Hondaの設計思想を継承しながら、進化してきたHondaの船外機。耐久信頼性や経済性に優れた強みを活かしながら、レジャーユースも含めさまざまな水上シーンにマッチする大型船外機を目指し、「BF350」を開発しました。
専用設計の5L V型8気筒エンジンを搭載し、最大出力350馬力の力強い推進力を発揮するBF350は、Honda船外機のフラッグシップモデルです。加速性能や最高速といった動力性能、クラストップレベルの燃費性能※1に加え、航行中も会話がしやすい静粛性や、長時間の乗船でも快適な低振動で、操船アシスト機能と合わせ、質の高い船上体験をもたらします。
※1 2024年1月時点Honda調べ
専用設計エンジンで高出力と低燃費を両立
大型船外機の核となるエンジンには、Hondaの船外機として初となるV型8気筒を採用し、新たに専用設計で開発しました。排気量4,952cm3、最大出力350馬力の高い駆動力を実現し、VTECとの組み合わせによって全域トルクフルな特性を獲得しています。
そのうえで、Honda船外機の独自技術であるO2フィードバック制御や、不等間隔燃焼による気筒ごとの吸入空気量差に対応する8気筒別燃料噴射マップ制御、Hondaの船外機として初採用のプラトーホーニング加工※2などにより優れた低燃費を実現。レギュラーガソリン対応と合わせて優れた経済性をもたらします。
※2 シリンダー内壁をなめらかに仕上げるとともにオイル保持性を高めるシリンダー表面加工
高精度なリーンバーン制御を可能にするO2フィードバック
O2センサーを排気通路に設置することによって、排気ガス中の酸素濃度を検出し、ECUにフィードバック。排気空燃比を正確に推定することで高精度なリーンバーン制御を可能にしています。
船外機は、排気ガスとエンジン冷却水をともにプロペラ部から排出する構造となっており、従来、エクステンションケース内のエキゾーストパイプ先端付近で冷却水(戻り水)と排気ガスが合流する構造が一般的でした。そのため、排気通路に設置されるO2センサーは、低速走行時や急減速時に排気通路内に発生する排気脈動や負圧により、排気通路内に水が吸い上げられ、被水する可能性をもつという課題があります。
そこで、従来のエクステンションケース構造を見直し、排気通路と冷却水通路を分離する構造を採用しました。BF350ではギアケース上端まで排気ガスと冷却水を分離する構造とし、O2センサーをシリンダーヘッドの最上部に配置することで、O2センサーの被水リスクをより低減しています。
低振動と優れた静粛性でクルーズを快適に。新設計クランクシャフト
V型8気筒エンジンは、四輪車ではシリンダーバンク角90°とするのが一般的ですが、クランクシャフトにはシングルプレーンタイプとダブルプレーンタイプが存在します。シングルプレーンは片側4気筒間の排気干渉が少なく高出力が得られやすい一方、2軸2次バランサーがないと振動をキャンセルできません。対して、ダブルプレーンは2次振動が発生しない一方、片側4気筒間の排気干渉が生じるため高出力化に課題があることと、1次慣性偶力をキャンセルするためには1軸バランサーが必要になる特徴があります。
BF350では、振動面で優位性があり、より高級感を演出できるダブルプレーンタイプのクランクを採用していますが、船外機の「多機掛け」に対応するため、船外機の全幅を抑える必要があり、シリンダーVバンク角を60°の設定としています。その場合、8気筒等間隔燃焼を達成するためには右側(R)バンクと左側(L)バンクのクランクピンの間に30°の位相差(オフセット)を設定する必要がありますが、この仕様では1次慣性力、1次慣性偶力をバランサーなしでキャンセルすることができません。
そこで、BF350用クランクシャフトではクランクピンオフセットを60°とすることで、バランサーなしで1次慣性力、1次慣性偶力を完全にキャンセルできる構造を採用しました。また、クランクピンオフセット60°では8気筒が不等間隔燃焼となりますが、これにより、エンジン音の共鳴のピークが分散され、より高級感のあるNV性能を獲得することができました。
長く、複雑な形状となるクランクシャフトの強度と寸法精度を確保するために、2代目NSXのクランクシャフトと同じ高強度材を用いたうえで、鍛造後にクランクジャーナル部が冷える前にねじって製造するツイストクランク製法を採用。低振動で静粛性に優れたV型8気筒エンジンを実現しました。
不等間隔燃焼に対応する、8気筒別燃料噴射マップ制御
ダブルプレーンクランクシャフトでピンオフセット30°を採用する8気筒等間隔燃焼の場合も、片側4気筒間で発生する排気干渉が出力に影響を与えることが知られていますが、ピンオフセット60°を採用した8気筒不等間隔燃焼のBF350では、8気筒すべてにおいて、吸気排気効率が異なり、単一の燃料噴射マップでは全気筒の燃焼を適切に管理することができません。そのため、BF350では8気筒独立の燃料噴射マップを採用しました。また、VTECを採用することで、中低速域のトルクと最高出力を両立しながら、クルーズ領域のリーンバーン制御と合わせて低燃費も達成しています。
エンジンパワーを無駄なく推進力に変える低抵抗ギアケース
船外機において常に水面下にあるギアケース。ギアケースの水中抵抗をいかに下げるかが、走行性能や最高速度、燃費性能に大きく影響します。
そこで、ケースを極力小さくするとともに、水中抵抗が低くなる形状を追求しました。エンジン回転をプロペラに伝達するために回転方向を変換する、ピニオンギアやべべルギアなどの歯当たりやシム厚などを最適化するとともに、フォワードギアとリバースギアを切り替えるクラッチシフターのクラッチダボ数を増やし、歯当たり面積を拡大。さらに、ギアケースの外観形状を最適化することで、高速航行時のギアケースに発生する圧力分布の均一化を図り、キャビテーション※3タフネスを確保。BF250と同等サイズのギアケースでありながら、効率よく350馬力を伝達することが可能になりました。
※3 液体が低圧状態になった際に気化して気泡が発生する現象
Hondaならではの耐久性と信頼性
Honda船外機の特徴の一つである、プロユースにも応える耐久信頼性。細部に至るまで徹底した工夫を施しています。
2系統吸水口
船外機はエンジン冷却のためにギアケースから水を取り入れています。BF350では、従来の左右2カ所に加え、より低い前側にも吸水口を追加しました。真横ではなく、前方に角度を付けたことで高速時の吸水性を高めたほか、計4カ所にしたことで、異物付着によるオーバーヒートのリスク低減にも配慮しています。
アノードメタル/リードワイヤーの強化
海水によるアルミ部品の腐食を防ぐための犠牲電極である、アノードメタルの適用を拡大しました。係留時にフレームまわりのアノードメタルが確実に水に浸かるように形状や配置を工夫するとともに、各アルミ部品と電気的に接続するリードワイヤーを増やして耐食性をより高めています。新規追加した吸水口内にもアノードメタルを設置しています。
ツインスロットルボディー
スロットルボディーを2つ並列配置。アイドリング時と全開時の安定性を確保するとともに、万が一片方に問題が生じた場合も、もう片方のスロットルで運転を継続できます。
フラッグシップモデルにふさわしい、充実した操船サポート
より多くのユーザーがスムーズで快適な航行を行えるように、アシスト機能を充実させました。また、船上でさまざまな電気機器を使える大容量(12V-93A)オルタネーターを採用。水上での点検を可能にするなどメンテナンス性も向上させています。
オートマチックチルト機能
係留保管時には、海藻や貝などの付着や海水による腐食を防ぐために船外機をチルトアップします。オートマチックチルト機能は、エンジン停止状態でリモコンレバーのボタンをダブルクリックすると自動でチルトアップ/ダウンが可能。寒冷時でもチルトスピードが下がらない高出力モーターの採用や、排水構造の工夫による凍結防止など、過酷な環境にも対応するタフネス性を持たせています。
トリムサポート機能
ボートを横から見たときの船外機の傾きをトリムと呼び、このトリムバランス(船体姿勢)によって走行性が変化します。トリムサポート機能は、特に経験の浅いユーザーにとって難しいトリムコントロールを自動制御。加速時やクルーズ時など、状況によって変化する船体姿勢に合わせ、最適な船外機角度に調整します。
また、カスタマイズ可能な3つのプリセット設定を用意。リモコンのボタン操作で、船外機のエンジン回転数や速度に合わせて、あらかじめ設定したトリム角へ自動制御します。さらに、プリセットでの航行中に微調整を行え、その設定を記憶させることも可能。より簡単で快適な操船をサポートします。
クルーズコントロール機能
航行中に一定のエンジン回転数を維持し、リモコンのボタン操作で50rpm単位での調節が可能。GPSを装備していれば1km/h単位の速度での調節も行えます。トローリングから最大回転数まで広範囲に対応し、フィッシング、ウェイクボード、クルージングなど、さまざまなシーンで活用できます。