まったく新しいパワーユニット制御技術 Honda S+ Shift
Hondaは2025年、独自のハイブリッドシステム「e:HEV」に、まったく新しいパワーユニット制御技術「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」を搭載しました。有段変速さながらのスポーティーなエンジン回転数変化が特長のHonda S+ Shiftですが、真の狙いはそこに留まりません。ハイブリッドシステムのなかに仮想のトランスミッションを構築し、そこに、Hondaが培ってきたパワーユニット制御技術のノウハウを惜しみなく投入することで、あらゆる走行状況において、クルマとシンクロする一体感を生み出すこと。操る喜びをまったく新しい次元に引き上げることに真の狙いはありました。
Hondaらしい操る喜びを追い求めて
操る喜びは、いつの時代も変わらないHondaの不変の哲学です。クルマづくりの基本思想である「M・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum、マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」とともに大切に受け継がれ、Hondaはそれらを進化させることで新しい価値を生み出してきました。
では、操る喜びとはいったいなんなのでしょう。生身ではなし得ない高い能力を手に入れた拡張感。思い通りに走れたときの達成感。これまで多くの研究者が論文にまとめ、近年では脳波による評価法の開発も進んでいます。しかし、操る喜びの正体を解き明かすのは難しいのかもしれません。なぜなら、「喜び」は個人のもの。一人ひとりに違った喜びがあり、もしかしたら、「運転に喜びなど望まない」と考える方もいらっしゃると思えるからです。
操る喜びを定量的に解明することは難しくとも、一人ひとりに、それぞれの喜びを発見していただく手助けはできるはずです。だからこそHondaは、さまざまな車種と数々の技術で操る喜びを追い求め続けるのです。
Honda S+ Shiftは、電動化時代の操る喜びを追求するなかでたどり着いた、ハイブリッドパワーユニット制御のひとつの境地。有段トランスミッションが持つ抑揚豊かな加速感・減速感に加え、走行状況に応じたエネルギーマネジメントや変速制御を緻密に行うことで、まさに、ドライバーとクルマがシンクロする一体感をもたらします。
ハイブリッドシステムのなかに仮想の有段トランスミッションを構築する
2013年、ACCORDに搭載されたHonda初の2モーターハイブリッドシステムは、2020年に小型車であるFITに採用され注目を集めました。いわゆるストロングハイブリッドの小型車への展開、刷新されたエンジンやモーターなどに話題が集中するなか、革新的なパワーユニット制御技術として採用されたのが「リニアシフトコントロール」です。加速時にエンジン回転数を段階的に変化させ、有段トランスミッションさながらのリズミカルなエンジンサウンドによってドライバーの感覚とマッチした加速感を提供します。2022年には、エンジン発電の早期化などによって加速応答性を向上させる「ダイレクトアクセル」を加えてCIVICに搭載し、ハイブリッド車における操る喜びをより高い次元へと引き上げました。
Hondaは、これらの制御技術を洗練させ、さまざまな機種へと展開するなかで、独自のハイブリッドシステムが持つ新たな可能性を見出します。高効率領域の広さが特長のエンジンを縦横無尽に使い切ることで、走りをさらに魅力的にできるという確信です。
リニアシフトコントロール特性イメージ

ダイレクトアクセル特性イメージ

リニアシフトコントロールは、強い加速の際にエンジンを加速に必要な回転数まで上昇させた後、車速とエンジン回転数をリニア(直線的)に上昇させることで、ドライバーの感覚とマッチした加速を実現しています。“リニアな上昇”が核であることから、エンジン回転数をどの程度に制御するかは走行状況によって異なります。これに対しHonda S+ Shiftは、ハイブリッドシステムに仮想の有段トランスミッションを組み入れるという発想から開発をスタートさせました。仮想のギア段に基づいてエンジンを制御すれば、加速時のみならず減速時にも段階的なエンジン回転数変化を行うことができます。すなわち、有段トランスミッションの抑揚豊かな変速フィールをリアルに表現することが可能です。そこに、AT車のプロスマテック※1やCVT車のブレーキ操作ステップダウンシフト制御※2など、Hondaが培ってきた変速制御技術のノウハウを融合すれば、ドライバーの感覚にマッチするタイミングでの気持ちよい変速を表現でき、「e:HEV」というハイブリッドシステムの価値を、1ランクも2ランクも高い次元に引き上げることができると考えました。
システム制御の違い(概念図)

※1 1992年発売のインスパイアとビガーに初搭載したHonda独自の変速スケジュールシステム。
※2 一定以上強くブレーキを踏み込んだ際、CVTレシオを低く制御しながら段階的にダウンシフトしエンジンブレーキによる制動力を確保する制御技術。強い加速を行う際に有段トランスミッションのようにアップシフトする全開加速ステップアップシフト制御と合わせ、2021年発売のVEZELに初搭載。
Honda S+ Shiftのコア技術(ステップシフト制御とスポーツアダプティブ制御)
Honda S+ Shiftは、有段トランスミッションの持つ段階的で小気味よい変速フィールを表現する「ステップシフト制御」と、ドライバーの操作や走行状況に応じたパワーマネジメントや変速を行う「スポーツアダプティブ制御」によって、ドライバーとクルマがシンクロしたかのような一体感を生み出します。
ステップシフト制御(概念図)

ステップシフト制御
ステップシフト制御は、加速時のみならず減速時を含む全領域で、エンジン回転数と駆動力を段階的に変化させ、有段トランスミッションの持つ小気味よい変速フィールを提供します。
アップシフト制御
発電用モーターを積極的に回生発電させることで、エンジンにとってのフリクションを増大させエンジン回転数を素早く下降。同時に駆動用モーターの出力を瞬間的に低下させます。これらにより有段トランスミッションのアップシフトフィールをリアルに表現し、ドライバーの加速操作に対するフィードバックを行います。
アップシフト時のエンジン回転数制御(概念図)

ダウンシフト制御
低いギアへシフトチェンジする際、発電用モーターの回生発電量を調整し、エンジン回転数を鋭く上昇させることでブリッピングを演出します。走行状況によっては駆動用モーターの出力を瞬間的に低下させ、有段トランスミッションのダウンシフトフィールをリアルに表現します。
ダウンシフト時のエンジン回転数制御(概念図)

スポーツアダプティブ制御
スポーツアダプティブ制御は、ドライバーの操作、車両前後G、横G、勾配情報などから走行状況を判断し、ダウンシフトの早期化やシフトホールドなどを行います。これらにより、旋回中の加速でもエンジン回転数を高く維持し、コーナー脱出時に優れた加速応答性を発揮させます。
スポーツアダプティブ制御(概念図)

アーリーダウン制御
ドライバーのブレーキ操作に対し、ダウンシフトを早期化しエンジンを高回転化。積極的な発電によって電力を十分に蓄え再加速に備えます。
コーナリングホールド制御
旋回加速時、旋回力の高まりに応じてアップシフトタイミングを変更します。仮想ギアをホールドすることで駆動力とエンジンサウンドのリニアリティーを高めクルマとの一体感を向上。エンジン回転数を高く維持することで、コーナー脱出時に優れた加速応答性を発揮します。
制御ロジックと制御フロー
Honda S+ Shiftの制御ロジックは、2代目NSXの9速DCTや北米向けの10速ATを含め、Hondaが「人間中心」の思想に基づいて開発してきた有段トランスミッションの膨大なノウハウを駆使して開発されています。したがって、仮想ギア段の数やギア比、他機能との連動などを自在に組み合わせて制御設計することが可能。車種ごとに最適なHonda S+ Shiftを構築することができます。
Honda S+ Shiftのスイッチをオンにすると、ドライバーのアクセル・ブレーキ操作、および、車速、横G、勾配などの車両状態から、ドライバーが求める駆動力に必要な仮想ギア段を選定。選択した仮想ギア段と車速によってエンジン回転数を規定することで、ステップシフト制御などによる高い連動感をつねに実現します。また、高効率領域が広いエンジンの優位性を生かし、走行シーンやバッテリーの充電状態に応じて、目標とする発電量とエンジントルクを幅広く可変させることでスポーツアダプティブ制御を実現しています。こうした緻密な制御によって、「e:HEV」の優れた環境性能を生かしながら、操る喜びを新しい次元に引き上げます。
車両全体で操る喜びを表現する
まるでドライバーの意思を汲み取ったかのように、絶妙なタイミングで有段トランスミッションの爽快さを演出するHonda S+ Shift。その魅力は、Hondaが持つさまざまな技術と融合することで、さらに高まります。たとえば、アクティブサウンドコントロールシステムと連動させ、車内により一層迫力あるエンジンサウンドを提供することが可能。走りのテイストを選択できるドライブモードスイッチと組み合わせることで、昂りをもたらすSPORTモードから静かで上質なComfortモードまで、それぞれの走りをより際立たせることができます。Honda S+ Shiftは、Hondaならではのパワーユニット制御技術であると同時に、操る喜びを車両全体で表現するための核となる技術です。
PRELUDE搭載 「Honda S+ Shift」
※情報は順次更新予定です。
Honda S+ Shift初搭載となるPRELUDEでは、パドルシフトと連動させDCTライクなシフト体験を可能としたほか、メーターやアクティブサウンドコントロールとの連動により、五感に響く一体感を追求。スペシャリティー・ハイブリッドスポーツとして操る喜びを最大化しました。


F1と同じ8速に刻んだ仮想ギア段
仮想の有段トランスミッションであるHonda S+ Shiftは、ギア段数や公比(ギアとギアの間隔)を自由に設計することができます。PRELUDEでは、搭載する2.0Lエンジンのハイブリッドシステムにおけるもっとも爽快なシフトフィールを追求し、8速に設定。官能的なステップシフトを実現するとともに、トップギア走行時のエンジン回転数をエンジンモード時のエンジン回転数と近似にすることで、ハイブリッドモードとエンジンモードのスムーズな切り替えをも可能にしました。
PRELUDEの仮想ギア段と公比設定
スポーティーな操る喜びを最大化するパドルシフト
減速セレクターのパドルスイッチを応用し、e:HEV車としてはじめてパドルシフトを搭載しました。Honda S+ Shiftオフ時は減速セレクターとして機能し、Honda S+ Shiftをオンにすることで自動的にパドルシフトへと機能を移行。ステアリングホイールから手を離すことなくシフトチェンジが楽しめます。
全ドライブモードで選択可能
PRELUDEは、3つのドライブモードと、設定を自分好みに組み合わせて登録できるINDIVIDUALモードを搭載。それらのすべてでHonda S+ Shiftを選択可能としました。SPORTモードでは、こころ昂る走りをさらに増幅させ、COMFORTモードではエンジン回転数を抑えたおだやかなモード特性に力強さを加え、より扱いやすく上質な走りを実現します
PRELUDEのドライブモードとHonda S+ Shiftオン時の比較
操る喜びを視覚に訴える専用デジタルグラフィックメーター
PRELUDEでは、操る喜びを視覚的にも訴えるために専用のデジタルグラフィックメーターを新開発しました。Honda S+ Shiftオン時はパワーメーターがタコメーターに切り替わり、エンジン回転数の変化をわかりやすく伝えます。パドル操作時は、選択中の仮想ギア段の表示に加え、パドル操作に合わせてガイダンスマークを表示し、パドルシフト状態であることを視覚的に確認できるようにしました。また、ドライブモードごとに異なる基調色でメーターパネルを表現し、各モードにふさわしい演出を行っています。
一体感を高めるアクティブサウンドコントロール
エンジン回転数と同期したサウンドをスピーカーから発することで、エンジンサウンドの質を高めるアクティブサウンドコントロールを採用しました。Honda S+ Shiftの魅力を最大化するために、従来よりも低い回転域から作動させエンジンの存在感を強調。独自のサウンドチューニングにより、低回転域から高回転域まで、クルマと対話しているかのような一体感を生み出します。
ブリッピングサウンド
ダウンシフト時のブリッピングでは、エンジン回転数の高まりに呼応してサウンドを瞬時に立ち上げ、キレよく収めることで、エンジンレスポンスのよさを強調。音質や前後スピーカーの音圧バランスも吟味し、リアルなブリッピングサウンドを追求しました。
緻密なサウンドチューニング
心地よいサウンドを濁りなく届けるため、ノイズクリーニングを行ったうえで、回転域に応じて緻密にサウンドをチューニングしました。低回転域では排気音成分である2次音を強調することで迫力のあるエンジンサウンドを創出。中回転域では、周波数や音圧の変化にリニアリティーを持つ倍音成分を、アクセルペダルの操作に対し素早く立ち上げることで軽快感を演出しました。さらに高回転域では、倍音を重ねたクリアなハーモニックサウンドでエンジン回転数の伸び感を高めながら、レッドゾーン近くでは7次音成分を加えることで限界走行の高揚感を演出しています。
一体感を高めるアクティブサウンドコントロール