得したのです。
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