2026.08.20

マイクロショベルが静かに動く
HondaのeGX高出力モデルが変える建設現場の常識

マイクロショベルが静かに動くHondaのeGX高出力モデルが変える建設現場の常識

電動パワーユニット「eGX」に新ラインアップ、より高い出力帯の作業機まで対応

長年にわたり、建設現場などに動力源として提供してきたHondaの汎用エンジン「GX」シリーズ。そこで獲得した高い信頼性を電動でも実現するため、2021年に電動パワーユニット「eGX」(GXE2.0、最大出力1.8kW)を発売し、ランマーやプレートコンパクターといった小型の締め固め機を中心に搭載されてきました。

建設現場などでとりわけ過酷な使用環境となる小型機からあえて着手し、そこで培った耐久性を土台に、順次ラインアップを拡大する道筋を描いてきた中で、ついに、モーター単体の最大出力8.7kW(システム最大出力6.4kW)を誇る「GXE9.0D」を筆頭に、6.0kWの「GXE6.0D」、3.7kWの「GXE4.0D」の高出力モデル3機種のOEM供給を2026年秋に開始します。これにより、高出力帯の建設機械などへの搭載が可能となり、eGXシリーズの適用領域が大きく拡大します。

Hondaが目指すカーボンニュートラルの実現には、電動化が欠かせません。これまで二輪で培ってきた電動化の技術を建設業界にも波及させる試金石となるのが、このeGXの高出力モデルなのです。

(左から)E-Drive、バッテリーボックス、Honda Mobile Power Pack e:

(左から)E-Drive、バッテリーボックス、Honda Mobile Power Pack e:

汎用パワーユニットのラインアップ

汎用パワーユニットのラインアップ

新型eGXが工事現場の「排出ガス」と「音」を変える

eGXの新モデルが視野に入れるのは、従来、汎用エンジン「GX390」(最大出力8.7kW級)相当のパワーを必要としてきた小型の建設機械です。これまでエンジン搭載の建設機械は、「排出ガス」と「音」に課題を抱えてきました。夜間工事の騒音トラブルだけでなく、住宅地や病院、さらには学校や寺社、墓地などの付近では環境配慮に加え、昼夜を問わず周辺への騒音に配慮した高い静粛性が求められるため、使用する機械や作業時間に制約が生じ、施工計画の難易度が高まる場合があります。電動化による減音は、騒音への配慮が求められる現場の作業範囲拡大にも期待できるため、結果として工期短縮につながる可能性もあります。

トンネルや地下・屋内などの閉ざされた作業空間では、労働安全衛生法などに基づく通気量・換気の規制によってそもそもガソリンで動く機械が使えない場合があり、機械化が発展した現代においても土砂をスコップですくうといった人力作業が発生しています。業界で人手不足が深刻化する中、電動化による排出ガスゼロの実現によって、換気に関する規制への対応や作業の効率化、さらには新たに機械化できる作業領域の発見にも可能性が見出されています。

電動化のメリットは、工事現場だけでなく、工事に携わる作業者にも及びます。モーター始動操作の容易さ、整備や消耗品交換などのメンテナンス作業の負荷軽減、振動の低減など、現場の電動化は作業者負担を減らすことにも寄与する革新的な製品と言えます。

eGXの高出力帯への展開は、電動化による建設機械の静粛性向上や環境への配慮だけでなく、作業者の用途・要望に応じた新たな選択肢が広がります。

電動二輪の心臓部を建設機械へ

eGX高出力モデルのモーターユニット

建設現場を次のフェーズへと導くeGXの高出力化には、Hondaの電動二輪の技術が寄与しています。新たに開発したモーターは、電動二輪の開発技術をパワープロダクツ製品用に転用・最適化することで、3.7kW・6.0kW・8.7kWという3つを用意しました。

電動二輪との関わり方はグレードごとに異なります。中間モデルの「GXE6.0D」(連続定格出力3.8kW、最大出力6.0kW)は、電動二輪の開発チームと共同でつくり上げたモーターそのものを搭載しています。一方、最も出力が低い「GXE4.0D」(連続定格出力2.1kW、最大出力3.7kW)と最も出力が高い「GXE9.0D」(連続定格出力7.0kW、最大出力8.7kW)は、「GXE6.0D」のモーターをベースに、パワープロダクツ開発チームが主体となり、出力に合わせて最適化を図りました。

eGX高出力モデル3グレードのモーター構成

3つのグレードのつくり分けを支えているのが、モーターの核となるローター(回転子)とステーター(固定子)の積層厚と巻線パターンの調整です。「GXE6.0D」をベースに、ローターとステーターの積層を厚くして「GXE9.0D」を、巻線のターン数(巻き数)を減らし「GXE4.0D」をそれぞれ開発。電動二輪と共用する「GXE6.0D」は二輪で使用頻度が高い高回転域に効率の良い動作点※1を設定していますが、「GXE4.0D」と「GXE9.0D」はパワープロダクツ製品での使用頻度が高い低回転域に動作点を寄せることで実用域でのエネルギー効率となるように専用設計をしています。

※1 動作点:モーターの発生トルクと負荷となる機械を動かす必要トルク、および回転数が釣り合い安定して駆動するポイント

eGX高出力モデルの出力曲線

また、ローターとステーターの構成には、ハイブリッド除雪機「HSS1170i」(2003年発売)でHondaとして初めて開発し、電動カート「モンパルML200」(2006年発売)にも採用した「IPM(Interior Permanent Magnet=埋め込み型永久磁石)構造ローター」と「分割コアステーター」の技術が応用されています。積層したケイ素鋼板の間に磁石を挿入したIPM構造ローターを採用することで小型でも高出力を実現。分割コアステーターは、一極ずつ板状に成形してからジグソーパズルのようにつなぎ合わせて円環状にする特殊な製造方法で、IPM構造ローターとの最適化を図ることで回転の滑らかさと高出力化を両立します。

ローターとステーターの構成

ローターとステーターの構成

粉塵と衝撃に耐える堅牢設計と2段階冷却

建設機械が使われる現場は、二輪や四輪以上に電動パワーユニットにとって過酷な環境です。巻き上がる粉塵、衝撃や振動による負荷。建設機械の動力としての信頼性確立のため、それらに耐え抜き、動き続けられるよう、Hondaが供給する各コンポーネントは、防塵・防水性能を示すJIS保護等級(IP55※2)、および欧州の可変速電力ドライブシステムの規格に準拠しています。塵や埃が侵入しても電子機器の動作に問題が生じにくく、あらゆる方向からの噴流水による影響も受けにくい耐久設計です。

※2 IP55:国際規格IEC 60529に基づく、電子機器などの防塵と防水に関する程度を示す保護等級表示。数字の1桁目は第1特性(粉塵の侵入保護)、2桁目は第2特性(防水性能)を示す

こうした耐久性能は、供給するコンポーネントごとに試験を設定し、「砂塵の中で稼働させる」「上に人が乗る」「落下させる」「蓋の開閉を繰り返す」※3など、建設現場で実際に起こり得る使われ方を想定した上で、さらに厳しい要素を加えた耐久テストで確認しています。

※3 実際のご使用にあたっては同様の行為はお控えください。

Honda Mobile Power Pack e:

Honda Mobile Power Pack e:

電源として採用した交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパック イー 以下、モバイルパワーパック)」は、そもそもハイブリッド車などの開発で培われた衝撃吸収構造、二重の防水構造など高耐久性を備えています。さらに、バッテリーを収めるケースをパイプフレームで堅牢に囲い込むことでバッテリーボックスの剛性を確保し、その耐久性能を高めています。

パイプフレームを中心とした堅牢な構造で様々な完成機の搭載レイアウト要求に応える

パイプフレームを中心とした堅牢な構造で様々な完成機の搭載レイアウト要求に応える

冷却面もまた、従来モデルから大きく変わった点です。「GXE2.0」がモーターの軸に直結したファンを常時回転させて冷却していたのに対し、高出力モデルは独立した電動ファンを組み込みました。これにより、モーターへの稼働負荷が低いときは、ファンを止めて静音運転ができるようにしました。加えて、最も出力の高い「GXE9.0D」は、ユニット内にファンを追加することにより放熱性能を向上。内部で熱を攪拌することで、モーターを包む前後のカバー双方から熱を逃がす2段階の冷却構造にし、連続高出力時の温度上昇を抑えています。

E-Drive分解図

E-Drive分解図

モーター・バッテリー・制御ユニットを「セパレート供給」する開発自由度の高み

高い性能と耐久性を追求して開発された高出力モデルのeGXが、もう一つ重要視したのはユーザビリティです。「E-Drive」「モバイルパワーパック」「バッテリーボックス」「EEU(エレクトリカルイクイップメントユニット)」「インターフェイス(モニターやスピードコントロールなど)」「バッテリー充電器」の6種のコンポーネントを分離した状態で供給するセパレート方式を採用しました。eGXを用いて建設機械を製造するメーカー側が動力部として独自に用意するのは、各コンポーネントをつなぐハーネスとシステム起動用の12Vバッテリーのみ。コンポーネント間の接続部(カプラー)には入手性の高いカタログ品を中心に採用しており、メーカーが自社で使い慣れたハーネス製作のノウハウをそのまま活かせるよう配慮しました。

OEM作業機への搭載イメージとHonda供給コンポーネント
eGXを利用した電動建機・機器の実装例

セパレート方式を採用した背景は、大型作業機への搭載を想定し、多様な要望に応えられるレイアウトの自由度を生み出すため。各コンポーネントを完全に切り離すことで、モーターやバッテリーボックスの配置をメーカーが自社機の限られたスペースに合わせて自由に組み込むことができるようにしました。

交換式バッテリーとしたメリットは、建設機械の稼働時間にも貢献します。連続定格出力の範囲内であれば継続して稼働できるため、あらかじめ充電しておいたバッテリーに入れ替えることで、充電待ちのために長く手を止めることなく作業を再開することが可能となります。

ほかにも、作業の内容や時間が決まれば確保すべきバッテリー数も想定が可能となります。また、同じeGXシリーズを搭載した電動ショベルや電動ローラーであれば、現場で機械同士がバッテリーを共有できるなど、実働の中でのメリットは広範に及びます。さらに、無理な急速充電はバッテリーの短命化にもつながるため、交換式バッテリーでの運用であれば、メンテナンスの優位性向上に繋がります。

eGXで電動化をリードしていく

1983年に発売された汎用エンジンGXシリーズは、「自らの技術で人の役に立ちたい」という創業者の想いから生まれた自転車用補助エンジンに原点があります。1953年に、二輪車を動かすそのエンジンの評判を聞いた農機メーカーからの要望で初の汎用エンジンを開発し、Hondaにパワープロダクツ事業が誕生しました。1983年には、当時の常識だったサイドバルブ機構に対してOHV機構※4を取り入れながらもコンパクトなパッケージングを実現し、高効率と搭載性を両立するという答えを示したGXシリーズ最初のモデル「GX110/140」を発売、以来約40年にわたってGXシリーズは汎用エンジンの代名詞であり続けています。今回のeGX高出力モデルも、建設機械の電動化という業界の要望から、電動二輪で培われた技術を組み合わせ、過酷な現場で耐え、高効率と搭載性を両立する電動ユニットに仕立て上げた点が、汎用エンジン誕生の軌跡とよく似ています。

※4 OHV(Over Head Valve)機構:吸排気バルブをシリンダーヘッド上部に配置する方式で、GXエンジンが1983年に採用。技術的には存在していたが、それまで主流だったサイドバルブ機構に対して高出力化と低燃費を両立させた

eGXの利点として、セパレート方式が与えるインパクトは大きく、Honda側はコンポーネントごとに改良やモデルチェンジができ、OEMメーカーは一部だけ付け替える、使うなどの自由さがあります。すでにその動きは始まっていて、モバイルパワーパックとバッテリーボックスといった一部コンポーネントだけを用いた投光機などが開発されており、東京都千代田区で2028年に竣工予定の「Torch Tower(トーチタワー/TOKYO TORCH内)」の屋内建設現場で活用されています。

さらに、想定を超えて広がっているのが、トルク特性が近いディーゼルエンジン(500~600cc級)の置き換え需要です。低回転域から大きなトルクが出せるため、手押し式のハンドガイドローラーや0.5~1tクラスのマイクロショベルなど、従来ディーゼルエンジンを搭載してきた小型建設機械からの引き合いも多く、開発チームも「当初想定以上の需要」と胸を弾ませます。

Hondaは、eGXという統合システムを提供することで、OEMメーカーによる電動化開発の負担を軽減し、環境への配慮と開発期間の短縮に貢献しようとしています。道路や住宅地の夜間工事をはじめ、屋内や坑道など、これまで要求水準の高かった現場に「静かで排出ガスのない動力」を届けること。それは、「役立つ喜び、もっと広げたい」という創業者の想いを引き継ぐパワープロダクツ事業が一貫して大切にしている姿勢の延長線上にあります。GXが汎用エンジンの新たな基準になったように、eGXもまた、建設業界の電動化を下支えする標準になっていくことを、Hondaは目指しています。

モーターユニット 主要諸元

モーターユニット 主要諸元

eGXシリーズ
※最大出力は、モーターユニットと「Honda Mobile Power Pack e:」を組み合わせた場合の値。「GXE9.0D」はモーター単体の最大出力8.7kWに対し、バッテリー2個の出力上限により、システムとしての最大出力は6.4kW。「GXE4.0D」もモーター単体の最大出力3.7kWに対し、バッテリー1個の出力上限により、システムとしての最大出力は3.0kW。

今回話を聞いた技術者

德備 広太

eGX中大型シリーズ開発責任者



テクノロジーHondaのeGX高出力モデルが変える建設現場の常識