イノベーション 2023.10.31

「CI-MEV」はEVにとどまらない。期待高まるモビリティの将来、人と街の新しい関係

「CI-MEV」はEVにとどまらない。期待高まるモビリティの将来、人と街の新しい関係

高齢化や人口の減少により、2030年以降は都市・地方ともに移動が困難になると予想されています。そんな移動課題解決の鍵としてHondaが取り組んでいるのが、四輪電動マイクロモビリティ「Honda CI-MEV(以下、CI-MEV)」。普及すれば、公共交通機関がない場所や長距離の歩行が困難な場合でも、誰もがドアツードアで自由に移動することができます。そんな「CI-MEV」の開発に携わった3名に、開発秘話や将来の社会に与える影響について、話を聞きました。

四輪電動マイクロモビリティ「CI-MEV」。「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で世界初披露(一般公開日:10月28日~11月5日)四輪電動マイクロモビリティ「CI-MEV」。「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で世界初披露(一般公開日:10月28日~11月5日)
安井 裕司(やすい ゆうじ)

株式会社本田技術研究所
先進技術研究所
エグゼクティブチーフエンジニア
安井 裕司(やすい ゆうじ)

1994年Honda入社。協調人工知能を用いた自動運転・運転支援技術プロジェクトの開発責任者。次世代モビリティの知能化研究における技術統括業務にも従事する。

大村 成(おおむら しげる)

株式会社本田技術研究所
ソリューションシステム開発センター
シニアチーフエンジニア マーケティング統括
大村 成(おおむら しげる)

1990年Honda入社。安全技術の研究開発(エアバッグ、シートベルト、車体の構造解析全般を担当)から技術戦略の策定、商品企画、開発プロセス改革業務に携わったのち、2015年に本社経営企画統括部に在籍。2018年に本田技術研究所に戻り、新領域の技術・商品・事業の検討、創出に従事。

若山 涼至(わかやま りょうじ)

株式会社本田技術研究所
先進技術研究所
知能化領域
アシスタントチーフエンジニア
若山 涼至(わかやま りょうじ)

2017年Honda入社。普通自動車向け自動運転の開発に携わった後、2021年から協調人工知能を用いたマイクロモビリティの開発に従事。搭乗型マイクロモビリティ開発のプロジェクトリーダー補佐。センサーを用いた外界認識技術やソフトウェア開発管理を担当。

人口減少、高齢化などによる移動課題を解決する鍵とは

——「CI-MEV」を開発した背景には、2030年以降に起こるであろう社会課題の解決が起点にあると伺っています。どのような課題を予想されているのでしょうか?

若山

現在日本では地方を中心に高齢化が進んでいて、人口も減少傾向にあるため、将来は「移動したくてもできない」という方が増えると予想しています。「採算が取れないからバスを走らせることができない」「ドライバーの高齢化によってタクシーが減少する」といった問題が、日本のあちこちで起こりうるんです。

安井

一方で、活発に働くビジネスパーソンがタクシーを利用して時間を節約している都心部においても、2030年ごろになるとタクシードライバーの減少が予想されています。それなら電車で移動すれば問題ないかというと、電車では「訪問先の目の前まで行きたい」というニーズに応えられない。2030年は都市・地方ともに、こういった移動の課題が生じてくると考えています。

——そうした移動の課題を解決するのがCI-MEVだと。具体的にどうやって解決するのでしょうか?

若山

解決する鍵となるのが、Honda独自のAIである協調人工知能を活用した「CIマイクロモビリティ」です。この技術は、ドライバーの意図や周囲の交通状況を理解し、自ら判断する先進的なAI技術が搭載されているので、地図に頼らず道路環境を把握したり、他の交通参加者と協調や交渉を行ったりしながら安全に自在な移動が可能になります。

自動運転の取り組み自体は、すでに他社でも行われていますが、その多くは、サービスとして成り立ちやすい都市部をメインに設計されています。だからこそHondaは、都市部だけでなく、交通機関が少ない地方でも活躍するサービスを展開しようと、現在注力しています(※)。

※関連記事:【Honda×茨城県常総市の「AIまちづくり」技術実証実験が地方の未来を変える?】を読む

安井

この技術のキーワードは「いつでも、どこでも、どこへでも」。ドアツードアで、ユーザーが行きたいところに自動運転で行けるのが理想です。高精度地図を用いて走る自動運転技術はありますが、この地図ありきになるので行動に制限が生まれてしまう。そのため、HondaのCIマイクロモビリティでは、地図に頼らずに周囲の道路環境を自ら把握し、他の車両や歩行者との協調・譲り合いができる人工知能を目指しました。

若山

また、「まだまだ自分で運転したい」という高齢の方も多くいらっしゃるので、自動運転に頼らないけれども、安心して運転できるようにAIがドライバーをサポートする運転支援システムを搭載しています。CI-MEVはペダルもちゃんとついていますし、自動運転モードも運転支援モードもある。その点が、自動運転だけのEVとの違いですね。

10月25日から11月5日まで開催の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に展示
10月25日から11月5日まで開催の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に展示10月25日から11月5日まで開催の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に展示

単なるコンパクトEVではなく、「常識」を変えるモビリティに

——CI-MEVの企画と開発にあたって、コンセプトや込めた想いを教えてください。

大村

CI-MEVでは、ミニマルであることを重視しました。どれだけ無駄を削ぎ落せるか、サイズ感などの量的側面と使い勝手など質的側面、両面から考えています。今もこの課題に頭を悩ませています。

若山

私は「安心」にこだわりました。認知能力が衰え始めた方や、そもそも運転に苦手意識のある方など、移動に不安を感じる方が安心して運転できるかどうか。また、私は開発したソフトウェアのテストドライバーとしてよく運転するんですが、開発段階のソフトウェアでは良くない挙動をしないか、監視していないと安心して乗れません。自動運転車に不安を感じる方々も同じと考えていて、AIの意図を乗っている人に伝えることで、安心して乗車してもらいたいと思っています。

安井

カーボンニュートラルへの貢献もコンセプトの一つですね。電気自動車自体はCO2を排出しませんが、発電の過程ではCO2が発生します。大きい電動車になると、その分CO2が出てしまう。その点、CI-MEVクラスまでコンパクトにすると、CO2の排出量が電車と同じくらいになるんです。だからカーボンニュートラルにもしっかり貢献できます。

——CI-MEVの開発が始まってから現在のモデルになるまで、どのような試行錯誤や苦労があったのでしょうか?

大村

Hondaは「M・M思想(マン・マキシマム、メカ・ミニマム)」という価値観を大切にしています。これは、乗る人のことを一番に考え、乗車スペースは大きく、その他のパーツやスペースは効率よく最小限にするという考え方です。受け継がれてきたこの基本思想にならい、CI-MEV開発でも「どこまでコンパクトにできるか」という点にこだわりました。乗車スペースをしっかり確保するためには、バッテリーやAIを小さくする必要がありますが、ある程度の走行距離を確保するためには、バッテリーの体積が大きくなってしまいます。そこが最大の課題でしたね。

安井

そこで、取り外しや持ち運びが可能な「モバイルパワーパック(MPP)」を使用することにしたんです。途中で充電が切れたらバッテリーを交換するだけなので、充電待ちのためのロス時間がなくなります。ハードウエア面でのブレイクスルーはここですね。

取り外しや持ち運びが可能な「MPP」取り外しや持ち運びが可能な「MPP」
若山

コンパクト化だけでなく、デザイン性にもかなり気を配りました。たとえば自動運転車って、計算するためのコンピューターやセンサー類などを搭載しなければいけないんです。カメラなどのデバイスが目立つデザインに抵抗がある方もいると思うので、なるべく目立たせないように苦心しましたね。

安井

あとは、住宅街や商店街など、自転車やクルマが多く、歩行者もたくさんいるような場所も安全に走れるようにしたかった。そういう場所はただ待っているだけでは前に進めないんですよ。人が運転中にやるように、「こっちに行きたいので通してください」と歩行者や対向車に交渉しなければいけない。相手の意図を読んで自分も意思表示をする。そんなAIを開発するのはやはり難しかったけれど、Hondaには様々な開発経験があり、応用できるノウハウがありました。

街と人とクルマの「新しい関係」をつくる

——CI-MEVは将来的に、社会に対してどのような影響を与えていくと思いますか?

安井

CI-MEVが普及すれば、街が変わるんじゃないかな。ヨーロッパでは今、「街を歩行者と自転車とEVだけにしよう」という流れがあるし、日本もいずれそうなるかもしれません。

大村

サステナビリティをはじめとする社会的な取り組みにも、CI-MEVを通じて自然と貢献していけるんじゃないかと考えています。サステナビリティの話をするときって、いかにエネルギーを節約できるか、我慢する方向で考えることが多いですよね。でも、我慢を強いられる取り組みは続けていくのが難しいと思うんです。我慢せず自然に生活していく中で、しっかりと将来に向けて課題を解決していく。そんなふうに貢献できるのもCI-MEVの強みかなと。

——Hondaならではのポイントはどこにあるでしょうか?

安井

単なるコンパクトEVではHondaらしくないんですよね。「呼んだら来て、移動が終わったら乗り捨てられる」「歩行者や自転車が多いエリアにも入っていける」。それに加えて、「歩行者や対向車と安全に交渉ができる」。そういうところまでセットで考えられていないと、ソリューションとは言えません。そこにしっかり取り組んでいるのが、Hondaのアドバンテージだと思います。

——「みんなで一緒に未来を考える場」をコンセプトに「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」が開催されます。来場者の方にCI-MEVから何を感じ取っていただきたいですか?

若山

まずはHondaがCI-MEVを通じてどんな課題に取り組んでいるのかを知ってもらい、CI-MEVのメリットを理解していただけたらうれしいですね。

大村

CI-MEVはただの小型EVではなく、未来の社会に向けた課題解決型のモビリティ。そこをうまく伝えられるよう頑張ります。

——CI-MEVが普及することによって叶えたい夢はありますか?

大村

2030年の移動課題やエネルギー問題などを抱えた今、CI-MEVがそれらを解決するソリューションになればと願っています。

若山

私は今33歳なんですが、「元気に運転できるのって何歳までだろう?」とよく考えるんです。はたして老後も楽しく移動できるのか。自分が現在、開発してるものが老後の自分を救うことになるんじゃないか。CI-MEVにはそんな期待を込めています。

安井

理想としては、街とクルマと人との新しい関係をつくりたいですね。モビリティを現在の無機質なものから、意思疎通のできる親しみあるものに変えられたらいいなと。「こっちこっち!」と呼んだらすぐに寄ってきて、目的地まで乗ったら「ありがとう」と手を振って別れることができる。そんなやり取りができれば素敵ですよね。

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