2011年より開催されているEV(電気自動車)技術についての国際会議「EVTeC」(公益社団法人自動車技術会主催)。2023年5月には横浜で第6回が開催され、本田技術研究所の代表取締役社長 大津啓司が登壇。「2050年カーボンニュートラルについてのHondaのビジョン」と題した講演を行いました。電動化に水素の活用、さらにはエネルギーの循環まで、カーボンニュートラルの実現を目指すHondaのビジョンとは、どのようなものか。講演の内容を、ダイジェストで振り返ります。
株式会社本田技術研究所 代表取締役社長 もっと見る 閉じる 大津 啓司(おおつ けいじ)
さらに表示MPPの“バケツリレー”がカーボンニュートラルを加速
5月22日から24日までの3日間、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された「EVTeC」。大津は最終日となる24日に登壇し、「2050年カーボンニュートラルについてのHondaのビジョン」と題した講演を行いました。
大津は冒頭で「Hondaは創業以来、製品と技術を通じて人々を助ける取り組みを続けてきました」とし、F1や自動運転への挑戦について言及。その上でHondaのDNAとは「人の役に立つために挑戦する姿勢」だと述べ、「私たちの目的は人の役に立つことであり、テクノロジーはその目的を達成するための手段」と定義付けました。
Hondaは人と社会に貢献する企業として幅広い分野で成長を続けてきましたが、現在、自動車業界のみならず社会全体が「環境問題」に取り組まなければならないという大きな変化の中にあります。
環境に対するHondaの2050年目標を、大津はこのように説明。続けて、そのために「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3本の柱に取り組んでいると改めて訴えました。
製品のライフサイクルを通じて環境負荷をゼロにする企業活動を意味し、これらの取り組みを「Triple Action to ZERO」と呼んでいます。
まずは「カーボンニュートラル」と「クリーンエネルギー」について説明。
電動化にはさまざまな技術要素の進化が必要ですが、最も重要な要素はバッテリーです。しかし航続距離、コストなどで依然として問題があり、そのような状況に対処するためにはエネルギー密度を向上させる必要があります。そこで開発を進めているのが「全固体電池」。これによって低コストで長距離走行可能なEVを目指しています。
全固体電池の研究を、将来的にはスムーズに生産段階に移行できるよう、セルスタック※の仕様と製造工程の開発を同時に進めていて、量産前に製造技術をテストするための試作ラインが、2024年に完成予定です。
※燃料電池や蓄電池において、電気を発生させるセル(板状の部材)を積み重ねたもの
しかし、社会の電動化を拡大していくためには、モビリティの電動化と再生可能エネルギーを結び付け、クリーンな社会を実現する必要があります。
そこで大津が取り上げたHondaの取り組みの一つが、「モバイルパワーパック(MPP)の利用拡大」でした。
交換可能なバッテリーパックが社会に拡がれば、「移動」にも「暮らし」にも、まるで“電気のバケツリレー”のように再生可能エネルギー由来の電力を持ち運べる仕組みが実現します。
電池と製品を分離することで、家庭内でバッテリーを共有できるようにすれば、各家庭での電池コストの削減や電池の利用率の向上、そして資源の有効利用につながります。
ただ、これだけでは2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、十分というわけではありません。そこで大津が紹介したのが、「電気エネルギーに加えて重要なキャリア」と位置付けている「水素エネルギー」についてでした。
カギとなるのは、電気と水素のエネルギーミックス
電気は再生可能エネルギーから生まれたエネルギーを直接利用できるので、経済的で多用途です。その一方で、水素は電気よりもエネルギー密度が高く、長期間の貯蔵も可能。Hondaでは電気と水素のメリットを生かしたエネルギーミックスを構想しています。
そして、大津は、Hondaの次期FCEVに搭載される、次世代燃料電池システムを紹介。
Hondaの従来のシステムと比べて、コストを3分の1に削減するとともに、耐久性は2倍に上がり、さらに耐低温性も向上させています。
水素は高いエネルギー密度で貯蔵できる上、輸送性にも優れ、さらに急速充填も可能です。そこで、利用率の高い大型モビリティや主要インフラの電源として水素を積極的に活用すべきだと考えています。
Hondaでは、すでに商用トラックにおけるFCスタックの展開や国内外における実証実験も進めています。
CO2で燃料をつくり出し、排出量を削減する新技術
講演の終盤、大津が一つの疑問を投げかけました。
皆さんは、本当に計画通りに再生可能エネルギーが社会に普及していくのかどうか、気になりませんか?
大津があるスライドを投影しました。2021年10月に閣議決定された、日本政府の第6次エネルギー基本計画です。
この計画の2030年予測によると、再生可能エネルギーが36~38%、原子力が20~22%、化石燃料が41%となっています。例えEVや水素の利用が社会に広がったとしても、リサイクルやリソースサーキュレーションなどを含め、電気を使う製造過程が存在する限りは、カーボンニュートラルは達成できないということです。カーボンニュートラル実現は、二酸化炭素(以下CO2)を排出せずに生まれる電力と、水素をいかに増やしていくかに懸かっています。
大津の言うように、「製品だけでなく企業活動を含めたライフサイクルを通じて『環境負荷ゼロ』の循環型社会の実現」を目指すためには、製品であるクルマやバイクからのCO2排出をゼロにするだけではなく、製品をつくる工場やオフィスからのCO2排出もゼロにしなければなりません。
そこで大津が紹介したのが、「DAC(Direct Air Capture)システム」。CO2吸着剤が入ったコンテナユニットで空気中からCO2を分離させて回収する技術です。また回収したCO2は、触媒を利用して水素と混合させることで、燃料として生まれ変わります。
ただ、この技術はまだ研究段階です。将来の実用化を目指し、今取り組んでいるところです。
もう一つ大津が取り上げたのが、「Triple Action to ZERO」の取り組みの一つでもある「リソースサーキュレーション」です。
現時点では化石燃料の使用によって大量のCO2が排出されています。しかしこの先電動化製品の数が増え、また再生可能エネルギー由来の電力も増えていけば、次は原材料調達に伴う活動によって発生するCO2排出量の割合が高くなっていきます。そうなると、ライフサイクルベースでCO2排出量を削減するには、原材料のリサイクルや資源の有効活用が重要になってきます。これが「リソースサーキュレーション」の考え方です。
現在、自動車に使用される部品の約90%はバージン素材が使用されていて、クルマが廃棄された後は、その材料の約70%がリサイクルされます。しかし、リサイクルされた材料は自動車産業には戻ってこず、他の産業で利用されているのです。持続可能な自動車生産を実現するには、リソースサーキュレーションの比率を高めなければなりません。そのためにHondaではそのシステムや技術の開発、それに伴うクルマのデザインや仕様の変更を目指しています。
講演では、宇宙やeVTOLなど、現在取り組んでいる新領域へも話題が拡がりました。Hondaの夢は、カーボンニュートラルの実現だけにとどまりません。人が活躍できる空間、時間の制約を取り除くところまでも夢見ているのです。
大きな変革期を迎えているところですが、Hondaはこれからも挑戦を続け、技術で社会に貢献していきます。
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Hondaは、地球上で人々が持続的に活動していくための、「環境負荷ゼロの循環型社会」を実現したいと考えています。