社会貢献 2020.12.01

子どもたちの元気な「ただいま!」のために ― 交通安全アドバイスロボ「Ropot」

子どもたちの元気な「ただいま!」のために ― 交通安全アドバイスロボ「Ropot」

モビリティメーカーとして、Hondaはクルマやバイクの安全技術の開発に日々取り組んでいます。 しかし歩行者、特に子どもたちが巻き込まれる交通事故は決して少なくありません。その中でも、一人で登下校を始める小学1年生、7歳頃の交通事故が多いと言われています。 子どもたちの事故防止のために、なにかできることはないか。 今回のHonda Storiesでは、そんな想いから生まれた新しいアイデアをカタチにした、交通安全アドバイスロボ「Ropot(ロポット)※ 」をご紹介します。

※Ropotは研究開発段階であり、商品化については未定です。

交通安全アドバイスロボ「Ropot」

交通安全アドバイスロボ、その名も「Ropot」。本田技術研究所で生まれ、現在研究開発中の、手のひらサイズの小さなロボットです。

ランドセルの肩部分に取り付けて使います ランドセルの肩部分に取り付けて使います

Ropotの役割は「子供たちに安全確認を促す」こと。その重大な任務を果たすため、この小さなカラダには様々な技術が詰まっています。

事前に保護者が設定した道路横断地点に近づくと、GPSを搭載したRopotはカラダを振動させます。振動が子どもたちに、「ここでは立ち止まって左右を確認しなきゃ」と思い出させてくれるのです。さらにRopotには車両検知センサーも付いているため、後方からの接近車両等を感知すると振動して安全確認を促します。

さらにスマートフォンの専用アプリケーションで、どのようなルートを歩いたか、安全確認地点できちんと止まったかなども確認可能。帰宅後に親子で一緒にその日の登下校を振り返ることができます。

Ropot開発のきっかけは「魔の7歳」

歩行中の交通事故死傷者は、特に7歳の子どもの被害が多いということをご存じでしょうか。この問題を表した「魔の7歳」という言葉があるほどです。小学校に入学し、登下校や習い事など、一人歩きを始めるタイミングであること。さらに子どもの視野が大人の3分の2ほどしかなく、危険に気づきにくいことなどが原因だと考えられています。

資料:公益財団法人交通事故総合分析センター

この問題を知り、子どもたちの安全のため立ち上がったのが、クルマのエンジニアとして活躍してきた本田技術研究所の桐生大輔でした。

桐生
桐生

「クルマの安全性能が日々高まっていることは確かです。しかし『魔の7歳』問題を知って、愕然としました。クルマ自体は以前よりずっと安全な乗り物になっているはずなのに、7歳をピークに、多くの小さい子どもたちが交通事故の被害者になっている。私自身その年頃の子どもがいたということもあり、クルマとは別の角度からもなんとかしなければと強く思いました。これが『Ropot』開発のきっかけでしたね」

本田技術研究所の桐生大輔 手に持っているのが、交通安全アドバイスロボ「Ropot」 本田技術研究所の桐生大輔 手に持っているのが、交通安全アドバイスロボ「Ropot」
桐生
桐生

「Ropotを開発する中で行った調査で改めて認識したのですが、子どもたちの視界というのは大人に比べて非常に狭いんです」

子どもと同じ視界を体感してみてください

子どもの視野は左右・上下ともに非常に狭く、大人の6割以下といわれています。「幼児視界体験メガネ」のCHILD VISION(チャイルドビジョン)を使えば、4歳から6歳頃の幼児の視野を体験することができます。

※屋外でのチャイルドビジョンの使用、お子さまの使用は危険ですのでおやめください。


PDF
https://global.honda/jp/safetyinfo/kyt/partner/childvision.pdf

CHILD VISION(チャイルドビジョン)

また、背が小さいため、ほかの歩行者やドライバーからもなかなか認識されません。さらに前操作期と呼ばれる7歳くらいまでの子どもは、『クルマが来るかもしれない』といった客観的な視点をまだ持っていないといいます。

桐生
桐生

「これでは、大人が子どもに『クルマに気をつけなさい』といくら言っても限界がありますよね。子どもの交通事故被害を減らすためには、また別のアプローチが必要なんです」

そうして、桐生は「魔の7歳問題」解決のため、自分やHondaにできることがないかと、少しずつ動き始めました。

Honda社内からスペシャリストが集まった

2017年。桐生はRopotの原型となるアイデアをまとめ、新事業創出のための社内コンペに持ち込みます。

桐生
桐生

「企画を持ち込んだのは4月。書類選考と2回のプレゼンを経て、6月に正式にプロジェクトとしてスタートしました。やはり研究所のトップも交通安全に対しては強いこだわりを持っていたので、そこを期待されて認めてもらえたのだと思います」

社内の交通安全に対する強い課題意識ともうまくマッチし、研究開発プロジェクトとしたスタートした「Ropot」。ですが、研究開発は決して一筋縄ではいきませんでした。

桐生
桐生

「まず取り掛かったのは仲間集めですね。Ropotの基本は電子機器ですが、私の専門はクルマのマフラー設計で、電気なんてまったく通っていない部品(笑)。そこで社内で募集したり、知り合いの伝手を頼ったりして、センサーに詳しい藤井さん、制御に詳しい楠戸さんが最初のメンバーとして加わってくれました。その後、電気系スペシャリストとして、本日は参加していませんが少覚さんが加わり、デザイナーの若田さん…と。気が付けば多くの優秀なメンバーに恵まれました」

センサーを含めシステム開発を担当した藤井智士 新しいことにチャレンジできることが加入の決め手だったという センサーを含めシステム開発を担当した藤井智士 新しいことにチャレンジできることが加入の決め手だったという
実証実験の計画立案と取りまとめを担当した楠戸淳也 Ropotのコンセプトに共感してプロジェクトへの参加を即断 実証実験の計画立案と取りまとめを担当した楠戸淳也 Ropotのコンセプトに共感してプロジェクトへの参加を即断
桐生
桐生

「ですが一度、プロジェクト存続の大きな危機がありました。実現性を考えて『子どもが安全確認地点に来ると振動して気づきを促す』という機能だけに絞ろうと考えたことがありました。ただ、これは決して珍しい技術ではありません。研究所のトップからは『どうせやるならば他ではできないHondaらしいことをやりなさい』と言われてしまいました。この課題をクリアーできなければ、企画自体がお蔵入りになる大ピンチでした。

そんな中で、安全運転支援システム『Honda SENSING』の開発経験があった藤井さんが、ミリ波レーダーを搭載してクルマを感知できるようにするという、新しい視点を提案してくれました。猶予がわずか1カ月しかない中で、なんとか形にしてくれて無事プロジェクトは存続。仲間たちの力があってここまでやってこられました」

デザインダイレクターの若田邦治 子どもたちの相棒になるよう、デザインでRopotに命を吹き込んだ デザインダイレクターの若田邦治 子どもたちの相棒になるよう、デザインでRopotに命を吹き込んだ
ユーザーエクスペリエンス/インターフェイスデザイン担当の才津優 Ropotの使い方や機能を分かりやすく説明する資料やイラストも手掛けた ユーザーエクスペリエンス/インターフェイスデザイン担当の才津優 Ropotの使い方や機能を分かりやすく説明する資料やイラストも手掛けた
実証実験の計画立案と取りまとめを担当した菊池紗 自身の3人の子どもたちはRopotに三者三様の反応だったとか 実証実験の計画立案と取りまとめを担当した菊池紗 自身の3人の子どもたちはRopotに三者三様の反応だったとか
スマホアプリなどユーザーエクスペリエンス担当の甘利友也 Ropotには教育プログラムの一端としての役割も期待しているという スマホアプリなどユーザーエクスペリエンス担当の甘利友也 Ropotには教育プログラムの一端としての役割も期待しているという
システム検証担当として開発に参加した黒田一徳 子どもたちがRopotをつけて歩いている姿を早く見たいと話してくれた システム検証担当として開発に参加した黒田一徳 子どもたちがRopotをつけて歩いている姿を早く見たいと話してくれた

Ropotは子どもたちの“相棒”

登下校時に毎日つけてほしいものだからこそ、桐生たちがこだわったのが「子どもたちが親しめる存在にする」ことだったといいます。

桐生
桐生

「子どもたちがすすんでランドセルに着けたくなる相棒のような存在を目指しました。途中まではただの真っ白な箱でしたが…(笑)。そこからデザイナーの若田さんが頑張ってくれて、今の小動物のような可愛らしいデザインになりました。サイズもコンパクトにすることに成功しています」

左は開発途中の「初号機」 ここから進化し、今や「表情」もついている 左は開発途中の「初号機」 ここから進化し、今や「表情」もついている
桐生
桐生

「実はとても印象に残っていることがありまして…。今のデザインのものを子どもたちに触ってもらう機会があったのですが、その中に紙でRopotのおうちを作ってくれた子がいたんです。それを見たときは本当にうれしかった!社内の他部署の人にもRopotを持って帰ってもらって、お子さんに使ってもらいましたが、おおむね好評でほっとしています。うちの子はRopotにテレビを見させていましたよ(笑)」

チーム一同感激したというRopotのおうち チーム一同感激したというRopotのおうち
苦労話も楽しそうに話す姿が印象的だった 苦労話も楽しそうに話す姿が印象的だった
桐生
桐生

「今回のRopot開発を通して、子どもについて、そして歩くということについて色々なことを知りました。エンジニアとしての将来の夢は、今後こういった経験を活かしたものづくりをして、事業まで発展させていければと考えています。私たちはライフクリエーションセンターですから。文字通り世の中の人々の『生活の可能性を拡げる』ことができる技術開発をしてゆこうと思っています」

Ropot開発メンバー

実際にRopotを使ってもらいました!

子どもたちにRopotを実際に使ってもらって、フィードバックを集めるのは研究開発の大切なステップ。2020年の11月から12月にかけて、和光市などの小学校に協力してもらい、Ropotの使い勝手や有用性を検証する実証実験を行っています。

実証実験の様子 実証実験の様子

実証実験に参加した子どもたち、保護者のみなさんからコメントを頂きました!

通学の相棒ができた! (小学4年生・男の子)
目の形が変わるところがかわいい (小学3年生・男の子)
ブルブルしたらちゃんと止まったよ! (小学2年生・女の子)
いつも子どもが通学しているルートを詳しく知れた (小学4年生のお子さんを持つ保護者)
「気を付けてほしい」と思っている場所を伝えることができた (小学3年生のお子さんを持つ保護者)

Ropotがきっかけとなって生まれたアイテム「まもってトート」

2019年9月に数量限定で配布し、2020年9月に発売され話題となった、子ども用の交通安全バッグ「肩にかけるおまわりさん まもってトート」。実はこちら、Honda広報部の従業員が桐生と話をする中で「魔の7歳」問題を知り、このことを世の中に広く知らせなくては!と感じたことがきっかけで生まれたもの。子どもを含む、道を使うすべての人が「事故に遭わない社会」を作りたい。Honda従業員の共通の想いです。

まもってトート

※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。

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