モータースポーツ・スポーツ 2024.01.12

Hondaが耐久レースに本気になる理由~CIVIC e:HEVで挑む活動第二期、見出す将来へのカギ

Hondaが耐久レースに本気になる理由~CIVIC e:HEVで挑む活動第二期、見出す将来へのカギ

モビリティリゾートもてぎが開催する参加型耐久レース「Joy耐」をご存知でしょうか。2001年に初開催されたこのレースは、JAF国内A級ライセンス以上を持つドライバーなら誰でも参加でき、2009年からハイブリッドカーも参加できるクラスが設立されるなど、トレンドに合わせ様々な車種が参加するJAF公認レースです。このレース参戦を通して培った知見やノウハウを市販車へフィードバックする、チームのプロジェクトリーダーに話を聞きました。

「Joy耐 CIVIC e:HEV」 「Joy耐 CIVIC e:HEV」

Honda DNAとJoy耐 CIVIC e:HEVの関係性とは

CIVICは2022年に50周年を迎えたHondaを象徴するモデルの一つです。Hondaのモータースポーツといえば「Type R」を思い浮かべる人も少なくない中で、東京オートサロン2024に出展したJoy耐参戦モデルのCIVICは「スポーツe:HEV」。Type Rはサーキットでのレース参戦も想定されたモデルである一方で、e:HEVは世界トップクラスの効率を目指して開発された市販車向けのパワートレインです。

創業者である本田宗一郎の「レースをしなけりゃクルマは良くならない」という言葉にあるように、モータースポーツ活動を通して市販車へフィードバックする開発アプローチの考え方は、Honda創業以来の企業文化からくるもの。このJoy耐 CIVIC e:HEVの活動は、レース参戦を通して、市販車に搭載するスポーツe:HEVの技術を磨き上げる、Hondaらしさあふれる取り組みの一つなのです。

2023年11月 ミニJoy耐で走行するCIVIC e:HEV 2023年11月 ミニJoy耐で走行するCIVIC e:HEV

耐久レースに本気になる理由 挑戦する意義とその成果

2020年からの3年計画でFIT e:HEVでのJoy耐レース参戦の責任者を務め、引き続きCIVIC e:HEVでも陣頭指揮を執る奥山貴也に、レース参戦の背景から成果、今後について話を聞きました。

Joy耐プロジェクトリーダー 奥山貴也 Joy耐プロジェクトリーダー 奥山貴也

レース参戦のきっかけは何だったのでしょう?

奥山
奥山

2020年にフルモデルチェンジしたFITのメディア向け試乗会での、「新型FIT e:HEVでレース参戦してみては?」というジャーナリストの方からのコメントがきっかけです。私が、FITの開発時はダイナミクス領域の責任者、発売後はFIT全体の開発責任者ということもあり、サーキット走行に合わせたセッティングを施し、レースに出ることは、大きな学びになると思ったからです。

Joy耐は、SUPER GTなどといったプロフェッショナルなレースではなく、アマチュアを中心としたレースですが、なぜJoy耐を選んだのでしょうか?

奥山
奥山

エントリーのハードルがあまり高くないのに、れっきとしたJAF公認レースで、人気も高い。e:HEVで初めてレースに挑戦する場としてだけでなく、市販車へのフィードバックが求められるという点において、市販車で参戦できるJoy耐のレギュレーションは、プロジェクトの推進にマッチする環境でした。

レースへの参戦当初は順調でしたか?

奥山
奥山

Joy耐には、2分50秒を切らないと参加できないというルールがあるのですが、最初のラップタイムは2分46秒。これはなんとかクリアできたのですが、参加車の中では最下位付近でした。ほとんど市販車と変わらない状態からスタートしているので仕方ないと思う以上に、「悔しい」という想いが込み上げてきました。現場では誰も口に出さなかったのですが、全員の目が釣り上がっていたので、スタッフみんな同じ想いだったはずです。振り返るとそれもいい経験です。悔しさをバネに「1秒でも速いクルマにするんだ!」という気持ちに火がついて、一丸となっていきました。

最終的にはどれくらい進化したのでしょう?

奥山
奥山

最終的なベストラップは2分24秒です。3年計画ですが、レースは1年に2回なので、チャンスは多くありません。その中で20秒以上を短縮できたというのは、大きな成果と捉えています。

e:HEVとしての進化はバッテリーの使い方です。サーキットを走る中で、バッテリーに貯めた電気をいかに効率良く速さに繋げていくかが課題でした。最初は電気をたくさん使って速くしようと試みましたが、それでは頭打ちになってしまう。電気モーター駆動の強みは低速域からの立ち上がりにあるので、コーナーの立ち上がりでバッテリーの電気を使いつつ、ある程度速度がのってきたら使用をやめる。高速域はエンジン発電のみ。そういう制御に変更したところ、バッテリーを効率良く使えるようになりました。市販車の開発だけでは得られなかったと思いま

FIT e:HEVで参戦した3年間の振り返りと、その成果を聞かせてください。

奥山
奥山

Joy耐は「1回の最大燃料給油量」と「ピットの滞在時間」がルールで定められており、燃費性能との両立も肝要で、先にお話しした電気モーター駆動の強みを活かすための制御に取り組んできました。Joy耐への参戦で得たノウハウを活かし、発売から3年後のマイナーチェンジでFIT e:HEV RSの制御ソフトウエアにフィードバックできたことは大きな成果です。ワインディングでの立ち上がりの力強さや、「操る楽しさ」と「爽快な乗り味」をより一層ご体感いただけると思います。

※FIT RSとは、FITの中でも専用の装備やセッティングを加えることで、日常から遠出のドライブまで、爽快な走りを楽しめるよう特別に設定されたタイプ

この活動の中で、プロジェクトメンバーたちの関わり方、また、プロジェクトを通して見られたメンバーの成長について教えてください。

奥山
奥山

FITの開発メンバーと制限せず、e:HEVでレースをやってみたいという人を若手中心に募集しました。手を挙げてくれたスタッフは、ただレースがしたいというだけではなく、e:HEVのポテンシャルや可能性を追求してみたいという気持ちが強かったようです。最初は引っ込み思案というか、あまり積極的でないと感じた部分もありましたが、活動を通してみるみる変わっていきました。積極的に発言したり行動したりすることで、結果が向上していくことに気付いたのでしょう。また、それらをプレゼンテーションする能力も格段に上がりました。

Hondaがモータースポーツへの参戦やスポーツモデルの開発にこだわるのは、それらが人材育成にも役立つという考えを持っているから。それが証明されたと言えるのでしょうか?

奥山
奥山

そうですね。自動車開発は優秀なエンジニアが一人いるだけではできません。チームでやるものなので、コミュニケーションが大切であり、プレゼンテーション能力などは必須だと思います。また、専門領域だけを徹底的に追求するだけでは進化は止まってしまうので、垣根を超えて専門領域以外のことを知ることも大切です。レース参戦を通して、自動車開発において重要なことを短期間で吸収していく様子が見られました。

市販車の開発においても、課題に対する改善を繰り返すスピードが上がったと思いますし、私自身も開発メンバーとのコミュニケーションや伝え方が変わった気がします。

参戦車両がCIVIC e:HEVに代わりますが、スタッフはどうなるのでしょうか? また、クルマへの期待感も聞かせてください。

奥山
奥山

私以外のスタッフは、すべて入れ替えとなりました。FIT e:HEVは1.5Lエンジンに対してCIVIC e:HEVは2.0Lエンジン。FIT以上にハード・ソフトともに多くの技術が入っているため、やるべきことが多く、違ったアイデアが必要になります。それでも2023年11月のミニJoy耐ではいきなりFIT e:HEVよりも速いラップタイムだったので、今後に向けた期待は大きいです。新しいスタッフも、初めてとは思えないぐらいに一体感がありました。初レースということでFIT参戦期のスタッフが手伝いに来てくれて、先輩達の慣れた動きを現場で見て学ぶことができたのも大きかったと思います。今ある課題を乗り越えながら、改善を繰り返し、市販車にフィードバックできる意義ある活動にしていくつもりです。
今回、新たな挑戦にかける想いをこのボディーカラー、「スカーレット・レッド」に込めている点もスタッフのこだわりです

Hondaの「操る喜び」を将来に継承していく

このJoy耐の活動を通して、FIT e:HEV RSの走行性能に磨きがかかったことはHondaにとって一つの成果であり、レース活動にかけるスタッフメンバーの想いと挑戦の繰り返しがいかんなく活かされています。

2023年10月に開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」では、自動車業界だけでなく、様々なモビリティ産業が出展しました。その中でHondaは、HondaJetやeVTOLをはじめ、パーソナルモビリティであるUNI-ONEなど様々な領域のモビリティだけでなく、本格的な電動化時代へHonda DNAの根幹である「操る喜び」を継承していくモデルとして、将来、スペシャリティスポーツモデル「PRELUDE Concept」が登場することをアナウンスしました。

「PRELUDE Concept」 「PRELUDE Concept」

レース活動を通じてカーボンニュートラルの実現と「操る喜び」を両立するヒントを見つけられると信じ、これからもHondaはモータースポーツ活動に挑戦し続けます。

<関連記事>

この記事は面白かったですか?

  • そう思う
  • どちらともいえない
  • そう思わない

今後の改善の参考にさせていただきます!

Index