POINTこの記事でわかること
- 世界最大の自動車市場である中国は、新エネルギー車(以下、新エネ車)※1が4割を超え、知能化(中国表記では”智能化”)が進む市場
- 「烨(イエ)」シリーズ第2弾となる「GT」が目指したのは「非日常的な移動体験」
- Hondaの開発思想である「人間中心」や「操る喜び」を、中国市場向けに進化させたのが今回のGT
※1 中国において、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)・燃料電池自動車(FCEV)を新エネルギー車と定義している。補助金の対象となっており、販売台数が急激に伸びている
Hondaは2030年以降、中国で販売する全てのクルマをハイブリッド車やEVなどの電動車にすることを目指しています。そのビジョンを具現化する第一歩として、2021年にEV「e:N(イーエヌ)」シリーズを発表し、これまで4モデルを発売しました。そして2024年4月には新たなEV「烨」シリーズの第1弾として「烨P7」「烨S7」を発表し、続けて2025年4月には第2弾となる「GT」を『上海モーターショー』で世界初公開しました。
中国は世界最大の自動車市場であるとともに、知能化※2・電動化が急速に進んでいます。Hondaならではの価値を中国でも創造すべく、先進的な中国企業とタッグを組んで知能化・電動化技術の進化に取り組んでいます。Hondaの開発思想と最新技術を融合した烨シリーズ第2弾GTの開発責任者に、開発秘話や今後のビジョンを聞きました。
※2 知能化:AIや通信技術などの活用により、運転操作支援・ソフトウェア更新・乗車体験向上を行う仕組みのこと(中国表記では”智能化”)
本田技研科技(中国)有限公司 四輪研究開発センター 商品戦略部 GT LPL(開発責任者) もっと見る 閉じる 廣瀬 佳紀
さらに表示中国は世界最大の自動車市場、国内販売台数の半分が新エネ車
中国がアメリカを抜き、世界最大の自動車市場に躍り出たのは2009年※3。2024年、中国における輸出および商用車を除いた自動車の販売台数は「2,260万8,000台(前年同期比+3.1%)」※4を記録しました。中国政府の買い替え補助金政策の後押しがあり、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)・燃料電池自動車(FCEV)を含む新エネ車の、販売台数に占める比率は2024年ですでに4割※5を超えています。
※3 S&P Global Mobilityのデータに基づく
※4 中国自動車工業協会2025年1月発表
※5 新エネ車の販売比率はHonda独自調査
中国国内販売推移の図
さらに特筆すべき点は、中国のクルマにおける知能化の進化です。たとえば、カーナビで目的地を設定するとアクセルやハンドルなどの操作を自動で支援するシステム「NOA(Navigation on Autopilot)」の搭載が進んでいます。また、特定の条件下で自動運転を行う無人タクシーも、一部のエリアですでに実用化されています。
そんな知能化・電動化が急速に進む中国市場において、烨シリーズ第2弾GTが打ち出す魅力は何なのか、開発責任者に聞いていきます。
烨シリーズ第2弾の「広汽Honda GT」
目指したのは「非日常的な移動体験」。助手席にもこだわった理由とは
烨シリーズのフラッグシップモデルでもあるGTは、どういったクルマなのでしょうか?
「助手席」の空間にもこだわった理由とこだわりのポイントを教えてください。
中国では、助手席が「大切な人をもてなす席」として重視されています。特に手で触れるあらゆる場所には素材や触り心地にこだわってより上質な空間を、また、純粋なスポーツカーと比べて助手席の人がより気持ちよく過ごせる乗り心地を意識しました。
デジタルの領域でも、車酔いをしにくく目に優しい、かつ大画面を見ているような体験が可能な遠焦点ディスプレーを採用するなど、助手席で過ごす時間が快適で楽しくなるような仕掛けを施しました。
一番大事にしているデザイン面は、パフォーマンスの高さを想起させるロー&ワイドなシルエットとすることで、誰もが一目見て「カッコいい」「乗りたい」と素直に感じてもらえるようにこだわりました。
なぜ「非日常」を目指したのでしょうか?
ターゲット層の30代は、非常に忙しい日常を過ごしている人も多いはず。そこにニーズがあると考えました。仕事で張り詰めていた気持ちが、このクルマに乗った瞬間にリセットできる。そんなクルマにしたかったのです。
仕事終わりの気分転換にドライブする人もいれば、週末にパートナーと2人で小旅行に出かける人もいるでしょう。そんなときにストレスなく、疲れずに移動できて、なおかつ贅沢な時間を過ごせるクルマにしたくて。この車を通じて仕事で戦っている「日常の世界」から、「非日常の世界」に切り替えて、より豊かな日々を過ごしてほしいと考えました。
GTの運転席と助手席
Hondaの開発室「人間中心」を原点に、中国市場向けに反映した「GT」
GTには、Hondaの開発思想をどのように取り込んだのでしょうか?
お客様の喜びを第一に考えて人のために開発する、Hondaで脈々と受け継がれる「人間中心」の思想を大切にし、安全性や信頼性などの基本性能は徹底的に追求しています。
特にHondaのDNAであり、烨ブランドとして大切にしたい「操る喜び」の実現も目指しました。「一級品である」と断言できて、且つ自信を持ってお客様に提供したいという想いで開発メンバーのみんなとしっかり磨き上げました。Hondaの普遍的な開発思想をベースに、中国ならではの助手席を大切にする文化や知能化の最新技術などを取り込んだのがGTです。
開発のなかでどんな苦労がありましたか?
先進AIによって機能性や快適性を向上させる「知能化」の進化は、わたしたちにとっても新たなチャレンジの連続でした。中国市場の技術進化は、世界の中で最も早い。中国のお客様の価値観や求めていることに合致させるため、どのように準備をして反映させていくのかというのに、すごく苦労しました。
タイムリーに先進技術を反映させていくには、企画段階ではもともと予定になかったような技術も採用していく判断が必要なため、周囲への説得も含めて苦労しました。常に新しいことをやり続ける難しさは、今回特に痛感しましたね。
「このクルマじゃなきゃ体験できない」を実現することの重要性
「新しいことをやり続ける難しさ」をどのように乗り越えたのでしょうか?
中国市場で求められていることを社内外のステークホルダーに理解いただくため、開発の意義や必要性をしっかりと伝えることを意識しました。
たとえば、助手席の遠焦点ディスプレー。企画当初は、他社も採用しているような普通の液晶ディスプレーを使うことを考えていました。ですが、それだと結局他社の製品と同じになってしまい、このクルマを買う理由につながりません。
どこかにヒントがあるはずと思い立ち、開発途中のタイミングで大手通信機器メーカーのショールームにお邪魔したんです。そこで、最新の遠焦点ディスプレーを見させてもらったときに、衝撃を受けて。今まで見たことがないような先進的なディスプレーで、これならこのクルマを買う理由になると直感し、採用しました。
今の時代、走りや機能の性能差はあれど、大概のことは他社メーカーのクルマもできてしまうんです。だからこそ、「このクルマじゃなきゃ体験できない」というものをつくることが大事。現地の最先端技術を取り込むことで、中国のお客様に振り向いてもらえるはず。そういった必要性を周囲に都度説明し、理解を得ながら開発してきました。
GT助手席の遠焦点ディスプレー
最後に、今後の展望をお聞かせください。
烨シリーズを最も代表するクルマとして、GTを浸透させていきたいです。HondaのDNAである「操る喜び」や「お客様の個性を輝かす」という烨シリーズのブランドコンセプトをしっかり体現したモデルなので。このクルマを通じてお客様に幸せや喜びを届けたいですし、そういう気持ちになっていただけるという自信もあります。
また、今後も協業する中国企業の強みを取り入れながら製品をさらに進化させ、Hondaならではの価値をお客様に提供していきたいと考えています。
2025年4月に開催された『上海モーターショー』のHondaのブース
GTは、「非日常的な移動体験」の提供を目指して、運転席には「操る喜び」に没入できる空間、そして助手席には大切な人が快適に過ごせる「おもてなしの空間」を意識してつくったモデルです。