経営 2025.09.12

夢があるから、挑むんだ。―世界陸上を支える、Hondaの想いと技術―

夢があるから、挑むんだ。―世界陸上を支える、Hondaの想いと技術―

 POINTこの記事でわかること

  • Hondaは多様なモビリティをもって世界陸上をサポートし、世界中に“夢と挑戦の輪”を広げていきたいと考えている。
  • 投てき競技の器具を回収するラジコンカーの開発に、短期間のスケジュールで挑戦。「ものづくりの力」を結集し、芝に負担の少ない機体を実現した。
  • Honda陸上競技部の選手2人が競技に出場。夢に向かう楽しさや、周囲の応援を原動力に、世界最高峰の舞台へと挑む。

Hondaは34年振りの東京開催となる「東京2025世界陸上競技選手権大会」に、オフィシャルパートナーとして参画します。なぜHondaが参画するのか、大会を多様なモビリティと技術でどう支えるのか?また、大会に出場するHonda所属選手の想いとは?

世界陸上プロジェクトリーダー、投てき競技をサポートするラジコンカー開発担当者、Honda陸上競技部の選手のインタビューから、Hondaの世界陸上にかける想いをお伝えします。

松浦 康子

本田技研工業㈱ 経営企画統括部 スポーツプロモーション部 部長
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塚本 智宏

㈱本田技術研究所 統括機能センター 試作室 埼玉試作ブロック
アシスタントチーフエンジニア
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多様なモビリティを通じアスリートには「応援」を、観客には「挑戦の力」を届けたい

東京2025世界陸上にパートナーとしての参画を決められた理由をお聞かせください。

松浦
松浦

アスリートが夢に向かってチャレンジする姿は、見る人に大きな力を与えることができます。Hondaのグローバルブランドスローガン「The Power of Dreams - How we move you.」には、夢の力で人を、社会を、心を動かす、という意味が込められており、共通するスピリットがあると考えています。Hondaはこのスポーツが持つ無限の力を信じ、60年以上にわたって企業スポーツの公式クラブ運営やアスリートのスポンサー、大会協賛などを続けてきました。

 

世界陸上は、日ごろ陸上競技に馴染みのない方でも、トップアスリートたちの卓越した力に魅せられ、胸を躍らせる特別な“挑戦の舞台”です。アスリートの活躍が生み出す興奮と感動、そして観客に大きな力を届けられる場を、私たちも一緒になってつくり上げていきたいと考え、パートナーとしての参画を決めました。

今大会のサポートをする上で大切にしているものはなんでしょうか?

松浦
松浦

今大会が掲げるテーマは「コンパクトで環境に配慮した持続可能な大会の実現」です。環境・安全という社会課題への対応は、日ごろからHondaが追求している取り組みそのものです。Hondaが培ってきた、環境・安全などさまざまな技術を搭載した多様なモビリティの提供を通じて、大会の成功に貢献したいと考えています。

 

例えば、男女マラソンの審判長車として、水素で走る燃料電池自動車の「CR-V e:FCEV」や、2025年9月5日に発売した新型「PRELUDE」、新型軽乗用EVの「N-ONE e:」などをコース確認車として提供します。プレスバイクとしては、静かでクリーンな移動を実現した電動二輪パーソナルコミューター「CUV e:」を用意しました。また、大会運営スタッフの作業負荷を軽減し、終日快適に活動できるよう、体重移動で操作可能なモビリティ「UNI-ONE」も提供します。さらに今大会用に、やり投やハンマー投、円盤投など、投てき競技をサポートするラジコンカーの開発も行いました。

 

加えて、Honda陸上競技部に所属する小山選手・森選手が本大会に出場します。困難を乗り越え、世界トップレベルのアスリートに果敢に挑む二人の姿からも、Hondaが大切にするチャレンジング・スピリットを感じていただけるのではと思います。厳しい気候条件の中、最後まで諦めることなく力を出し尽くして、競技の面からも大会を盛り上げてもらえたらうれしいです。

Hondaの世界陸上広告に掲げられた、「夢があるから。走るんだ。何度でも。Hondaは、その夢の原動力になりたい。」というステートメントに込めた想いをお聞かせください。

松浦
松浦

Hondaはいつの時代も「夢への挑戦」を大切にしてきた会社です。夢に向かって一人ひとりが挑戦し、その姿を見た人が背中を押され自らも挑戦を始める。そうした挑戦の輪を広げていきたい。ステートメントは、世界陸上の主役であるアスリートへの応援はもちろんですが、チャレンジしようとしているすべての人に向けたメッセージでもあります。

 

世界陸上という世界最高峰の舞台をHondaがサポートすることで、世界中に“夢と挑戦の輪”を広げていくことが、私たちの想いです。

 

また、自動車業界はいま100年に一度の変革期です。厳しい競争環境において、Hondaもさまざまな現場で従業員が奮闘しています。世界陸上への取り組みは、今まさにチャレンジしているHondaの仲間たちの力にもなれるのではと考えています。

 

さらに、今回世界陸上という新しいフィールドでの活動を通じて、日ごろHondaと接点がない方々に、Hondaの想い・取り組みを知ってもらえることは、私たちにとって大きな財産になると思います。そうした新しい出会いや絆を大切に育てていくことが、次のチャレンジに繋がると考えています。

選手の挑戦を支える縁の下の力持ち ―Hondaの“無から有を生み出す力”を結集したラジコンカー―

世界陸上サポート施策の一つとして、投てき競技の器具を回収する電動ラジコンカーを開発されました。開発が決まった際の率直な感想を教えてください。

塚本
塚本

トップアスリートが世界一を争うフィールドで、Hondaのものづくりの力が生かされることに、誇りと喜びを感じました。世界陸上はアスリートの皆さんの檜舞台です。アスリートの活躍を支えるべく、全力で取り組みました。

 

様々な競技が同時進行する中で実動させることを思うと、責任の重さに身が引き締まる思いでしたが、試作室のメンバーは全員、挑戦が大好きですので、「やってやろう!」という空気が自然に広がりましたね。

開発はどのように進められたのでしょうか?

塚本
塚本

5、6人のメンバーを中心に、若手からベテラン、管理スタッフまで数十人が関わりました。通常と比較し今回の開発スケジュールはとても短く、相当なチャレンジでした。バッテリーやモーターは市販の部品で構成し、フレームにはHondaの研究開発で培ったノウハウを生かして、設計→試作→改善→実走行テストをスピーディーに繰り返す、アジャイル開発で進めました。

ラジコン開発を統括し推進した塚本 ラジコン開発を統括し推進した塚本

開発において特に難しかった点を教えてください。

塚本
塚本

6月中旬に国立競技場の芝の上で走行テストを行った際、競技場の芝の管理者から「この重さでは芝生にダメージが残り、世界陸上後に予定されている他の大会に影響する」と言われたんです。当初、芝影響を考慮した重量要件はなかったのでゼロベースで見直すしかない状況に。正直頭が真っ白になりました。

その課題をどのように乗り越えたのでしょうか?

塚本
塚本

芝の影響に関する文献を調べ仮説を立て、次の大会実施日に間に合う芝の再生条件をシミュレーションし、管理者に提案したところGOサインをもらえたんです。ただ重さを元の車体の半分以下に落とさなくてはならず、その点がまた大きな挑戦になりました。

 

軽量化の具体的な方法としては、まずテスト結果から導きだした電圧や電流の条件を満たす、市販の軽いバッテリーを探しました。さらに一番のポイントとなったのがシャシーで、堅牢さを重視して採用していた鉄からアルミ材に変更しました。

 

アルミ材は軽いのですが扱いが難しく、溶接をしてもすぐに曲がってしまうなどの問題があります。そこで、アルミ材の成形や溶接経験に長けたベテランと設計担当にタッグを組んでもらい、約2週間で最適な構造・重量を実現することができました。試作部門だからこそ可能な「現場で即判断、即改良」を繰り返し、この難しい目標をクリアできました。メンバーには大変感謝しています。

ラジコンカー Honda 0(ゼロ) SUV プロトタイプ4分の1モデル ラジコンカー Honda 0(ゼロ) SUV プロトタイプ4分の1モデル

限られた時間の中で、挑戦をやり遂げる力となったものはなんでしたか?

塚本
塚本

壁にぶつかったら様々な分野のエキスパートがすぐ集まり、「いつまでに何ができれば課題をクリアできるか」、部門を越えて一緒に考えていけるのがHondaの強みです。今回の日程の中では、そうした動きが助けになりました。

 

また「挑戦」が常に中心にある会社なので、やりきった後全員で笑顔になれる喜びは、メンバー全員が共有しています。全員が一丸となって実現に向かっていく力は、Hondaならではだと感じました。

 

こうした経験を積み上げることが、様々なアイデアの実装につながると考えていますので、世界陸上のサポートも大事な糧として、今後も挑戦を続けていきたいですね。

【コラム】夢を原動力に、世界の舞台へ挑戦するHonda陸上競技部の選手たち

森 凪也(男子5000m)

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小山 直城(男子マラソン)

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世界陸上は、森選手にとって初の世界大会です。率直に、現在の思いを教えてください。

森

正直なところ、まだあまり実感がわかない状態です。大学時代に自分が思うような走りができなくなり、一度は「もう限界かな」というぐらいに追い詰められたりもして、「自分が弱いこと」を知った状態でHondaに入社しました。Honda陸上競技部に入った時は自分の実力不足を認識していたので、当初から「すぐに結果は出せないが、一戦一戦大事に走っていこう」という気持ちでやってきましたので、一つ一つの積み重ねの結果、気付いたら夢の舞台が近づいていたという感じです。地道に積み上げていく面白さとそれによって夢に近づいていく道中の楽しさが陸上にはあって、僕の中での原動力になっています。

周囲のサポートや応援をどのように感じていますか?

森

周りの人の応援が常に自分の力となっていて、入社当初は「自分の目標やこだわりのために走る」というスタンスだったのが、「人のために走りたい」と思うように。世界陸上では、応援してくださる皆さんにとって少しでも恩返しになるような走りができればと思っています!

小山選手はHonda入社後、順調に活躍を重ね、2024年には自身初となる世界大会に出場されました。これまでを振り返って、どのように感じていますか?

小山
小山

Hondaに入社するまでは、世界の舞台で走れるとは思っていなかったんですが、世界で戦うチームメイトとの練習を重ねるうちに「世界に挑戦したい」という思いが強くなりました。昨年念願の世界最高峰の舞台に初めて挑戦することができましたが、8位入賞を目標していた中で結果は23位。初めてのアメリカ合宿やハードな走り込みなど、これまで以上に入念な準備をし、手応えも感じていたので非常に悔しかったです。ただ、その後はすぐに「ニューイヤー駅伝で優勝する」という次の目標に向けて練習に取り組んだことで、上手く気持ちを切り替えられたと思います。

今回の世界陸上は自国開催となりますが、どのように感じていますか?あわせて意気込みなどもお聞かせください。

小山
小山

日本人選手にとって日本の暑さは、うまく味方に付ければ追い風になると思うんです。なので世界陸上に向けては暑熱対策に力を入れて準備をしています。日中の暑い時間に走り込みを行ったり、室内をあえて高温状態にしたり、サウナに入ったり。暑さを味方にして、失敗を恐れず、世界という高い壁に果敢に挑みたいと思っています。

 

また、自国開催ということでたくさんの人が応援に駆けつけてくれることも大きな力になります。昨年の世界大会の時に職場の上司が現地まで応援に来てくれたことがすごくうれしかったので、たくさんの人に沿道で応援してもらえたらうれしいです。

 

特に、今回の世界陸上はHondaがオフィシャルパートナーなのでマラソンの審判長車やバイクがHondaの製品なのは元気をもらえますね。世界陸上の見どころは、なんといっても、世界トップクラスの選手たちの躍動をじかに見られるというところ。貴重な自国開催、ぜひいろんな方に見ていただきたいなと思っています。

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