Hondaは1980年に初めての自社開発除雪機「スノーラ HS35」の販売を開始して以来、小型から大型まで、さまざまな除雪機を販売しています。2001年には世界初のハイブリッド除雪機を、2013年には硬い雪にも対応できる同軸・同時正逆転除雪機構(クロスオーガ※)を搭載した商品を市場に投入。ハイブリッド、クロスオーガは、Honda除雪機の代名詞となり、雪国の暮らしを支える存在として進化を続けてきました。
今回、約20年ぶりにハイブリッド小型除雪機をフルモデルチェンジし、Honda独創のクロスオーガや電動ハイト機能(電動でオーガの高さを無段階調整する機能)を搭載した新モデルが登場。より使いやすく、よりパワフルに進化したこのモデルの特徴やこだわりについて、LPL(開発責任者)小東賢太に聞きました。
※ オーガとは、雪をかき集めるらせん状の回転部品のこと
Honda R&D Southeast Asia Co., Ltd.
Technology And Products Manager
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小東 賢太
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「20年ぶりの刷新」―小型除雪機に込めた技術
今回フルモデルチェンジした新型除雪機「HSS960i (JX)」「HSS1370i (JX)」は、どのような特徴を持っているのでしょうか?
新型ハイブリッド除雪機「HSS960i (JX)」(左)「HSS1370i (JX)」(右)
ハイブリッド機構図解
クロスオーガとはどのような機構ですか?
クロスオーガは、オーガ(雪をかき集めるらせん状の回転部品)が雪を取り込むための正転と除雪機の浮き上がりを抑える逆転を同時に行うことで、硬い雪にも食い込んで砕くことができる仕組みです。通常のオーガでは、硬い雪に対して跳ね返されてしまうことがありますが、クロスオーガは逆回転を加えることで、雪にしっかり食い込み、除雪効率を大幅に向上させることができます。
この機構を搭載した機種は以前にもあったのですが、旧来の除雪機でありハイブリッド除雪機ではありませんでした。以前からハイブリッドモデルに搭載してほしいと言われており、今回でやっと実現出来たものになります。先行体験会では、厳しい目をお持ちの販売店の皆様にも、小型除雪機の決定版だ、とのお声をいただいています。
クロスオーガ機構説明
他にも注目すべき機能はありますか?
電動オーガハイト機能(電動でオーガの高さを無段階調整する機能)も大きな進化です。除雪部の高さをレバー操作で調整できるため、力の弱い方や小柄な方でも簡単に扱えます。従来は手動で持ち上げる必要があり、特にご高齢の方や女性には負担が大きかったのですが、今回のモデルではレバー1本でスムーズに操作できるようになりました。
また、操作パネルの視認性や操作性にも配慮し、レバー式旋回という中型除雪機に付いている機構を今回のモデルに入れました。レバーを握る深さに応じて自由にスムーズに旋回半径を変えることが出来ます。これらの機能は、すべて「ユーザーにとっての使いやすさ」を追求した結果です。
「現場で磨かれる性能」―冬の実地検証と開発の舞台裏
除雪機の開発にはどのような苦労があるのでしょうか?
除雪機は冬季限定で使う製品なので、テストも冬にしかできません。夏場に設計を急ピッチで進め、冬は北海道・鷹栖のテストコースなどで実機テストを行います。雪が降らない年はテストが思うように進まないこともありますし、吹雪の中での作業は過酷の極みです。
実際に、テスト地に向かうために雪をかき分けながら歩き、トラックが雪に埋まっているのを掘り出すところから始まることもあります。テスト開始までに2時間以上かかることもありました。自然との戦いは、除雪機開発の宿命です。
雪上テストの様子(写真のモデルは大型除雪機)
テストではどのようなことを確認するのですか?
吹雪の中での除雪性能、氷点下での始動性、雪に埋もれた状態からの起動など、実際の使用環境を再現したテストを行います。夏場でも雪を保存してテストできるように、断熱シートで覆った雪山を作っておくなどの工夫もしています。
また、雪質の違いにも対応するため、北海道のパウダースノー、新潟の湿った雪など、地域ごとの特性を考慮したテストも欠かせません。さらさらの雪は飛ばしにくく、湿った雪は詰まりやすい。どちらにも対応できるよう、バランスを取りながら開発しています。
「暮らしに寄り添う機械づくり」―Honda除雪機に込めた想いと責任
Hondaにとって除雪機とはどのような存在ですか?
私たちは「雪国の暮らしを支える」という使命感を持って開発に取り組んでおり、国内除雪機市場では広くご支持いただいています。創業者・本田宗一郎の「人の役に立つ機械を届ける」という精神を受け継ぎ、誇りを持って商品開発に取り組んでいます。
除雪機は、単なる作業機ではなく、生活を守る道具です。雪国では、朝の除雪ができなければ出勤もできません。そんな日常の一部を支える製品だからこそ、Hondaとして責任と誇りを持って開発しています。
HSS1370i開発チームメンバー
安全性への取り組みについても教えてください。
私は業界団体「除雪機安全協議会」の代表も務めており、全国各地で安全講習会を行っています。除雪機は便利な反面、使い方を誤ると危険も伴います。だからこそ、正しい使い方を広めることも私たちの責任だと考えています。
講習会では、実機を使って操作方法を実演したり、注意点を説明したりしています。Hondaは業界をリードする立場だからこそ、安全啓発にも力を入れています。
山形県長井市での安全講習会の様子
最後に、今回フルモデルチェンジしたモデルが、ユーザーの暮らしにどう寄り添っていくことを期待しているか、教えてください。
このモデルは、開発チーム全員が「自信を持ってお届けできる」と胸を張れる一台です。高齢者や女性など、力の弱い方・小柄な方でも扱いやすく、かつパワフルで、信頼できる。まさに“Snow Life Partner(雪国で生きる人々のパートナー)”を体現した製品です。
スキー場や住宅街で赤いHondaの除雪機を見かけたら、ぜひ注目してみてください。私たちの想いが詰まった一台が、雪国の暮らしを少しでも快適にできることを願っています。Hondaの除雪機は、単なる道具ではなく、生活の一部を支えるパートナーです。
私たちは、これからも雪国の人々の暮らしに寄り添い、より良い製品を届けるために挑戦を続けていきます。除雪機を通じて、Hondaの“人のために”という精神を、もっと多くの方に感じていただけたらと思います。
ありがとうございました。
今回のモデルは、Hondaの小型除雪機としては約20年ぶりのフルモデルチェンジとなります。長年お客様から「そろそろ新しくしてほしい」と言われ続けていたモデルを、ようやく刷新することができました。最大の特徴は、Honda独自の「ハイブリッド」と「クロスオーガ」を同時に搭載した点です。
ハイブリッド除雪機は、除雪部をエンジンで、走行部をモーターでそれぞれ駆動させることで、滑らかな速度調整と力強い除雪性能を両立します。モーターによる走行は、操作性が非常に高く、特に狭い場所での取り回しに優れています。一方、エンジンによる除雪は、雪をしっかりかき集めて飛ばす力があり、Hondaならではの抜群の使い勝手を実現しています。