製品 2023.12.18

「次世代ユーザーに新しい付加価値を」Z世代向け中国電動バイク戦略に迫る

「次世代ユーザーに新しい付加価値を」Z世代向け中国電動バイク戦略に迫る

「世界一じゃなきゃ日本一じゃない」。創業者・本田宗一郎の言葉どおり、積極的にグローバル展開してきたHonda。Honda Storiesは、海外拠点における現地の取り組みについても、取り上げていきたいと考えています。今回、取り上げるエリアは、急速にモビリティの電動化が進む中国。世界でも群を抜くEV大国で、電動化が進むのは四輪だけではありません。「生活の足」として二輪が重宝されてきた中国では、電動二輪車がライフスタイルの変化に伴い進化を遂げてきました。世界有数の中国の電動二輪市場にどう向き合うのか。異業種コラボなどZ世代をターゲットに中国で展開される大胆な電動二輪販売戦略に迫ります。

古山 雄介(こやま ゆうすけ)

本田技研工業(中国)投資有限公司(HMCI) 上海分公司
二輪商品企画部 企画科科長
古山 雄介(こやま ゆうすけ)

2014年Honda入社。二輪事業企画室でグローバルの競合他社分析などを担当後、ホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)へ出向。その後グローバルFUNモデルの商品企画担当者(SPL)、南西アジア担当の営業を経て、2021年に新大洲本田(SDH)へ異動し、2023年10月から現職。新大洲本田在籍時は、販促企画の立案から販売までの営業に従事し、生産・販売・在庫管理、商品企画、広告宣伝を担当。

黄 鶴(こう かく)

本田技研工業(中国)投資有限公司(HMCI) 上海分公司
二輪商品企画部 DreamWing事業科 科長助理
黄 鶴(こう かく)

2010年本田技研工業(中国)投資有限公司(HMCI)入社。企画科で商品企画の商品企画担当者(SPL)、JV会社との対価交渉、輸出拡大ビジネスミーティング、JV開発体制づくり、ブランドおよび商品宣伝に従事し、2023年7月からDreamWing事業科で販売網改革に携わる。電動二輪戦略プロジェクトでは、ユーザー分析から、広告宣伝、新品発表会、販売店入店誘導まで、販促施策を一貫して担当している。

渡辺 一史(わたなべ かずし)

ワールド IR・グループコミュニケーション室 室長
渡辺 一史(わたなべ かずし)

1989年ワールド入社。経理やIRなどの管理部門に携わった後、2004年に上海へ異動。生産系グループ会社、アジア経営管理統括会社、販売会社などのマネジメントに従事し、2020年からは日本の事業会社のマネジメントも兼任、2022年から現職。電動二輪戦略プロジェクトでは、新大洲本田とコラボしたライフスタイル発信型電動旗艦店のコンセプトづくりから販売促進サポートを責任者として推進。

総保有数3.4億台。中国で電動二輪車が普及してきたワケ

2023年現在、中国での電動二輪車の総保有数は3.4億台にのぼる
2とりわけ普及が進んでいるのが自転車に電動モーターを搭載したEB(Electric Bicycle/電動自転車)である
中国の電動自転車は✔見た目はスクーターに近い✔足元にペダルがついているのが特徴的だ
中国で電動二輪車は大きく3つのタイプに分類される
中国で電動二輪車は大きく3つのタイプに分類される
中国のEBは免許証不要のため、電動モビリティ初心者でも乗り始めやすい点が、市場を牽引する要因となっています

Honda EB“3兄弟”の狙いはZ世代。感度の高いデザインで、次世代ユーザーにアピール

——23年1月に、Hondaは中国で電動二輪車3モデルを発表しました。各モデルの特徴を教えてください。

古山

「Honda Cub e:」「ZOOMER e:」「Dax e:」の「Honda e:」シリーズ※1は、「Super Cub」(1958)、「Dax」(1969)、「ZOOMER」(2001)と、Hondaを代表する機種をモチーフにしたモデルです。3モデルのいずれも、中国における電動二輪車の区分ではEBにあたります。若い世代をターゲットにした洗練されたデザインが特徴で、従来のシルエットを活かしながら、アイコニックさにこだわった機種になっています。

※1 中国専売モデルとなるため、日本での発売は予定していません

古山

中国でHondaの二輪車のユーザー層は40〜50代がメインで、生活の足、仕事の道具として実用的な使い方をしているケースがほとんどです。しかし、世界最大規模の中国市場で生き残っていくには、次世代に向けた新たなブランディングにも挑戦する必要があると考えていました。そうして模索するなかで生まれたのがこの“3兄弟”です。

他業種とのコラボ企画やSNSの活用など、若い世代へのアプローチは従来とは異なる新しい試みばかりで、Hondaにとっても大きなチャレンジでした」(古山) 「他業種とのコラボ企画やSNSの活用など、若い世代へのアプローチは従来とは異なる新しい試みばかりで、Hondaにとっても大きなチャレンジでした」(古山)

——3モデルの強みはどんなところにありますか?

古山

中国のEBの平均市場価格帯2,000~3,000元(日本円で約4万~6万円/2023年11月時点レート換算)に比べると、“3兄弟”は高価格帯といえます。圧倒的な国内シェアを誇る中国メーカーが日本メーカーと決定的に違う点は、商品開発のスピードと大量生産による安価提供です。この早さと安さには、そう簡単に太刀打ちできないと考え、思い切ってターゲット層にZ世代を取り込むことで、中国メーカーの製品にはない新たなゾーニング確立を目指しました。

——Z世代をターゲットにしたのはなぜでしょうか?

日本と同じように、中国のZ世代も日頃からSNSを使いこなし、トレンドに敏感で情報感度の高い層です。製品に対して本物志向が強く、オリジナリティーを求める傾向があります。1990〜1995年生まれはいわゆる「一人っ子世代」※2で、兄弟がいない分、コミュニティーやサークルの文化が強く、同じ趣味嗜好の人たちとのつながりを求めています。

時間や場所にとらわれず、行きたいときに行きたいところへ移動する。そんな自由な気質に加え、自己表現意欲をもちあわせた中国のZ世代にとって、“3兄弟”は単なる移動手段ではなく、自分を表現するツールとして受け入れられ、ライフスタイルの一部として定着するのではないだろうか。そう考え、ブランディング戦略を大きくシフトチェンジしました。“3兄弟”はHondaの次世代ブランド構築を実現するターニングポイントになる。そんな期待をもっています。

※2 中国は一組の夫婦がもうけることができる子供の数を制限する「一人っ子政策」を1979~2016年に実施。中国のZ世代は一人っ子政策下で生まれた世代となる

——Z世代に刺さるために、どんな工夫を凝らしましたか?

古山

デザインの部分でいうと、ガソリン車時代のクラシックなモデルを単に電動化するのではなく、Hondaらしさをベースにしながらも、SNS映えするような、次世代らしいスタイルを追求しました。普段は地下鉄やタクシーを利用している若い世代にも、Hondaの電動二輪車に興味をもってもらい、ファッションアイテムとしてかっこよく乗りこなしてほしい。そんなイメージを浮かべながら戦略をつくっていきました。

未来感のあるクールなデザインは何より自慢したいポイントです。開発を進めていくなかで、ターゲット層に近い若手社員にヒアリングを行い、彼らのアイデアやトレンドを積極的に取り入れるようにしました。

「実際、社員が街中で乗っていると、「そのバイクかっこいいですね」と声をかけられることもあるそうで、そういう声を聞くのもうれしいですね」(黄) 「実際、社員が街中で乗っていると、「そのバイクかっこいいですね」と声をかけられることもあるそうで、そういう声を聞くのもうれしいですね」(黄)

——デジタルを含めた新しい販売施策について、詳しくお聞かせください。

販促で大きく掲げたことは、ユーザーとの交流を含めた製品のアプローチです。例えば、製品の発表会を現地の説明形式ではなくオンラインで実施し、中国二輪市場では初の試みとなるメタバースを活用するなどし、体験型の訴求を重視しました。また、TikTokの公式アカウントと連携させたEコマースサイトへの誘導や、インフルエンサーを起用した商品説明など、アパレル業界のマーケティング事例を参考に新しい施策を打ち出しています。上海にある日本のアパレルブランド「niko and ...」の店内に“3兄弟”を設置し、日常的なファッション×電動二輪車がイメージできるような展示をし、拡販強化につながったケースもあります。

——実店舗におけるモビリティの販促で、異業種コラボは珍しい取り組みです。そのような形態にしたのはなぜでしょうか?

Z世代のコミュニティー意欲やトレンド志向の高さを考慮し、まずはアパレルや飲食といった身近な要素で注目を集め、そこをきっかけに店舗に長く滞在してもらい、購入の可能性につながるようなPR・販促の導線づくりに力を入れました。いかにお店全体で楽しんでもらえるかを考えるのは大変でしたが、実際に狙いとしていた若い方たちにお店に来ていただき、興味をもってもらったときは本当にうれしく感じますね。

「niko and ...」上海南京西路店で行ったポップアップ展示の様子。Honda以外の入口から興味をもったユーザーとのつながりを広げる意図もあり、製品の世界観とマッチしたブランドとのコラボ企画は積極的に展開している 「niko and ...」上海南京西路店で行ったポップアップ展示の様子。Honda以外の入口から興味をもったユーザーとのつながりを広げる意図もあり、製品の世界観とマッチしたブランドとのコラボ企画は積極的に展開している

電動二輪車の横で服を買う?業界でも異例の「衣・食・乗」コラボが実現した背景

——23年3月にライフスタイル発信型の電動旗艦店「上海静安店」がオープンしました。お店のコンセプトを教えてください。

渡辺

都心部に暮らすポジティブで若々しい感性の人たちをターゲットに、「安心・安全・快適・楽しい電動自転車のある暮らし」をコンセプトにお店をつくりました。次世代の移動ツール×アパレル×飲食を複合した、ワクワクするような「衣・食・乗」空間が特徴です。ワールドは、ブランディングからコンセプトづくり、店舗設計から空間演出、そして店内で販売するTシャツや雑貨などの商品開発やカフェのプロデュースを手がけました。

「Be Wardrobe / Mobility Life Coordinate」がテーマの店内には、電動二輪車と一緒にファッションアイテムや生活雑貨が並ぶ 「Be Wardrobe / Mobility Life Coordinate」がテーマの店内には、電動二輪車と一緒にファッションアイテムや生活雑貨が並ぶ

——どのような経緯でワールドと手を組むことになったのでしょうか?

古山

中国でも日本にあるような、ずらりとモビリティを並べた昔ながらの販売店は点在していますが、今回は若い世代をターゲットに「新しい付加価値」を提案することが訴求の軸にあったので、ファッショナブルな商品展開やSNS活用など、お客様とのコミュニケーションを活性化できる新たな販売形態を模索していました。そのなかで、当初はアパレルアイテム制作のアイデアがあり、ワールドさんにお声がけしました。

渡辺

お話をいただいたとき、「ぜひやりたい」と思った反面、既存の店舗でアパレルアイテムを販売するだけでは売上を立てるのは難しいという懸念もお伝えしました。そこで、ライフスタイル発信型ショップを立ち上げ、アパレルや飲食と組み合わせた新しいコンセプトの店舗づくりからブランディングしていくのはどうでしょうかとご提案しました。ワールドはこれまでにも異業種とコラボした店舗を多数手がけてきましたので、そのノウハウを活かして、Honda製品の魅力をさらに引き立てられると考えました。

古山

電動旗艦店の新規立ち上げという発想に、はじめは正直驚きましたが、しのぎを削る中国の二輪市場を前に、新たなお客様を獲得していかなければならないという想いも強くあったため、ワールドさんとともに協議しながら、一緒にプロジェクトをスタートしました。とにかく初めての試みだらけで、ワールド様・新大洲本田のスタッフ・販売店オーナーなど国境を越えた日中のチームで一枚岩になるのに苦労しましたが、何度も膝を突き合わせて議論を重ね、いまでは新大洲本田の最量販店舗まで育ったことに喜びを感じています。

ワールドがサポートした展示事例。上海高島屋2階でレディースブランド「UNTITLED」とコラボ(左)し、同館の1階では電動二輪車のラインナップと共に、ライフスタイル提案型のディスプレーで、買い物客の興味を誘った ワールドがサポートした展示事例。上海高島屋2階でレディースブランド「UNTITLED」とコラボ(左)し、同館の1階では電動二輪車のラインナップと共に、ライフスタイル提案型のディスプレーで、買い物客の興味を誘った

——オープンから半年ほど経過しました。どのような手応えを感じていますか?

古山

ワールドさんならではの販促の成功事例を導入し、ライブ配信までサポートいただきました。またSNSの毎日投稿なども実行した結果、上海静安店の公式SNSアカウントのフォロワー数は施策前後で何十倍にも増加し、店舗の外でも活発なコミュニケーションが生まれています。今後、この上海静安店の実績を活かして、従来のスキームに依存しない、新たな販売システムを構築していくとともに、他店舗にもノウハウの水平展開をしていければと考えています。

実は、上海静安店の立地はそこまで若者が多く集まるエリアではないんです。それでも、SNSを見て遠方からいらっしゃるお客様が増えており、大きな手応えを感じています。今回の取り組みが、多店舗化へつながる大事な一歩になったと感じています。

バイクユーザー以外のお客さまも気軽に入店できるよう工夫されたナチュラルテイストの空間で、商品を手に取ってみたりと、じっくりショッピングを楽しむことができる バイクユーザー以外のお客さまも気軽に入店できるよう工夫されたナチュラルテイストの空間で、商品を手に取ってみたりと、じっくりショッピングを楽しむことができる

——20年近く中国に駐在され、中国市場を熟知している渡辺さんからみて、Hondaにどんな印象をもちましたか?

渡辺

“3兄弟”を初めて目にしたとき、都心部で暮らす若い世代にファッションの一部として愛されていくだろうなというイメージが浮かびましたし、Hondaさんが培ってきたスピリットと財産が見事にあらわれているなと感じました。

ワールドとしても、HondaのDNAをしっかり店舗に反映したいと考えていましたので、チームで何度も話し合い、製品訴求と空間づくりとのバランスにズレが生じないよう心がけました。コロナ禍という事情もあって、国や組織、文化や価値観の垣根を越えて足並みをそろえていくことは大変で、ワンチームになるまでに時間と労力をかなり費やしました。

オープンイベント時に店舗の前でHonda関係者と代理店オーナーと共に(左から4番目が渡辺)。「苦労した分、喜びも格別で、実際にお店がオープンしてお客様が増えていくのを実感できたときは本当にうれしかったです」(渡辺) オープンイベント時に店舗の前でHonda関係者と代理店オーナーと共に(左から4番目が渡辺)。「苦労した分、喜びも格別で、実際にお店がオープンしてお客様が増えていくのを実感できたときは本当にうれしかったです」(渡辺)

Hondaのスローガンに「The Power of Dreams」と「How we move you.」があります。電動二輪戦略を通じて、いまどんな夢をもっていますか?

古山

今回はプロジェクトに自ら手を挙げたこともあり、強い意志を持ってやりとげようという想いがありました。だからこそ夢中になれたし、みんなで知恵を出し合いながら、結果的にいいものをつくることができたと自負しています。黄さん含め若いメンバーや、ワールドさんをはじめとする異業種の方々との関わりも深まり、たくさんの気付きを得ることができました。プロジェクトを進めていくなかで、チームがどんどん強くなっていく感覚があったのですが、それが今の自分の原動力になっています。自分たちが意思を持って動いた結果、どんどん賛同してくれる方が多くなり、総力で何かをやり切る、これは今まで体感した事の無いレベルの出来事でした。これからもチャレンジし続けたいと思います。

今回のプロジェクトをきっかけに、現場の仕事が増え、どんどん外に出ていくことで視野が広がり、よりお客様のライフスタイルを具体的にイメージできるようになりました。

もともとHondaに興味をもったのは、父が乗っていたバイクがきっかけでした。30年以上経ったいまも現役で、Hondaというブランドへの信頼感は、そのときからいままでずっと続いています。これからも、常に新しいことにチャレンジしていき、Hondaのブランドを守り続けていきたいですね。

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