小型二輪用アイドリングストップシステムの開発

※2004年の記事です

信号待ちや渋滞などの停車時にエンジンを停止させて、走行に必要のない燃料消費や排出ガスをゼロにすることをめざした先進のシステム

概要

Hondaは、創業期より4ストロークエンジンへのチャレンジを通して、環境への取り組みを続けてきた。スクーターを含めたすべての二輪車を4ストローク化するなど、低燃費と排出ガスのクリーン化を進め、1999年に、新世代4ストロークスクーターを発表。最新の4ストロークエンジン技術を駆使し、環境対応・基本性能においてスクーターの方向性を示すこのモデルは、COとHCの排出量を1998年の国内排出ガス規制値の約1/2に抑制し、従来車に対して約30%燃費を改善した。さらに、アイドリング時の無駄な燃料消費や排出ガス、振動や騒音を無くす新開発の「アイドルストップ・システム」が搭載され、非搭載モデルに比べ燃費を5.1%向上させている。そして2001年には50ccスクーター初となる水冷4ストロークエンジン搭載車「クレア スクーピー・i」を発売。「クレア スクーピー・i」では、さらに軽量なアウターロータータイプのACGスターターを搭載し、「アイドルストップ・システム」の採用によって、特別な浄化システムを付加することなく、燃費を5.5%向上※、また排出ガスは二酸化炭素で5.2%、一酸化炭素8%、HC2%を低減させることが可能となった。

※国内排出ガス測定モード 運輸省指定のエミッション測定用のモード(市街地走行を想定)

アイドリングストップ機能搭載車種
Crea Scoopy・i

アイドリングストップ機能搭載車種
スマート・Dio デラックス

自動的にエンジンをストップさせて、スロットルを開けるだけで発進する

「アイドルストップ・システム」は、信号待ちや渋滞などの停止時に、各センサーからの情報を集中制御するECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の働きによって自動的にアイドリングがストップし、スロットルを開けるとエンジンが再始動して発進する機構である。

開発のポイント

「アイドルストップ・システム」は、多くのセンサーからの情報をもとに、ECUが集中制御を行ない、スターターモーターとACG(交流発電機)を一体化させクランクと直結したACGスターターの回転を緻密にコントロールすることで、違和感のない再発進が可能となっている。スピードセンサー、サーモセンサー、スロットルセンサー、パルスジェネレータ、着座センサーにより、車両の停止、エンジンの暖気、アクセル開度、エンジン回転数、そして乗員が着座しているかどうかなどの状況を検出する。ECUからの指示によって、暖気状態であれば自動的にエンジンを停止し、アクセル操作が行なわれれば再びエンジンを始動させる。また、システムの状態を知らせるインジケーターランプを点灯させる制御も行っている。

「アイドルストップ・システム」システム構成

アイドルストップ・システムの動作

1. エンジンスタート(初期始動)

最初の始動は通常のスクーターと同様にスタートボタンを押して始動。これは、長期放置後や外気温が低いとき、エンジン冷間時の始動に数秒を要することがあるからである。この状態では停車時でもアイドリングを行う。

2. 走行開始・走行中(アイドリングストップモードへの移行)

初期始動後、発進して車速が一度10km/h以上になったあとで水温センサーが50℃以上になったことをECUが検知すると暖機完了と判断して、次の停車からアイドリングを停止するモードに移行する。

3. 走行停止(アイドリングストップ)

停車し、スロットル全閉で着座していれば点火を停止してエンジンを止める。点火停止は停車してから3秒経過後に行われる。停車してすぐにアイドリングを停止するとUタ-ン時や一旦停止時に煩わしさを感じるため停車後のエンジン停止に遅延時間を設けた。

4. 走行開始(再始動発進)

再発進時はキャブレターに付けられたスロットル開度センサーによりスロットルが開けられたことを検知し、スターターモータに通電するとともに点火を許可する。エンジンの初爆後回転が上昇し、遠心クラッチがつながり発進する。

アイドリングストップ時の付加機能

アイドリングストップでの停車時はスロットルを開けるといつでも発進できる状態であることを運転者に知らせる目的でスタンバイインジケータを点滅させる。アイドリングストップ中はエンジン音が無いので非乗車時は不意に始動しないように乗車検出機構であるシートスイッチを装備。また、ヘッドランプの電圧を制御して消費電力を低減している。

Crea Scoopy・i用メーター

スロットルを開けてから動き出すまで、0.9秒

スロットルを開けてから、遠心クラッチがつながり車両が動き出すまでの時間はアイドリングが有る場合は0.5sec、アイドリングが無い場合が0.9secであり、0.4secの遅れが生じるが実使用上の発進遅れはほとんど感じられない。

スロットルを開けてから発進するまでの時間比

このグラフはスロットルを開けてから車両が動き出すまでの時間をアイドリングが有る場合と無い場合で比較したものである。横軸はスロットルを開けてからの経過時間、左の縦軸はエンジン回転数、右の縦軸は車両の動いた距離である。

静かで違和感のないエンジン始動とスムースな発進

「アイドルストップ・システム」では、アクセル操作を行ったときに始動音が気にならない始動装置と、確実にスターター始動するためにバッテリーが上がらない充電装置、スロットルが開いてからでも再始動出きる燃料供給系を持つことが重要であった。そしてエンジンの始動及び充電の中心となるのは、ACG機能とスターター機能を融合した新開発のACGスターターである。

クランク軸に直結した発電/モーター一体システム、ACGスターター

クレア スクーピー・i ACGスターター搭載エンジン

ACGスターター

アイドルストップの状態からスムースなエンジン始動と発進を行うために、スターターモーターとACGを一体化させて、エンジンのクランク軸に直結したブラシレスACGスターターを開発。エンジンはモーターによってギヤを介さずに直接回転されるため、セルフスターターのようにギヤの飛び込み音やかみ合い音が発生せず、スムースな起動フィーリングが得られる。
このブラシレスACGスターターはアウターローター式でフライホイールにマグネットを持った構造となっている。ステーターは3相巻き線となっており、ECU内に配置されたFETによってDCブラシレスモーターとして駆動される。ローターの位置はローター中央部に配置されたセンサーマグネットとステーターにマウントされたホールIC式アングルセンサーによって検出される。

ブラシレスACGスターター断面図

ACGがスターターモーターとして作動

ローターのマグネットの間には鉄心となるローターコアが配置されている。またステーターは鉄心となるステーターコアにコイルが巻かれている。この構造によりスターターモーターとACGの機能を1部品で両立している。

ACGスタータを駆動するECU

スターターモーター時

特殊な形状のマグネットから出た磁束はローターコアを介してステーターコアに流れる。ステーターコア中には強い磁束が流れてエンジンの始動クランキングに必要な強力なトルクを発生する。

スターターモーター時

ACGとして作動する時

通常はモーターをそのまま高速回転させると過大な発電と鉄損による大きなフリクションが発生し、ACGとモーターの両立は困難である。このACGスターターでは磁石の間にローターコアを配置することによりこの問題を解決している。
マグネットから出た磁束はローターコアとステーターコアに向かって流れる。コイルに発電電流が流れるとステーターコアには逆向きの磁束が発生する。このためにローターコアに向かう磁束が増加しステーターコアへ流れる磁束が減少する。これにより適正な発電量を得るとともに鉄損によるフリクションを減少させることに成功した。

ACジェネレーター時

発電と充電を緻密にコントロール

アイドリングストップ車は渋滞走行などで一時的にバッテリが放電してスターターを回せなくなると発進不能となってしまう。「アイドルストップ・システム」では、そのようなことが無いように充 電出力を通常よりも大きく設定し、渋滞走行をしてもバッテリがあがらないようにしている。

バッテリーが上がらないように設定

アイドリングストップ車は信号待ちなどの停車時にはアイドリング発電がゼロとなるのでアイドリングがある場合よりも発電能力を大きくする必要がある。また、アイドリングがある場合は一時的に充電不足となっても発進可能であるが、アイドリングストップ車ではバッテリがあがると始動装置を作動させられず再発進不能となる。このため「アイドルストップ・システム」ではACGスターターの充電出力をアイドリングストップ状態で渋滞走行をしてもバッテリがあがらないように設定した。

発電フリクションを減少

アイドリングストップではアイドリング発電が無いために、停車時でもヘッドランプなどの電気負荷によって放電する電力が多くなる。このときに使われた電力は、エンジン回転が上昇して発電可能になると即座に回収されるので、発進時には発電に必要な機械エネルギーがエンジンから取られて発進加速性能が悪化する原因となることがわかった。

発電フリクション

発進時の充電電圧をコントロール

発進時の発電フリクションを減少させるために、「アイドルストップ・システム」では発進時にレギュレータの充電電圧を14.5Vから一定時間12Vにすることで充電を遅らせ加速時の発電フリクションを減少させている。こうすることで加速時には充電されず定常走行時または減速時に充電されることになり、特に減速時の充電はエネルギーの有効利用となる。

充電電圧制御

市街地走行モードでの燃費改善と排気エミッションの低減

信号待ちや渋滞などの停車時に自動的にエンジンを停止させることでアイドリング時の無駄な燃料消費や排気ガスをなくす「アイドルストップ・システム」。このシステムによって、特別な浄化装置を加えることなく、国内排出ガス測定モードでの燃費改善と排気エミッションの低減が可能となった。

「アイドルストップ・システム」の効果

このシステムを搭載した50cc水冷4サイクルスクータ-「クレアスクーピー・i」では、システムを搭載しないスタンダードタイプに比べ、市街地走行を想定した国内排出ガス測定モードで燃費を5.5%向上させている。また排出ガスは二酸化炭素で5.2%、一酸化炭素8%、HC2%を低減させている。

アイドルストップ゚搭載車「CreaScoopy・i」での燃費向上と排出ガス低減効果

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テクノロジー小型二輪用アイドリングストップシステム