モータースポーツ・スポーツ 2023.12.06

「4年後に日本一」。ラグビー部「三重ホンダヒート」、日本最高峰の舞台への挑戦

「4年後に日本一」。ラグビー部「三重ホンダヒート」、日本最高峰の舞台への挑戦

三重県に拠点を置き、日本最高峰のラグビーリーグであるJAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)に所属するHondaのラグビーチーム「三重ホンダヒート」。2023-24シーズンから、DIVISON1へ昇格し、新たなチャレンジが始まります。チームのキーマンたちへ意気込みやチームの魅力、そして「夢」を伺いました。

前田芳人(まえだ よしひと)

三重ホンダヒート ゼネラルマネージャー
前田芳人(まえだ よしひと)

1996年に本田技研工業へ入社。選手引退後、チーム運営に携わった後、社業に専念。2015年より再びホンダヒートへ加入し、チームディレクター、ヘッドリクルーターを経て、2018年より現職。

古田凌(ふるた りょう)

三重ホンダヒート 主将
古田凌(ふるた りょう)

2018年にホンダヒートへ加入。2022年より主将を務める。ポジションはFWで主にフランカー、No.8を担い、激しいタックルなど献身的なプレーでチームを引っ張る。

キアラン・クローリー

三重ホンダヒート ヘッドコーチ
キアラン・クローリー

1961年、ニュージーランド出身。プレーヤーとして、“オールブラックス”の愛称で知られるニュージーランド代表として、1987年、1991年のラグビーワールドカップを戦い、その後指導者に。カナダ代表、イタリア代表のヘッドコーチを歴任し、2023年からヒートを率いる。

悔しい経験を乗り越えてたどり着いた日本最高峰の舞台

ラグビーにおける日本最高峰の舞台「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)」。全国各地に拠点を置くラグビーチームを強さの順に、DIVISION1(12チーム)、DIVISION2(6チーム)、DIVISION3(5チーム)と分かれて優勝を目指して戦います。

鈴鹿市を拠点に活動する「三重ホンダヒート」。チームの活動方針から編成まですべての責任を担うのが、ゼネラルマネージャー(GM)の前田です。2015年からチーム強化に携わり、見事に日本最高峰の舞台であるDIVISION1への昇格を勝ち取りました。しかし、ここに至るまでは悔しさの連続だったと言います。

――2021年に新設されたリーグワンで、3つあるDIVISIONのうち、ホンダヒートは当初DIVISION2に振り分けられました。当時の想いをお聞かせください。

前田

2017-2018シーズンのトップチャレンジリーグ(現在のDIVISION2に相当)を無敗で優勝し、翌シーズンもトップリーグ(現在のDIVISION1に相当)総合9位と、ほかのチームに遜色ないパフォーマンスを発揮できていました。ただ、その後でコロナ禍となり、チームを強化する動きがなかなかできなかったことで、ほかのチームとの差が少しずつ開いてしまったと認識しています。逆境だからこそ「絶対に昇格してやるぞ」というマインドで初年度を戦い抜きました。

「どんなことがあっても“切れない”チームでありたい」と語る前田。集中を切らさず、決してあきらめないチーム姿勢が根付いている「どんなことがあっても“切れない”チームでありたい」と語る前田。集中を切らさず、決してあきらめないチーム姿勢が根付いている

――初年度のDIVISION1への昇格を賭けた入替戦では、新型コロナウイルスの感染者が出るなど、不運にも見舞われました。

前田

入替戦目前の検査で感染による欠場者が多く出て、初戦は負けてしまいました。2戦目では勝利できたのですが、勝ち点差によって昇格を逃し、非常に悔しかったですね。ただ、試合内容を踏まえて「俺たちは昇格に値するチームなんだ」という自信を持つこともできた。この勝利が翌シーズンでの昇格決定につながったと考えています。

2022-2023シーズンの入替戦は、奇しくも前年と同じチームが相手に。2連勝で悲願の昇格を決めた2022-2023シーズンの入替戦は、奇しくも前年と同じチームが相手に。2連勝で悲願の昇格を決めた
(映像はこちらから視聴可能)

メンバーの強化もした上で臨んだ昨シーズンは、入替戦で2戦とも勝利。接戦ではありましたが、1点差でも勝ち切れたことは、チーム強化を続けてきた成果だと考えています。

――今シーズンは選手の強化とともにヘッドコーチに、イタリア代表を率いてラグビーワールドカップ(W杯)でも戦ったキアラン・クローリー氏を招きました。強化のポイントやコンセプトを伺えないでしょうか。

前田

新ヘッドコーチ(HC)のキアランは、チームを次のレベルへと高めるために必要な存在です。
昨今、ラグビーに人生を賭けた選手たちが世界からヒートに集まってきていて、チームとしては、そういった選手達の想いに応えるためにも、指揮官も同様に、ラグビーに人生を賭けられる人材、そして世界での実績が豊富な人材を――という思いから、キアランに声をかけました。

チーム合流直後にスタートした和歌山合宿で、キアランHCは情熱あふれる指導ぶりを早速披露したチーム合流直後にスタートした和歌山合宿で、キアランHCは情熱あふれる指導ぶりを早速披露した

――キアラン氏を選んだポイントは何だったのでしょうか。

前田

短期的に結果を残せても、継続的に勝てるチームにはなりません。キアランはナショナルチームでの豊富な指揮経験があり、長期的に結果を出している。まさにピッタリの人材です。事前に面談をする中で、年齢を感じさせない情熱があり、何より選手想いだったところもポイントでした。Hondaの基本理念の一つに「人間尊重」があるように、ヒートも選手を大事にするチームですので、同じ感覚を持っていると感じました。

――チーム強化では、英国・イングランドのトップチームであるハーレクインズとの提携がスタートし、この夏は2名が留学しました。

前田

海外チームとの交流は技術だけでなく、選手のマインドの面でも効果があり、チームに新しい風を入れられます。イングランドのラグビーはフォワードのパワフルさや、司令塔の緻密なゲームコントロールが特徴です。留学した選手たちも、その薫陶を受けて大いに成長してくれました。

また、選手の成長だけでなく、マーケティング面でも多くの刺激を受けています。我々は、これまで企業スポーツとして収益の優先度を下げて長い間取り組んでいたのですが、今のヒートはHondaのスポーツクラブとして初の事業化を目指しています。英国は、「スポーツで稼ぐ」文化が国全体に根付いているため、事業としての取り組みについても、たくさん勉強させていただいていますね。

ハーレクインズへ約3か月のラグビー留学をした根塚 聖冴(ねづか しょうご)選手は、自身の成長を実感ハーレクインズへ約3か月のラグビー留学をした根塚 聖冴(ねづか しょうご)選手は、自身の成長を実感

DIVISIO1で戦えるチームに。キャプテンが感じるチームの変化

DIVISION1は、W杯で活躍した各国の代表選手も多く参戦し、世界トップレベルのプレーが見られる舞台でもあります。その日本最高峰へ挑戦するヒートは、どんな戦いぶりを見せてくれるのか、キャプテンを務める古田選手に聞きました。

古田

ヒートのラグビーを一言で表すなら、「エキサイティングラグビー」です。試合の行われる80分間、熱くがむしゃらに最後までチャレンジするのが特徴であり、これがヒートの強みだと思っています。ファンが見ていてワクワクするような試合にしようと、チームメンバー全員、ワンチームで戦えています。見ている方の心を動かし、いい影響を与えられるような存在になりたいと思っています。

海外出身選手も多く、チーム内にはさまざまな文化が共生するが、目標に向けて一致団結して戦う海外出身選手も多く、チーム内にはさまざまな文化が共生するが、目標に向けて一致団結して戦う

――キャプテンとしてプレーする中で、苦労したことはありますか?

古田

キャプテン1年目は、ベテランも多い中で自分の思いをどう伝えるか苦労しましたね。悩むこともたくさんありましたが、今は変に考えず自分の思いをストレートに伝えることが重要だと考えています。そのほうが、きっと周囲にも伝わるはずです。とはいいつつ、実行するのは簡単ではないので、今でも悩みながら試行錯誤を続けています(笑)。

あとは、言葉だけでなく行動でも示すようにしていますね。やはり自分の姿で見せないことには、チームがついてきませんし、レベルも高まりません。まず姿で見せて、言葉で伝える。この点は意識しています。

――今シーズンからヘッドコーチが変わり、新たな選手も加わりました。キャプテンとして感じていることや変化はありますか?

古田

経験豊富なメンバーが増えて、若手選手にアドバイスしてくれることも多く助かっています。キャプテンは僕ですが、そうしたトップ選手たちのリーダーシップにも影響されながら、お互いがまだまだ強くなれると実感していますね。

キアランヘッドコーチも、普段はとても穏やかで優しい印象ですが、いざラグビーの場になるとスイッチを切り替えて、パッションを全開にしてコミュニケーションしてくれています。質問もしやすいですし、向こうから問いかけてくださることも多くて、非常にやりやすいですね。

入団3年目でキャプテンに就任した古田キャプテン。フランカーという、運動量が多く身体を張るポジション入団3年目でキャプテンに就任した古田キャプテン。フランカーという、運動量が多く身体を張るポジション

――チームの多様性が高まる中で、キャプテンとしてチームビルディングで意識していることはありますか。

古田

まずはコミュニケーションです。あいさつもそうですし、僕から積極的に言葉を交わすようにしています。
あとは、試合中に誰ひとりあきらめることがないように、常に努力し続けるクセをチームで意識しています。そこで重要なのが、練習から各自の役割を明確にすることです。

やはり自分の役割が分からないことには努力出来ませんし、試合中も迷いが生じて100%のパフォーマンスを出せません。自分の役割を理解して、練習でも試合でもハードワークをする。この点はチーム全体に根付くよう、行動しています。

練習から全力でプレーするヒートのフォワード陣。合宿ではチーム全体で多くのメニューに精力的に取り組んだ練習から全力でプレーするヒートのフォワード陣。合宿ではチーム全体で多くのメニューに精力的に取り組んだ

夢の実現に向けて、地域とともに、熱い戦いを

シーズンの開幕は、12月9日(土)。いよいよDIVISION1での戦いが始まります。イタリア代表の指揮官から、日本での新たな挑戦をスタートする新ヘッドコーチのキアラン氏にもお話を伺いました。

――これまでナショナルチームを指揮する経験の多かったキアランHCですが、今回は日本の企業チームでの挑戦となります。ヒートへの加入を決断したポイントはどんなところにあったのでしょうか?

キアラン

Hondaからのオファーをもらって、改めてどんな会社なのかを見てみたときに、イノベーティブな気風を持ち、「The Power of Dreams」というスローガンに象徴されるように夢を大切にする姿勢を感じました。

私のラグビー哲学は、その国やチームの文化を尊重し、選手一人ひとりのことを大切に考えながら、家族のような結束を持つ集団を作り上げること。その点でも、「人間尊重」を掲げるHondaで、自分が力になれるのではないかと思いました。また、モータースポーツや陸上、野球などさまざまなスポーツで挑戦している企業でもあるので、ここで仕事がしてみたいという気持ちが強かったです。

所信表明の記者会見には、2023年W杯での優勝を果たした南アフリカ代表のフランコ・モスタート選手(右)、トンガ出身のヴィリアミ・アフ・カイポウリ選手(左)も参加所信表明の記者会見には、2023年W杯での優勝を果たした南アフリカ代表のフランコ・モスタート選手(右)、トンガ出身のヴィリアミ・アフ・カイポウリ選手(左)も参加

――こうしたHondaの文化は、ヒートのラグビーにも通じる部分は感じますか?

キアラン

今まで率いたチームと異なり、Hondaの社員として働く選手がいるというのはとても面白いですね。会社で働くことで企業文化が浸透していますし、ミーティングなどを通じてそれがチームに落とし込まれていることを実感しています。

――そんなHondaのチームをキアランHCが指揮することで、ヒートはどのように成長していくのでしょうか?

キアラン

私自身の強みは、チームの文化をしっかりと築いていくことができる部分だと思っています。現時点で、ヒートはいい文化を築けていると思うので、そこに私の経験を上乗せしていけるようにしたいです。

そして、チームのメンバーそれぞれに、どれだけ責任を持たせることができるかも重要です。何事も上手くいかない場面が出てきますが、それをどうやって修正するのか、一人ひとりが責任感を持って対処できるようにしていきたいですね。

キアランHCのもと、応援してくれる地元ファンの夢も背負って、ヒートは日本最高峰へと挑んでいきます。“地域共闘”を掲げるヒートにとって、どんなシーズンになるのでしょうか。

前田

最近では、地域行政や教育委員会との結び付きも強まっており、地元の皆さんからの期待も高まっていると感じています。年間に30を超える小学校で「思いやり」や「夢」に関する道徳の授業をする機会もいただいており、選手たちが成長する場にもなっていて、ありがたい限りです。

地域の小学校で行われる「ヒート授業」では、選手が子どもたちと一緒に身体を動かしながら、チームワークの大切さを語る地域の小学校で行われる「ヒート授業」では、選手が子どもたちと一緒に身体を動かしながら、チームワークの大切さを語る
前田

DIVISION1ではチャレンジャーとしてのスタートになるので、まず気持ちで負けないこと。そして、チャレンジし続けること。80分を通してヒートらしいラグビーで戦い抜くことを忘れずにやっていきます。

古田

ベテランやトップ選手、そして若手が一体になって切磋琢磨出来ていると感じています。個人として、チームとしてどこまで通用するか、そしてW杯に出ているレベルの選手たちと一緒に戦えることにはワクワクしかありません。強い相手・厳しい戦いでもヒートらしさを忘れずに、どこまで通用するかチャレンジしたいです。

Hondaには、「The Power of Dreams」「How we move you(夢の力で、あなたを動かす)」というスローガンがあります。Hondaの一員として活躍するみなさんの「夢」についても語ってくれました。

前田

夢は、“最も強く、最も尊敬されて、最も愛される”、そんな存在になること、この“最も”というのは、日本一を指しています。
チャレンジングな文化があるHondaのチームとして、諦めない姿勢を見せ、Honda従業員やファンの皆さんに元気を提供することが僕らの役目ですし、最後までぶれずにやっていきたいです。

合宿でも常に現場に立ち、チームを見守る前田。逆風が吹くときも必死に戦い、DIVISION1という晴れの舞台へ合宿でも常に現場に立ち、チームを見守る前田。逆風が吹くときも必死に戦い、DIVISION1という晴れの舞台へ
古田

Hondaの一員として、チームを強くして優勝する。そのために「このくらいでいいかな」と満足することなく、常に自問自答しながら今以上のキャプテンになりたいと思います。前キャプテンの小林さんが行動と言葉の両面でチームを率いている姿には心を動かされてきましたし、その姿を少しでも超えられるようなキャプテンとして、優勝を目指していきます。

キアラン

私の今の夢は、ヒートが4年で日本一になること。ハードルはとても高いのですが、これが叶ったときには、多くの人が感動してくれると思います。南アフリカ代表としてW杯連覇を果たしたモスタート選手は、「7年間努力し続けてたどり着いた」と語っていました。それに比べると4年というのは短いチャレンジかもしれませんが、だからこそ自分たちがどれだけできるか楽しみですし、この目標を達成できるように頑張っていきます。

和歌山合宿を終えたチームの集合写真。充実のキャンプを終え、新たな挑戦への期待が表情にも和歌山合宿を終えたチームの集合写真。充実のキャンプを終え、新たな挑戦への期待が表情にも