「Miimo」(以下、ミーモ)は、ライフスタイルの変化や高齢化といった背景から、欧州を中心に市場が広がるロボット芝刈機。芝刈機としての機能性は保ちながらお客様の日々の暮らしに溶け込む「優しさと親和性」を感じられるデザインを目指し、「Hondaらしいロボット芝刈機のカタチ」を生み出したデザイナーの想いをご紹介します。
暮らしに馴染み、愛着の持てる“ロボット芝刈機”を目指して
成熟したガーデンライフの意識変化
前田:ミーモが生まれた背景の一つに、主要マーケットである欧州におけるお客様の意識変化があります。以前は庭の芝刈りは家主の腕の見せ所の一つで、休日には一生懸命に自分の庭を美しく刈り整えて、それを自慢し合うような習慣もありました。しかし現在ではそうした作業時間を、家族と触れ合ったり芝地でくつろいだりする時間として使いたい、といった傾向が強く、それに伴い「完璧な庭でなくてもいい。休日は家族みんなでゆっくり過ごしたい」というトレンドが広がってきました。
市場調査で確信した家族の一員としての存在
帰国後「Hondaのロボット芝刈機のカタチ」を考えるとき、やはりあのご家庭で目にした「ペットみたいな存在」という捉え方が強く残っていました。そこでフレンドリーで優雅なガーデンライフという世界感において、ミーモのデザインは「やすらぎ」や「幸せ感」を大切にしようと決めました。
人の気持ちが穏やかになることを目指したデザイン
芝生のある庭で癒しの時間を過ごすガーデンライフでは、作業ロボットといえどもゴツゴツした感じではなく、優しい印象でどちらかというと生き物というか有機的なカタチの方が、芝生のある風景にも、またお客様の暮らし方にも馴染むのではないかと考えました。
そのため基本となる色は、Hondaの発電機や耕うん機で使用している主力カラー「パワーレッド」ではなく、芝生で癒しをもたらす色として、明るいベージュ色「マッキンレーホワイト」を採用しました。
芝刈機は庭を走り回ると枝や小石などで傷がついてしまいます。そのためミーモには全周にグレーのラウンドシェイプ形状のバンパーを設けています。大切な植木にぶつかっても、弾力を感じる柔らかな雰囲気に。ホワイトのボディーは、エッジと曲面によってソフトクリームをスプーンですくったような、優しい中にも“躾(しつけ)”のあるイメージのデザインを目指しました。
また、充電ステーションに接続する開口部は、あえて「笑った口」のようにデザインし “愛嬌のあるマシン”として表現しました。
デザインのすべてに込められた機能性と安全性
ミーモは庭に設置される「ロボット芝刈機」です。作業がしっかり行えるための機能はもちろんですが、作業中に人が介在しないからこそ必要な機能や安全性への配慮があります。そうした機能性とミーモの世界観が両立しうるデザインをすることでお客様に喜んでいただける製品になると考えました。
例えば雨風で汚れてもいつも綺麗でいられるカタチはどんなものか? そこでボディーにはなるべくひっかかりをなくしたり、白と黒の間の溝に雨樋を設けたり、ほこりや落ち葉がのっても自然に落ちやすくなるような「カタチの工夫」を盛り込みました。
ミーモの中心部にある「刈刃」は手が届きにくいように配置し、万が一作動中に持ち上げた際には刈刃の回転を止める機能など安全設計が施されています。車高を低くし、バンパーでタイヤまで隠したのもその理由からですが、デザイナーとしては車体を低くタイヤが見えないカタチにするなら逆に空中に少し浮かぶ、浮遊しているようなスタイリングにし、滑らかな走行感を演出しました。
「緊急停止スイッチ」には赤いアクセントカラーを採用。連動する操作パネルとそのカバーデザインは、ユーザーの体格差があっても、操作カバーを開けば日差しを遮り、ディスプレイを見やすくする微妙な位置と角度で設計されています。
高性能の進化版Miimo HRM3000は“成長したお兄さん”
お兄さんとしての位置づけ
私が担当したHRM3000は、第1弾であるHRM520の進化版として高機能化された欧州向けのモデルです。HRM520よりも高性能でサイズも大きくなりました。第1弾のデザイン開発を横で見てきたこともあり、継承すべきところ、例えば生き物感という「家族の一員である」という要素は第2弾でも外せないと初めから思っていました。デザインする際には第1弾と一緒にお店に並んだとき、HRM3000が少しお兄さんに見えるようなイメージを考えていました。
人間や動物の子どもの頃は、愛らしくて守りたくなる丸みのある身体つきなのに対し、成長するにつれ筋肉がついて骨格もしっかりしてきて、身体能力も大きく上がっていきます。そんな生き物として「成長した体躯」のイメージをHRM3000には持たせたい。機能性の向上を成長した部分として取り込み、ミーモの世界観に融合させて「お兄さんミーモ」としてデザインしました。
身体が大きくて脚力も強い
HRM3000はアイボリーの部分が減ることで、どうしても機械の雰囲気が強くなります。それを逆手に、新機能が追加されていることをしっかり表現したデザインを考えました。
例えば作業する庭には意外と穴や段差などがあり、そこで止まってしまうことがあります。しかし、そこで動くのをやめるとロボット芝刈機の意味がありません。止まったら人が手に持って移動させなくてはいけなくなる。そのためHRM3000はロボット芝刈機のあるべき機能を実現するためにタイヤが大きくなりました。
そういった機能的に向上した部分は上位機種として表現するべきであろうと、一番目立つ白と黒とコントラストの部分を盛り上げています。機械的・機能的にはなってしまうものの、「お兄さんミーモ」としての表現ができたと思っています。強いお兄さん、少し身体が大きくて脚力も強いお兄さんのイメージです。
デザインが人を幸せにする
Hondaのパワープロダクツには「暮らしに役立つモノをつくる」という理念があります。デザインする際も「この製品はお客様の暮らしのお役に立つのか」、もっと言えば「豊かな暮らしにつながるのか」という視点は非常に重要です。
実際、お客様の声を聞くと「色々と機能があるけれど置いてあったときにカワイイ」とか、ある息子さんは「高齢になったお父さんのためにミーモを買ってあげたらお母さんも喜んだよ」という話をされていました。製品のみならず、製品が使われているシーンや生活感を演出できるように踏み込んでデザインを考えることで、お客様だけでなくそのご家族までも幸せになっていただけるということもあるんだな、と改めて知る機会にもなりました。
ロボットは動き方や共存の仕方によっては愛着の持てる存在にもなり得る。使っている人に「もっと見ていたい」とか「そこにいてくれるとうれしい」という感情を持ってもらえるような存在にすることが、ロボットをデザインする際には大切なのではないかと思います。
Miimo HRM520の技術についてはこちらをご覧ください。
DESIGNER’S MESSAGE
家族みんなに愛されるペットのような存在
ミーモはロボットとはいえ、雨にも風にも負けず黙って一生懸命お庭のお手入れをする姿や、眠っているように充電している様子を見ていると、とても健気で愛着の湧く商品です。家族の一員として、愛着を持って接していただき、より素敵なガーデンライフとともに、穏やかな気持ちになっていただければ幸いです。
大切な場所に置きたくなる・見せたくなる
コーヒーなどを飲みながら遠くからミーモが作業している様を眺めていると、なんとも言えない癒される感じがあります。その癒される感じは、「もしかしたら芝を自動で刈ってくれることよりも価値があったりして……」と思ってしまうくらいです。
モデルの詳しい情報はこちら
この記事は2018年2月15日に公開されたものの再掲となります。
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私はミーモの開発が始まる以前に、ヨーロッパのご家庭でお庭を拝見させていただく機会がありました。そこで目にした風景は何とも微笑ましいものでした。そのご家庭の庭にあるロボット芝刈機にはペットのように名前が書かれていて、作業中も飼い犬や猫が一緒に遊んでいるのです。単なる作業機械ではなく、家族の一員として扱われていたロボット芝刈機が暮らしに馴染んでいる様子を目の当たりにし、改めて家庭に浸透しつつあることを実感しました。