アイドリングストップの効果は、“環境”と“省燃費”だけではない。
アイドリングストップ──聞き慣れた機能であり、実際4輪車ではすでに多くのモデルに採用されている。だが、このアイドリングストップ機能を、2輪車でラインナップしているのは現在Hondaだけだ。
交差点などで一定時間以上停止した時、エンジンが自動的に停止する。それにより、ガソリン消費量が減り、エンジン燃焼時に排出する二酸化炭素や一酸化炭素、炭化水素などを“ゼロ”にするのだ。つまり、アイドリングストップ機能は、お財布と地球に優しいと言うことだ。
だけど、実はそれだけではない。とても爽快感が味わえる機能でもあるのだ。
アイドリングストップ機能──その効果と爽快感を探る
“アイドリングストップ”──、効果は“環境”“省燃費”だけではない。
走って解った、その瞬間に広がる爽快感を教えよう。
ある日、モーターサイクルジャーナリストの松井 勉さんは、PCX150のリアシートに奥様を乗せて買い物に出かけた。信号で止まると、PCX150に装備されているアイドリングストップ機能が作動した。
横断歩道を、仔犬が渡っている。「カワイイね」「あのしっぽ見て!」──他愛もない会話が続いた。
そして松井 勉さんは気がついた。アイドリングストップ機能というと“環境に優しい”とか“ガソリンが節約できる”とかの効果が上げられる。
だけど、それだけじゃないんだ、と──。
ある日、僕はPCX150で二人乗りを試すことにした。人気のPCX(125cc)の兄貴分がどんな走りをするのか興味があったからだ。なにも遠出する必要はあるまい。市街地を走れば加速性能やブレーキ性能、乗り心地などバイクのフィーリングが手に取るように解る。理由を内緒にして妻を「買い物つきあうよ」と連れ出したのだ。
家を出て数分と掛からず信号で止まることになる。PCXに装備されているアイドリングストップが作動した。
その時だった。犬好きの二人は、小型犬が歩道の上をチャチャチャとツメ音をたてながら散歩する姿に視線が釘付けになっていた。犬がクンクンと匂いをかぎ、街路樹に挨拶したら、その根元から生えている草でクシャミをした。そんな犬の日常が音としても伝わってきたからだ。「かわいいね。あのしっぽ見て!」
この後もこんな他愛もない会話がいくつもあった。
こんな会話が成立するなんて……。夫婦の時間はやっぱりいいね、と考えるのが普通なのだが「何故、市街地の交差点という喧騒の中、会話が弾んだのだろう……?」という新たな疑問がわき上がっていた。
仕事柄、悪いクセなのだがやっぱり疑問の答えを捜したい。彼女が買い物している間、僕はその分析に取りかかっていた。そしてハタと気が付いた。
これはアイドリングストップの効果だと!
アイドリングストップ──これはすでに聞き慣れた機能になりつつある。その効果は交差点など一定時間以上停止する場合、車両のエンジンを自動的に停止させ、ガソリン消費量とエンジン燃焼時に排出される二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素などの排出をゼロにする、というもの。簡単に言うとアイドリングストップはお財布と地球に優しい機能なのだ。最近の4輪車では多くのモデルに装着され販売されている。
このアイドリングストップ機能を、2輪車でラインナップしているのは現在Hondaだけだ。
僕自身がアイドリングストップを初めて体験したのは、20年ほど前、取材で出かけたドイツ、スイスでのこと。市街地の交差点が赤になり停車すると一斉に皆なエンジンを止める。そして青になるとエンジンを始動し走り始める。地球環境という視点から考えれば見事な意識に感心すると同時に、エンジンを止めないと悪い事をしているような気分になり周りに合わせエンジンを止めた記憶がある。
案内をしてくれた人に聞けば「そう決まっているからさ」と教えられた。赤信号での停車中、アイドリングしているより排気ガスが出ない分、有害物質は排出されないし燃料も節約できる。良いことではないか。カブれやすい僕は帰国後、それを実行することした。
赤信号のたびにエンジンを止める。当時日本でアイドリングストップをする人は少数派だった。だからエンジンを止めると同乗者は驚いて聞いた。「どうしてエンジン止めるの? ガソリンが足りないの?」と。
「アイドリングストップをヨーロッパで体験して、感動したんだ、だから自分もやろうと思って。むしろ空気の節約だね」
相手はキョトンとした顔をする。「変わっているのね、アナタは……」という思いが顔に出るのを僕に悟られないよう作り笑顔になる。その後、毎回説明しなければならないのが面倒になり一人で乗っている時しかアイドリングストップをしなくなった。バイクで走るときはそれでも励行していた。渋滞中の頻繁に動く、止まるがある東京ではその操作そのものが頻雑だった。環境のため、環境のため、と頑張った。だが発進時にまわりの迷惑にならぬよう、エンジンを掛けるタイミングに集中する必要があり、それがストレスになった。だから次第にアイドリングストップの回数は減っていき、そして忘れることになった。自分の意思だけで貫徹するのは大変だ、とつくづく思った経験がある。
だからこそ思う。このPCXに装備される“アイドリングストップ機能”はスバラシイ。誰かに説明する必要もないし、マシン任せで環境保護と燃料の節約が自動的にできるのだから。
Hondaの“アイドリングストップ”が優れモノだという事を少し解説させてほしい。
まず操作が簡単。ハンドルに着いているスイッチをオンにするだけだ。あとはいつもと同じだ。エンジンの冷却水の温度が上昇し暖機運転が完了したと判断すれば、自動的に信号待ちなどでアイドリングストップ機能が作動する。
バイクが停止後、といっても交差点の一時停止や停止後Uターンをする場合もあるから、停止後に一定時間(数秒後には)を置いて機能が作動するように設定されている。この時間設定が実に絶妙なのだ。
そして青信号に変わる、あるいは前のクルマが動き出したタイミングでいつものようにアクセルを右手で捻れば、センサーがそれを感知し魔法のようにエンジンが再始動し走り出す。PCXのそれはどこにももたつき感はない。ストレスフリーなのだ。
このアクセルを捻った瞬間、間髪を入れずに再始動するエンジンにはもう一つ大きな特徴がある。Hondaの現行2輪用アイドリングストップには、“キュルキュルキュル”というスターターモーターの音がない。音もなくエンジンが再始動する。これが実に気持ち良い。これはエンジンが回している発電機=ACジェネレーター(通称ACG)をそのままスターターモーターとして活用する独自の技術によるものだ。ギアなどを介してエンジンを回す必要がなく、磁力による非接触方式で始動(クランキング)させる。それが回す時に出る始動音“キュルキュルキュル”がない主因だ。ライダーなら、スターターの音を聞くと、頭のどこかで「ちゃんと掛かってくれよ」と祈る気持ちになる。キュルキュルがないだけでその心配事から解放される。これがストレスフリーな気分になれる二つ目の理由だ。
つまり、PCXをはじめ、PCX150、Sh mode、Lead125などに装備されるHondaの2輪用アイドリングストップはストレス無く自動で環境に貢献する装備ということだ。
話を冒頭の「会話が弾んだ」ことに戻すと、それはエンジンが止まることで訪れる静寂がもたらす効果なのだ。
市街地の喧騒にあってもエンジンが停止することでバイクの二人には静けさが訪れる。それが犬の足音を耳に届けたのだ。もし、エンジンが掛かっていたら僕はそれに気が付いていなかっただろう。ライダーはエンジンが掛かっている時、信号が変わる瞬間を待つことに集中している。そこから会話をはじめるとしても、後ろから肩を叩かれ「え?なぁに?」と、声だけを聞こうとして、視線を動かすことは無かったかもしれない。つまりアイドリングストップでもたらされた静かさが気持ちのゆとりと周りで起こっていることをタイムラグ無しに二人に共有させたのだ。だから短い会話の中に詰まる充実感がまるで違う。会話のチャンスが増え移動がまるでデートのように変化する歓びも味わえるのだ。
ほかにもアイドリングストップの意外な効果がある。例えば東京の市街地でアイドリングストップを体験すると、街路樹から鳥の鳴き声がしたり、歩道の上を落ち葉が風に吹かれて転がる乾いたカサカサカサ、という音、夏なら街路樹が風になびく葉音もしっかりと耳に届く。虫の鳴き声が聞こえたりすると“街にある自然”を意識できる。瞬間のリラックスだ。
また周囲の音が耳に届くから横断歩道をめがけて駆け足で近寄る人の存在も音で察知できる。察知力の向上は安全運転への配慮する大切さにも気付かせてくれた。
PCXの排気音、メカノイズは十分静かだがエンジン音とその存在が振動として伝わっている時とエンジンが停止している時では、環境性能向上はもちろん、二人の会話が弾んだり、周囲に気配りができたり環境性能以外の効能も大きいのだ。こんな発見ができるなんてスゴイ技術だと僕は思う。
聞くところによると、アイドリングストップ装着車ユーザーの中でアイドリングストップ機能のスイッチをオフにして乗っているライダーもいるそうだ。エンジンを止め、スターターモーターを多用するとバッテリーがあがるのではないか、とか、発進時にもたつくのではないか、と心配する向きかもしれない。しかし、そうした心配はメカニズムがきちんとカバーしている。このエンジンが止まることで訪れる様々な効果を考えると実にもったいない、と思う。環境や燃費にいいだけじゃなく、エンジン停止中の静寂がこんな効果があるんですよ、と力説したい。
それでも発進でもたつくのが心配だ、という方にはお店で試乗する事をお奨めしよう。またエンジン停止時状態の静かさを知りたいのであれば、市街地にあるショップの店頭で、バイクに跨がるだけで疑似アイドリングストップは体験できる。この高性能と爽快感に触れるのは、意外に簡単なのである。
User Reviews
アイドリングストップ機能を、ユーザーたちはどう感じてるのだろうか? “on-off”スイッチで切り換えているのだろうか?
PCXやリード125、SH modeなどを所有しているユーザーたちに訊いてみた。
PCX
30歳 男性
最新モデルはバッテリー電圧が低下すると、アイドルストップを自動でキャンセルしてくれるので、常にスイッチONでも安心です。ところでHonda車以外、オートバイにアイドリングストップが普及しないのはなぜなのでしょうね。
30歳 男性
例えばゴミは分別、資源として再利用可能なものはリサイクル。それが普通の今、クルマに多いアイドリングストップ機構を持つバイクで検索したらHondaのこのモデルにたどり着きました。環境性能で選んだモビリティーですが、移動する時の楽しさに夢中です。パーソナルモビリティーも環境性能で選ぶ。自分の選択に満足しています。
24歳 男性
最近、アイドリングストップしているクルマが多いですが、エンジン再始動時の“キュルキュル”って音が聞こえる度、“スルスル”っと静かに始動するPCXに乗っていると優越感に浸れます。クルマって遅れてるなぁと。信号待ちで同じPCXに乗っている人とよく遭遇するのですが、アイドルストップ機能を使ってない人をよく見かけます。こんな素晴らしい機構なのにもったいない……。
PCX150
47歳 男性
最新型を普段、通勤で使っています。夜の住宅街の交差点で赤信号待ちしている時、アイドルストップによって訪れる静粛が、何とも言えぬホッとした気持ちにさせてくれます。今までバイクに乗ってきて初めての体験でした。スロットルの動きに対しエンジンが再始動する絶妙なタイミングも感心しています。燃費もとても良く、このバイクを選んで良かったと実感しています。
53歳 男性
本当は大型スクーターを考えたのですが街で見る走りに興味を持ち150という排気量のこのモデルにしました。クラスを越えたデザイン、装備にも満足しています。中でもアイドリングストップの機構は感動的。自分の車にも同様の装備がありますが、感性にピタリとあった再始動性には満足しています。環境性能重視の自分にとって嬉しい装備です。クルマのアイドリングストップはあまり感動がありませんが、PCXのアイドリングストップは一体感や驚きでいつも走る気持ちを満たしてくれます。それが嬉しいですね。
LEAD125
41歳 男性
基本的にアイドリングストップONしていますが、前の信号がすぐ青に変わりそうな時など、交通状況に応じて積極的にスイッチをON/OFFしています。
32歳 女性
ちゃんとエンジンがかかってくれるのかな? 最初は信号待ちでエンジンが止まる度にとても心配でした。今では信号待ちのアイドリングストップは当たり前の出来事。おかげでクルマを運転する時もアイドルストップを心がけるようになりました。この世の中から排出ガスを少しでも減らすことに貢献していると思うと、とても嬉しくなります。
Sh mode
40歳 男性
都市部から近郊への引っ越しを機にモビリティーに活用するため購入しました。デザイン、走り、機能性で選びました。意識の中でアイドリングストップは付帯装備の一つでしたが、使ってみると環境への貢献をしているんだ、と意識がかわってきました。使い勝手が良く違和感はありません。特に発進時のエンジンが掛かるタイミングに満足しています。
38歳 女性
休日の遠出用のバイクとして所有しています。以前何台かスクーターを使っていたので、気軽さが欲しくて買い足しています。時々子供を乗せて二人乗りをしますがアイドリングストップした時、私が何もしてないのにエンジンが止まったり発進時に掛かったりするので不思議なようです。そうよ、マジックよ、と冗談で話が弾みます。環境に良いのはもちろんですが、楽しい瞬間があることも魅力に感じています。
松井 勉モータージャーナリスト
1986年よりインタビュー、試乗レポート、レースレポートの寄稿、など特にモーターサイクルに関する活動を行う。「BAJA1000」や「ダカール・ラリー」などへの参戦経験もある。1963年 東京生まれ。
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