交通事故による死者をなくしたい。この強い想いのもとにHondaは、2050年までにHondaのバイク・クルマが関与する交通事故死者をゼロにするという目標を掲げました。その実現のカギを握るのが、多彩な先進機能を搭載する安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」と自動運転技術です。安心で快適なモビリティ社会のため、今後、この2つの技術がどう進化していくのでしょうか。事業開発本部 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 統括部長 玉川 裕 執行職に聞きました。
事業開発本部 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 統括部長 執行職 もっと見る 閉じる 玉川 裕
さらに表示360度の視野により、革新的な安全運転支援が可能に
自由な移動の喜びを、安心安全な形で提供したいというのがHondaの想い。その達成に向けて、交通事故死者ゼロ社会の実現は重要なキーファクターです。そしてその実現に向けた一番近い目標は、2030年までに、Hondaのバイク・クルマが関わる交通事故での死者を半減させること。
「安全運転支援システム『Honda SENSING』と自動運転技術の進化によって実現すべく、日々さまざまな研究を進めています」と語るのは、事業開発本部 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 統括部長 玉川裕執行職です。
「Honda SENSING」で目指したのは、人間の“目”をクルマに搭載することです。現在、車体のフロントに搭載されているカメラの視野角は100度。従来50度だったものを、視野を広げ、人間と同じように空間を認識してクルマを制御する、ということを目指して開発が進められてきました。
人間の目の視野角は平均で100度程度と言われていますが、その中でも周辺視野で気配を感じたり、中心視野で距離を測ったりすることができる、すごく高性能なセンサーなのです。そこにいかに近づけていくかにこだわってきました。
現在の「Honda SENSING」では、高性能な制御チップやAIを活用して、前方にいる人、自転車、クルマやバイクを見分け、いち早く危険を察知してブレーキを掛けることで、安心を提供しています。
そして「Honda SENSING」をさらに進化させ、2023年、2024年に採用を予定している「Honda SENSING 360」とその次世代技術(Next Concept)では、言葉の通り、その視野を360度に広げます。例えるなら“草食動物の目”です。
シマウマは両眼で360度を見渡すことができるため、忍び寄る肉食動物に素早く気付き、身を守ることができます。それと同じように、人間の視野が及ばない範囲の危険をいち早く察知することができるようになります。自動で緊急回避のハンドル操作をしたり、降車時に後方を監視して安全に降りられたりなど、新たな支援機能を今後搭載していく予定です。
「Honda SENSING 360」とその次世代技術(Next Concept)では、従来の視野角が約100度のカメラと、フロントと各コーナーに計5つのレーダーを配置することで、他にもさまざまな支援機能を可能にします。
4つのコーナーレーダーを組み合わせることで、周辺で何が起こっているのかをかなり遠くまでクルマが把握できるようになりますから、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故や、右直事故など、従来の『Honda SENSING』のフロントカメラだけでは対応しきれなかったシチュエーションでも、事故を未然に防ぐことに貢献できます。
これまで、Honda SENSINGの搭載によって、追突事故は約8割減少し、歩行者事故は約5割になりました※。今回の技術革新で、さらに事故をどこまで減らせるのか、期待が高まります。
※出典:公益財団法人交通事故総合分析センターのデータを基にHondaが独自に算出
N-BOX(2011年11月~2017年8月)AEB非搭載車に対する現行N-BOX(2017年9月~2020年12月)の登録台数当たり交通事故死傷者数調査結果の差分。公益財団法人交通事故総合分析センターのデータを基に、2020年内にN-BOXが1当の人身事故による死傷者数について調査。
運転の支援という点では、快適性も格段に向上します。例えば、車線変更。後ろからクルマが迫っていることに気が付かず、うっかりハンドルを切ってしまった経験がある人もいるかもしれません。『Honda SENSING 360』とその次世代技術(Next Concept)では、ドライバーの代わりに、安全な車線変更操作をクルマが自動的に行うことも将来的に可能になります。より長い距離を、よりリラックスして乗ることができる。安全だけでなく、快適さも重視して両輪での開発を進めています。
センシング技術によって、人間の能力を超えた範囲をカバーしていくということ。開発陣はこれを、「人間の能力を拡張させていく」と表現します。ドライバーの能力にはばらつきがありますが、クルマの支援機能によって、どんなドライバーでも、同じようなレベルで安心して運転することが可能になっていく。そんなイメージです。
我々開発陣が思い描いている共通の形は、実はアメリカの特撮TVドラマ『ナイトライダー』に登場するクルマ『ナイト2000』なんです。人工知能によってコミュニケーションが取れて、危険を知らせて回避してくれて。目的地まで自動で連れて行ってくれることも、逆に自分で運転を楽しむこともできる。Honda社内の図書室には、ナイトライダーのDVDが全巻そろっていて、こんなクルマが出来たらいいよねって言いながら、たまに観ているんです。
130万kmを走り込み、違和感のない安全運転支援を実現
次世代の安全運転支援システム「Honda SENSING 360」とその次世代技術(Next Concept)を可能にしたのは、世界で初めて自動運転レベル3を実現した「Honda SENSING Elite」と、それを搭載したクルマ「レジェンド」の存在です。
一定条件下において、ドライバーに代わってシステムが全ての運転操作を行う自動運転レベル3は、実現までに長い年月がかかり、とてもチャレンジングなものでした。しかし、このクルマを作ったことで、安全運転支援のレベルは格段に向上したと言えます。
自動運転レベル3は、自動運転走行中は絶対に事故を起こしてはいけないクルマ。安全性を証明するために、どうしたら事故が起こるのかというところから研究をし、事故シミュレーションも1000万通り以上行いました。また、国内の高速道路を実際に走り、高精度なデータを収集。そのために、テストカーで距離にして130万kmを走り込んでいます。
レジェンドの開発の中で、安全運転支援にとって特に重要なこととして注力したのは、人間とクルマの信頼関係をどう築くかという点でした。言うなれば、クルマの振る舞いの部分です。例えば、車線変更をする際、頭で事前にイメージして、その通りにクルマを操作しますよね。自動運転では、そこで自分が思ったものと違う動きをすると、とても不安になるんです。いかに違和感なく、さまざまな振る舞いをさせるかというのは、かなり細かな部分まで作り込みました。
これから登場する「Honda SENSING 360」とその次世代技術(Next Concept)には、そうした違和感のない安全運転支援技術が反映されていくことになります。「そこまで出来るようになるのか、と驚くようなシステムを提供できるだろうと自負しています」と、玉川は自信を覗かせます。
40年前に夢見た自動運転。その未来を、Hondaは超えていく
Hondaの安全運転支援技術を牽引する存在でもある「Honda SENSING Elite」ですが、2020年代後半には、さらに進化させた自動運転車両の技術確立を目指しています。しかし、そこには一つ条件があると玉川は言います。
まだ誰も実現できていないものを作るということを目標に、Honda初、世界初の自動運転レベル3を実現したのが『Honda SENSING Elite』であり、レジェンドでした。当然、次に出すものも世間をあっと驚かせるものでなければなりません。それには、ただの正常進化では足りません。予想をはるかに超えるもの。それが条件です。現場と話をしていても、日々、本当にさまざまなアイデアが飛び交っています。完成したら、ひと味もふた味も違うクルマになるでしょう。
常に高いところにモチベーションを保ち、難題に挑戦し続ける開発陣。それほど熱中できるのはなぜでしょうか。答えは、とてもシンプルなものでした。
必要なのは、夢なんです。夢というのは、まだ世の中にないものを作ること。夢を実現する技術が登場するのを待つのではなく、先駆けて作るのです。1981年にHondaが世界初のカーナビを作ったとき、当時の技術者たちは、既に自動運転の夢を見ていました。いま、その未来がそこまで近づいてきている中で、私たちはそれをもう一歩、飛び越えて行きたいのです。とはいえ、まだまだ解決できていない課題がたくさん転がっています。まずはその中から、お客様が一番望んでいるものを優先的に開発して、いち早く提供していきたいですね。
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そもそも、Hondaでは安全運転支援の研究は古くから行っていて、2003年にはレーダーを用いた世界初の『衝突軽減ブレーキ』を市販車に搭載しました。それが現在の『Honda SENSING』に繋がっているのです。