POINTこの記事でわかること
- 6代目「PRELUDE」の開発は、「こんなスポーツカーがあったらいいな」というユーザーの潜在需要に応え、電動車時代の先駆けとなる「新しいハイブリッドスポーツ」の実現を目指して始まった
- 幼少期の原体験から着想を得た「UNLIMITED GLIDE(アンリミテッド グライド)」というグランドコンセプト具現化のため、開発チームはグライダーを実体験し、「非日常のときめき」を追求した
- 国や世代を超えて普遍的にときめきや感動を与えられることを目指したPRELUDEは、家族や友人、過去の自分と過ごす特別な時間を提供する
2025年秋のリリースが予定されている新型PRELUDE。同モデルとしては6代目で、先代から約25年ぶりの復活ということもあり、発売前から大きな話題を集めています。今回は、新型PRELUDEの開発責任者である山上智行に、同モデルの復活までの経緯や開発時の苦労をはじめ、PRELUDEにかける想いなど、話を聞きました。
PRELUDE 開発責任者 もっと見る 閉じる 山上 智行
さらに表示25年ぶりのPRELUDE。現代に復活する理由とは
1978年にHonda初のパーソナルクーペとして誕生したPRELUDEは、日本初の電動サンルーフや4輪ABS※1、世界初の4WS※2など、時代ごとにHondaの最先端技術が搭載されました。そして2025年秋、本格的な電動化時代へ「操る喜び」を継承し、Honda不変のスポーツマインドを体現する6代目PRELUDEが発売となります。
※1アンチロック・ブレーキ・システムの略。急ブレーキ時や滑りやすい路面でのブレーキ時に、すべてのタイヤがロックしないように制御する技術。
※2 フォー・ホイール・ステアリングの略。自動車のステアリングシステムの一種で、前輪だけでなく四輪すべてを操舵できる技術。
1978年に誕生した初代PRELUDE(左)と、2025年4月に東京・お台場で開催されたイベントで公道特設コースを走行したPRELUDEプロトタイプ(右)
約25年ぶりの復活となるPRELUDEですが、どのような経緯があったのでしょうか。
2023年のJAPAN MOBILITY SHOW(以下、JMS)でコンセプトモデルとしてお披露目されました。当初の出展概要では公表されておらず、サプライズでの公開に社内外からも驚きの声が多かったのではないでしょうか。
実はもともとPRELUDEの出展は予定していなかったのですが、JMSが近づいていた頃、デザインセンターで経営陣に試作車を見せる機会があったんです。そこでPRELUDEを見た社長の三部が「ここまで出来ているなら、ぜひ(JMSに)出展して見てもらおう!」となり、その場でJMSへの出展が決まりました。
新モデルの発表は事前にスケジュールが組まれているので、開発段階の車両をモビリティーショーで先行して披露するというのは通常とても難しいことなのですが、実車を見た経営陣にその良さが伝わり、異例のお披露目につながりました。そこからは短い準備期間の中、グランドコンセプトをしっかり伝えようと、開発・デザイン・営業・広報など関係者が一丸となって急ピッチで準備を進めました。
JMSでは社内外からたくさんの反響をいただき、お披露目してよかったと実感するとともに、発売に向けてチームのモチベーションが一層高まりました。
PRELUDE 開発責任者の山上智行
Hondaがクーペを発売することに驚いた方も多いと思います。いまの時代にクーペにこだわった理由や意義についてお聞かせください。
実用性の高いクルマが好まれるトレンドのなかで、「クーペの役割とはなんだろう?」と自問自答したときに、クーペだからこその「ときめき」があるはずだと思ったんです。
例えば、「誰とどこへ行こう」「何をしに行こう」と考える際に、クーペならではのデザインのかっこよさやスポーティーな運動性能といった特別感に心が動く人たちもいるはず。そうしたワクワク感があるスペシャルなクルマを目指し、歴代のPRELUDEの伝統でもあるクーペにこだわりました。
「グライダー」から着想を得た新型PRELUDEのコンセプト
新型PRELUDEのグランドコンセプト「UNLIMITED GLIDE」には、どういった意味が込められているのでしょうか。
グライダー(滑空機)のように、「どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめき」を表現しています。
「グライド」はグライダーからきているんですね。なぜクルマなのに、グライダーがコンセプトのモチーフになったのでしょうか。
このクルマのコンセプト設計やデザイン方向性に悩んでいたときにふと、子どもの頃に祖父がラジコンのグライダーをつくっていたことや、連れて行ってもらった河原で見上げた空の青さと白い雲を思い出したんです。そうしたイメージと、カーボンニュートラルや電動化、環境意識などにも親和性のある「空」「青」「グライダー」のイメージが私の心の中に降りてきました。
デザインとダイナミクスはひとつのものです。初期の段階から、デザイナーとは「このスポーツカーは戦闘機のようなイメージではなく、長い翼でとても優雅に、気持ちよく飛んでいるグライダー」というイメージを共有していました。
利根川河川敷で祖父がつくったラジコングライダーで遊ぶ、小学生当時の写真
実際にグライダー体験搭乗にも参加しました。スムーズでクリーン、なのにレスポンシブでダイナミック、子どもの頃の記憶にあった青い空と白い雲、大空にグライダーを飛ばしたあのときの「ときめき」がよみがえったんです。グライダーは自然を味方にすれば道のない空をどこまでも飛べる知的なモビリティですし、人の可能性も無限であるという意味も込めて「UNLIMITED GLIDE」というグランドコンセプトが固まりました。そして、新たなスポーツカー像として、突き抜けるような白と青がPRELUDEにぴったりはまったんです。
後日、この経験を開発チームにも情報共有したのですが、社内グライダー体験搭乗に約30人のメンバーが自主的に参加してくれました。こうして開発メンバーとグランドコンセプトを実体験として共有・共感できたことで、各領域がどのようなパフォーマンスを目指すべきなのか、その意思統一もスムーズに進みました。
2023年12月に関宿滑空場にて、開発チームのメンバーたちとグライダー搭乗体験をした際の写真
新型PRELUDEで目指している「どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめき」を具現化するための仕掛けや、特にこだわったことなどはありますか。
新型PRELUDEは、日常でも気持ちよく乗れるクルマとして、Hondaのスムーズでクリーンなハイブリッドシステムを進化させることは大前提でした。インテリジェンスはもちろん、グライダーでアクロバットをするような非日常の「ときめき」も両立したいと考えました。そこで、Hondaの強みである「エンジン」が最大限に活かせる「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」※3を導入し、高いポテンシャルを持つCIVIC TYPE RのシャシーをPRELUDE専用セッティングとして搭載したことで、ワクワクするような心地良い走りを実現しました。「日常」と「ときめき」の世界を行ったり来たりできるのも、新型PRELUDEの大きな特長といえます。
※3 高効率の2モーターハイブリッドシステムがもたらす圧倒的な燃費の良さと、大出力モーターによる上質で爽快な走りを両立するHonda独自のハイブリッドシステム「e:HEV」の特性を生かしながら、さらにドライバーとクルマの一体感を際立たせる「操る喜び」を追求した機能。
PRELUDEで世代や国を超えて届けたい「特別な時間」
新型PRELUDEは日本のみならず、さまざまな国での展開も視野に入れています。どのようなターゲット層に向けて開発を進めましたか。
「さまざまな国の人々にも、普遍的にときめきや感動を与えられること」を目指していたので、国ごとに仕様や性能を分けることもなく、市場調査も行いませんでした。ですから、特定の市場に向けた開発やデザインなども実施していません。
また、グランドコンセプトを実現できれば「世代を超えられる」と思っていたので、ターゲット層も絞りませんでした。例えば、1960〜1970年代に生まれたジェネレーションXの親が、1990年代半ばから2010年代前半生まれのジェネレーションZ世代の自分の子どもに、「この服どう?」と聞いたり、親子で服や趣味をシェアするなどの世代間交流は至る所で見られます。国や世代を超えてときめいてくれることを狙った開発・デザインに挑戦しました。
車体のリアに施された新たな「PRELUDE」のロゴ
新型PRELUDEを通じて、どんな体験や感動をお客様に届けたい、と考えていますか。
新型PRELUDEはスポーツカーでもあり、スペシャリティカーでもあり、さらにかつてのPRELUDEが呼ばれていた「デートカー」でもあります。夫婦でも親子でも友達同士でも、ドライブや思い出巡りなど、特別な「デート」の時間を過ごしていただければうれしいです。往年のPRELUDEファンの方には、おひとりで乗られた際に、数十年前の「あの頃の自分自身」ともデートしてもらえたらと願っています。
新型PRELUDEをきっかけに、Hondaには素敵な商品やサービスがたくさんあるんだと、一人でも多くの方に振り向いていただけたらうれしいですね。私自身が誰よりも新型PRELUDEにときめいています。開発時も「山上さんが一番楽しそうだった」とチームメンバーに言われましたから(笑)。お客様に喜んでいただくために、一所懸命に開発に励んだからこそ、街で新型PRELUDEを見かけたら、「どんな方がどんな表情で運転されているのだろう」と気になってしまうでしょうね。そんな想像をするだけで、幸せを感じます。
実は、「PRELUDE復活」としてスタートを切ったのではないんです。もともとは、電動車の時代における「新しいハイブリッドスポーツ」の開発が目的でした。
まずは「これからの時代におけるスポーツカーとは何か?」という問いに対して、お客様像、提供価値、デザイン、ダイナミクスなどを考えるうえで、「これまでの自分自身やHondaの車種」を振り返りました。そこで思い出したのが、長きに渡り各世代ごとに語り継がれ、常に時代を切り開いてきたPRELUDEの存在でした。
いまの時代、「ハイブリッドのスポーツカー」はあまり見られません。このスポーツカーの開発プロジェクトが目指したのは、「こんなスポーツカーがあったらいいな」というユーザーの潜在需要を掘り起こしながら、新しい時代の先駆けとなるクルマ。その車名には、「前奏曲」の意味を持つ「PRELUDE」がふさわしいと思ったんです。また、今回のスポーツカー開発の挑戦と、常に時代の先端技術を取り入れてきたPRELUDEの姿勢との親和性も感じ、結果的に6代目PRELUDEとして開発が始まりました。