Hondaが北米向けに初の量産EVとして展開する「PROLOGUE(プロローグ)」。このモデルはこれまでとは異なり、GMとの共同開発で実現しました。「可能な限りを自社で開発すること」を前提としてきたHondaが、共同開発を進める上で、どんな課題を乗り越えてきたのか。PROLOGUEの魅力とともに、開発のキーマン2名に話を聞きました。
PROLOGUE 開発責任者 もっと見る 閉じる ジョン・ウォン(John Hwang)
さらに表示PROLOGUE 車体設計責任者 もっと見る 閉じる 松浦 広和
さらに表示Hondaは、新型EV「PROLOGUE」の発売を、2024年初頭に北米市場で予定しています。PROLOGUEは北米において人気が高いミッドサイズSUVのEV。米ゼネラルモーターズ(GM)と共同開発したモデルでもあり、GMが開発したEVプラットフォームと「Ultium(アルティウム)」バッテリー※を搭載しています。サステナビリティへの感度が高く、EVシフトが高まる北米市場に向けて初のEV量産モデルとして展開するPROLOGUEは、Hondaにとって非常に重要な存在と言えます。
※GMが開発する次世代バッテリー
北米ニーズに特化。キーワードは「RUGGED=ラギッド」
PROLOGUEはミッドサイズと呼ばれるタイプのサイズ感で、北米ではかなり人気のあるカテゴリ。開発責任者のポジションであるLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)を務めたジョン・ウォン(John Hwang)は、北米マーケットの特性を紹介しながら、次のように話します。
共同開発にあたって、Hondaはスタイリング領域、エクステリアやインテリアなど「トップハット」と呼ばれる部分を担いました。設計を中心に担当したLPL代行の松浦広和は、GMとの共同開発について次のように振り返ります。
もともとHondaは小型や中型車の開発を得意としてきました。今回、日本で販売されているものよりも大きい、つまり北米でポピュラーなサイズのミッドサイズSUVを開発するにあたり、ラージサイズの開発に慣れたGMのノウハウは非常に参考になりましたね。
共同開発で乗り越えた課題と、得た気付き
一方で、共同開発だからこその苦労もありました。その一つが、Hondaに根付く「何でもまずはやってみて、自分たちで完結することを目指すマインド」とのバランス。松浦によると、GMとの共同開発ではこれまで以上に業務分掌やコミュニケーションが必要になり、最初は戸惑ったそうです。
当然ながらクルマの開発には多くの人が関わり、「エクステリア」「モーター」など様々な領域で開発が進められます。いわばそれぞれの領域でスペシャリストが担当する。ただ、Hondaは良くも悪くも、自分の担当領域外についても考えて、より良いものにしようとしてしまう。それが企業文化の一つなんです。一方でGMは、各自に割り振られた領域をきっちり守る。自分たちと異なる文化に触れるいい機会になりました。
また、地理的な問題もありました。Hondaの開発拠点は日本、GM側の拠点は米国、デザインを担当するスタジオは米国だがまた別の場所と、拠点が点在。加えて、プロジェクトが始動した2020年は、世界が新型コロナウイルスの猛威にさらされており、対面での議論が困難な状況でした。
最初の1〜2年はリモートでしか打ち合わせができず、実際にモノを見ながら議論するのが困難でした。そのため、これまで以上にVRやCGを活用して開発を進めることに。苦労はありましたが、振り返ればこうした新たな手法を活用した開発で経験したトライ&エラーは、今後に役立つ貴重な体験です。
同時に、実際に会って対面で話し合うことの重要性や良さを再認識しました。もちろんリモートでもコミュニケーションをしていましたが、コロナ禍が落ち着いてきたころに出張して対面すると、やはり打ち解けた気持ちになり、以降の議論などがスムーズに進みましたね。
EV時代の「序章」となるクルマに
両社の文化の違いや、当初は多拠点間でリモートのコミュニ—ションを強いられるなど、様々な困難を乗り越え、いよいよ登場するPROLOGUE。日本語で「序章」を意味する単語であり、Hondaの北米EV展開における、重要な存在であることや強い決意を感じさせます。
PROLOGUEでは、EVとして先輩である「Honda e」のような先進的かつスタイリッシュなデザインを参考にしながら、一方で使い勝手の良さなど、従来のエンジン車のような「馴染み感」も大事にしています。PROLOGUE という名前には、Hondaにとっての序章という意味だけでなく、お客さまがエンジン車からEVへスムーズにシフトする第一歩にしたいという想いも込めました。
なお、同車の主なターゲットは、若いファミリー層です。これまでEVの主要顧客であったアーリーアダプター(新しいサービスや商品を、早い段階で生活に取り入れる顧客)だけでなく、多くのユーザーに愛されるようなクルマを目指しました。シングルモーターによるFWDだけでなく、デュアルモーターの4WDを用意することで、北米で求められるスポーティーで力強い走りを発揮できるようにしたといいます。
昨今のクルマに求められるコネクティビティでは、Apple CarPlayとAndroid Auto™に対応。充電というEVならではの課題にも目を向け、道中のどこで充電すべきか、またバッテリーのコンディション調整によって、給電スポットに着いた際には短時間で充電できるような機能も搭載しています。
ただし、単に最新の技術を詰め込んだだけではありません。松浦が例に挙げるのが、インテリアのスイッチ類。物理スイッチを完全に無くすのではなく、運転中に使うようなものはあえて残しました。物理スイッチと違い、タッチパネルはしっかり操作できたかどうかが瞬時に判断しにくく、運転中にはリスクになる可能性があるからです。真摯に使う人の目線に立ち、安全性や利便性をとことん追求したのがPROLOGUEなのです。
■Apple CarPlayは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
■Android Auto™は、Google LLCの商標です。
EVでも感じられる「Hondaらしさ」を追求していく
PROLOGUEは機能やインテリアだけでなく、外観も魅力的な1台となっています。
ラギッドな印象ながら、シンプルさやクリーンさもアピールできるスタイリングになっているのがPROLOGUEの特徴です。また、リアエンドにはこれまでHondaの「H」をあしらったエンブレムを配置していましたが、PROLOGUEでは「Honda」と刻印しています。EVとしての新鮮なイメージだけでなく、より車格がワイドで目を引くプロポーションとして仕上がっているのではないでしょうか。
Japan Mobility Showでは、「これはEVですか?」とよく聞かれました。アーリーアダプターだけに向けたものではなく、一般向けの「ネオ・ラギッドなEV」として企画していたので、狙い通りの仕上がりになったのではないでしょうか。非常に魅力的なプロポーションであることから「日本では売らないの?」ともご質問をいただき、とてもうれしいですね。
日本国内に向けてHondaは、2024年に「N-VAN」ベースの軽商用EV、2025年に「N-ONE」ベースのEV、2026年にSUVタイプを含む小型EV2機種の発売を予定。その先も様々なタイプが登場していくことが考えられます。今後、PROLOGUEの開発を通して得た経験を、どのように活かしていく予定なのでしょうか。
PROLOGUEは、サイズ感や求められる運転性能の違いから、そのまま日本へ持ってくることはできません。今後に向けては、バッテリーやプラットフォームの最適化、EV時代における市場特性を見極めながらHondaならではの開発を進めていきます。
EVにシフトしていく中で、アーキテクチャの違いは生まれますが、その中でも「Hondaらしさ」を実感できる開発をしていきたいですよね。その足掛かりとして、PROLOGUEには非常に期待しています。
従来強みとしてきた「走る喜び」を変わらず実現し、EV時代のHondaを体現するPROLOGUE。人々のEVシフトの序章としてどのような存在感を示すのか、ご注目ください。
※今回登場したのは北米専売モデルのため、日本での発売は予定していません
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北米でSUVタイプのEVを展開するにあたりまず重要なのが、スタイリングのユニークさとサイズ感です。PROLOGUEでは北米ユーザーのニーズに特化し、ラギッド(RUGGED=無骨)な印象のあるスタイリングに仕上げました。
また、EVであることを踏まえると、航続距離も重要なポイントです。その点では、モーターやバッテリーを含めたプラットフォームを担当してくれたGMとのタッグが非常に効果的でした。