佐藤

「逆回転」は部品点数が増えて出力という意味では不利な反面、ウィリーを抑制する効果もあります。現時点のタイヤの性能を考えたとき、マルケスやペドロサといった超一流のライダーをもってしても、これ以上の出力はいたずらに難しさを増すばかりで勝利には繋がらない……それよりは、もっと積極的にスロットルを開けていける、安心して「チャレンジ」ができるバイクを目指した方が得策だろうと考えたのです。

宮城

今回、エンジンのパワーもレイン用のセッティングから始まって、最終的にフルパワーの状態まで試すことができましたが、パワーが出ていれば出ているほど、マシンの挙動がイキイキとしていくのが印象的でした。エンジン、車体、電子制御……あらゆるものがうまくバランスされて乗りやすさ、扱いやすさが実現されているのだと感じましたね。

バイクの動きを「予見」できる、
それが「乗りやすさ」

宮城

私が乗ってみて感じたこと。そして佐藤さんのお話。これを組み合わせてみると、市販車であれ、MotoGPマシンであれ、Hondaがこだわっている「乗りやすさ」をひもといていくと「予見ができる」ということに集約できるのだろうな、と思うんです。どうでしょうか。

佐藤

そうですね。まさしくそのとおりです。「予見できる」……つまり「こう操作したらこう動くだろうな」という想像がつくもの。そういうものを目指しているのです。思った通りに動いてくれる。限界を超えてしまったときにも、急にライダーを突き放したりしない。そういうバイクができるとライダーは挑戦できるようになるんですよね。

宮城

なにかを試したときに、バイクが応えてくれると楽しくなる。どんどんポジティブになっていきます。「なんだかよくわからないコレに乗るのか……」と思うと、タイムも出ないよね。でも、予見ができるバイクだったら「次はこうしてみようか」「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」と、発想がクリエイティブになる。この好循環は勝利のためには欠かせませんね。

佐藤

マルケスにしても、ペドロサにしても、Hondaのライダーたちはみんなアクションがハデですよね。ブレーキングでリアが流れたり、挙動が乱れたり……。それでも転ばないのはなぜかというと、「ライダーはああなることが予見できている」からなんです。もっと言うと、その方が速いから、わざとやっていることもあります。

宮城

私が乗ってもピクリともしなかったのが悔しいですがね(笑)。それでも私は私なりのスピードの中で予定を立てていくことができました。ここまでは私の経験の中で対処できるだろう、ここから先はちょっとやめておいたほうがよさそうだ……とね。

佐藤

CBR1000RRに搭載された電子制御などはそのわかりやすい例だと思います。たとえばスロットルの操作に対するパワーの出方を緻密にコントロールする。ウィリーを抑制しよう、というときに「ドン」と落とすのではなくて、ライダーが怖さを感じない制御にしっかりこだわる。
だから、ライダーは操ることに積極的になれるし、何をするべきか、何をするべきでないかを自分で判断できます。MotoGPマシンの制御が凄かったり、なにかに特化しているわけではなくて、Hondaが作りたいものとして共通しているんですよね。

宮城

操ることの楽しさを感じる。自分なりに試行錯誤を繰り返し、「できた」という喜びと経験を積み重ねながらさらにライダーとして成長していく……多くの方がCBR1000RRで体験していることと、私が今日RC213Vで体験したことは、たしかにぴったりと合致していると言えるかもしれませんね。

佐藤

宮城さんに今回「楽しかった」とおっしゃっていただけたのは、まさに私たちの意図するところだったので、本当に安心しました。もちろん、MotoGPライダーがいつでも「楽しい」と思って乗っているかどうかはわかりませんが、人間の気持ちを中心にしてものごとを考えていったとき、そこは決して外すことができません。これからも、「乗りやすさ」がもたらす「楽しさ」の究極の姿を追い求めていきたいと思っています。

宮城

これからも楽しみにしています。ありがとうございました。

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