現在、各地で実用性検証を行っているHondaの新型軽商用EV 「N-VAN e:」。特にインドネシア用の商用車は、現地のモーターショーで展示され、斬新なデザインが多くの人から好評でした。この新型軽商用EVの車体ラッピングデザインを担当したのが、今回インタビューした新卒1年目のデザイナー永井雅生。コミュニケーションデザインスタジオに配属後、わずか3週間で担当者に抜擢された経緯やデザインに込めた想い、Hondaでデザイナーとして働く魅力を語ってもらいました。
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永井雅生(ながい まさき)
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「とにかく必死だった」。配属3週間目でデザイン担当者に
永井さんは2023年に新卒でHondaに入社されました。まずはHondaで働きたいと思った理由をお聞かせください。
永井さんがラッピングデザインを担当されたEV商用車「N-VAN e:」のプロジェクトはどのような経緯で動き出したのでしょう。
インドネシアで開催されるモーターショーに展示されることが決まり、開発責任者からデザインセンターに依頼がありました。「派手な車が多いインドネシアのショーに展示する上で、このEVの魅力を伝えながら、Hondaの電動化に対するメッセージ性も込められたラッピングデザインを考えてほしい」と。それがショーの2ヶ月前ですね。時間が足りないので、大慌てで準備を始めました。配属されてから、まだ1ヶ月も経たない頃のことです。
新入社員ながら大抜擢ですね。
Hondaには、入社して日が浅くても様々な挑戦をさせてくれる社風があるんです。今回扱うのはEV、さらに海外で展示するためのプロジェクトということで、「これからの電動化の流れを若手に牽引してほしい」「若手にグローバルな仕事を経験させたい」という理由から、若手である私もこのプロジェクトにアサインされました。入社して早々でびっくりしましたが、せっかくチャンスをもらえたのだから、とにかく先輩方に追いつこう、プロジェクトを成功させようと必死でしたね。
描きたかったのは、N-VAN e:がつくる「クリーンな未来」
開発者の方々からはデザインのコンセプトに関する要望もあったのでしょうか?
「EV(電気)をテーマにしてほしい」「『Honda e:TECHNOLOGY』のロゴを入れてほしい」という要望があったので、まずはそれをベースに最初のデザイン案をつくりました。
電気という目に見えないものをどう表現するかが、最初の課題でしたね。みんなの生活の中にあるものを使えばイメージしやすいのではないかと考え、コンセントやケーブルで表現してみたりと、試行錯誤しました。
初期デザイン案からどのような改善を行って、最終的なデザインに落ち着いたのですか?
最初のデザイン案には割と自信があったのですが、開発者の方々からの反応は芳しくありませんでした。「HondaがN-VAN e:を通じて実現しようとしているクリーンな社会のイメージを伝えたい」という、開発者の方々の想いを表現しきれていなかったんです。電気を表現するだけではダメだと、ここで大きく方向転換しました。
具体的にどのような修正をしたのでしょうか?
未来の街並みを描くことによって「人々が『電気』でクリーンな生活を送っている様子」を表現しました。具体的にどこの町かはっきり示すのではなく、皆が想像できる未来の街並みを意識し、将来的にこういう暮らしが待っているのかな」とワクワクするようなデザインを心がけました。その想いを伝えたら、開発者の方々も「いいね」と言ってくださって、ようやく方向性が一致しました。
デザインをする上で、一番大切にしたことはなんでしょう?
現在の街並みをリアルに描くのではなく、クリーンな社会への願いを込めて「ちょっと先の未来の街」を、見た人がワクワクできるように描くことです。具体的には、街並みのイラストに、乾電池やコンセントのような形のビルを忍ばせました。「未来のビルはこんな形かもしれないね!」という想像を込めたちょっとした遊び心を大切にしましたね。
このデザインは、木や風力発電の風車が印象的ですよね。これらのモチーフを入れた理由を教えてください。
街並みにあるビル群を支えているのはなんと言っても電気ですが、その電気は、風力や火力など、自然の力によって作られています。そのことを軸に、Hondaが目指す「自然との共存」をイメージして、木や風車を入れました。
デザインする上でどんな苦労がありましたか?
デザインが固まるまでは実際の車両にラッピングすることができないので、細部を詰めていく段階で苦戦しました。そこで、同じ部署の先輩に、絵を3Dモデルに投影し、VR空間に再現してもらいました。
VRでは、実際に車両が目の前にあるような感覚でラッピングデザインを見ることができるので、PC上だとわからない違和感に気付けたり、VRだからこそ出たアイデアもあったり、細部を詰めていくことで、車両がなくても完成形に持っていくことができました。
“遊び心”のあるデザインでHondaの想いを伝える
このプロジェクトを通じて、成長できたと感じるのはどのような点でしょうか?
実際に街を走る様子を想像する視点を意識できたことでしょうか。例えば、クルマを後ろから見たときのデザインですね。「そもそもインドネシアの交通事情ってどうなっているんだろう」と調べてみたら、渋滞が多いことがわかったんです。ということは、クルマを後ろから見られる機会が多い。それを踏まえて、サイドとリアのデザインをつなげて、後ろから見たときにも意図が伝わるデザインにしました。そういうことが考えられるようになったのは、成長できたところかなと思います。
N-VAN e:の普及にあたって、ラッピングデザインはどのような役割を担っていると思いますか?
Hondaの目標は、EV開発するだけではなく、EV車の普及によってクリーンな社会をつくること。その一歩である商用車EVを普及させるためには、まずはその存在を社会に知ってもらうことが重要です。
その手段の中でも、ラッピングデザインはどの方向からでも見ることができ、ショーカーとしてはもちろん、通行人や他のドライバーに効果的にメッセージを届けることができます。例えば、車を移動するキャンバスと捉え、デザインを多くの人に強く印象付けるだけでなく「これ、なんだろう?」「Hondaの新しいEVらしいよ!楽しみだね!」と想像し共感してもらえるものだと思うんです。
私は「コミュニケーションデザインスタジオ」という部署に所属していますが、デザインによってHondaの思いを皆さんに伝えることは、部署の名のとおり「コミュニケーション」なんです。今回はラッピングデザインで実践しましたが、これから様々な手法やデザインを通じて伝えたいです。
Hondaでデザイナーとして働く魅力は、どんな点にあると思いますか?
私のような若手でもチャレンジさせてくれるところが一番の魅力ですね。大きな仕事を任せてもらえるし、意見も聞いてくれる。
私のデザインの個性は、見る人に「なんか面白いぞ」と思わせる遊び心にあると考えています。そこを先輩方が評価して伸ばしてくれたので、ラッピングデザインにおいても納得のいく提案にすることができました。
Hondaの「デザインに対する考え方」について教えてください。
「人生に驚きと感動を」というのがHondaデザインのビジョンなんです。ただ便利で使いやすいだけではなく、「あ、ここ面白い!」とワクワクできるような遊び心が隠されています。私もデザインする上で、好奇心とちょっとした遊びを大切にしているので、その点ではHondaと重なるところがあるなと感じますね。
最後に、今後Hondaで叶えたい夢を教えてください。
いずれはHondaでデザインするものすべてに関わっていきたいです。現状PRなどのクリエイティブ業務は代理店の方にお願いしている部分も多いのですが、今後はHondaが最後まで責任を持って出していけたらいいなと。Hondaの魅力ってまだまだ伝わりきっていないと思うんです。ですが、Hondaの社員なら商品に込めた思いや商品の良さを余すことなく伝えられるので、Hondaが世に出すものすべてをデザインしていきたいです。
それから、将来像としては、何か一つのことを極めるプロフェッショナルというよりは、デザインにまつわるありとあらゆることを柔軟にこなせる人になりたいですね。「柔軟さのプロフェッショナル」というか。社内の皆さんに、「クリエイティブに関することはとりあえず永井もメンバーに入れたいな」と思ってもらえるように、今回のラッピングデザインをはじめ、いろいろなデザインに挑戦していきたいですね。
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学生時代にプロダクトデザインを専攻していたこともあり、メーカーに興味がありました。その中でもHondaが、モビリティの開発で得た技術を他分野に応用している点に、他のプロダクトメーカーとは違う魅力を感じたんです。
特にいいなと思った製品は『Ropot』*という交通安全アドバイスロボ。小学校低学年の子供を見守る小型ロボットなのですが、Hondaのモビリティ安全技術や位置情報ナビシステムなどが活用されているんです。このように、モビリティで得た技術力を他の分野にも活用し、社会に役立つ製品を開発しているところに魅力を感じ、Hondaで働きたいと思いました。