MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2004年8月号
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徳田克己
筑波大学大学院人間総合科学研究科教授

徳田さんはHondaの電動車いす「モンパル」も研究に利用している
1958年岡山県生まれ。筑波大学人間学類卒業。83年同大学院修了。教育学博士。東京成徳短期大学助教授、筑波大学心身障害学系助教授、社会医学系教授を経て現職。専攻は障害理解・心身障害学。アジア障害社会学会会長を務める。著書に『弱視に関する認識とイメージの変容』『ハンディのある子どもの保育ハンドブック』『盲導犬に関する社会的認識と福祉教育プログラム』『わかりやすい社会福祉学』『障害理解のための視点からみた障害者の特性』など
障害者の交通安全に欠かせない市民への交通バリアフリー教育の普及を

バリアフリー教育に意欲をもつ交通安全指導者

2003年度国際交通安全学会調査研究プロジェクト「交通バリアフリー教育の内容の選定と方法の開発」の報告書がこの5月に発行されました。プロジェクトリーダーを務めた徳田さんは、障害者の交通安全を確保するには、次の4つが必要と述べています。
(1)円滑な移動ができるように、段差などの物理的なバリアフリーを解消すること。
(2)一般市民の障害者に対する誤解や偏見がない「心のバリアフリー」を目指した交通バリアフリー教育の普及。
(3)障害者が安全に移動できる技術、知識などを身につける交通サバイバル教育。
(4)障害者自身が不便を解消する障害支援機器の開発と普及。
「日本の状況では(1)はこれまで盛んに取り組まれてきました。また、(4)についても日本の技術力の高さを背景に積極的に取り組まれています。では、何が不足しているのかといえば、(2)と(3)の教育です。今回の研究プロジェクトは、(2)の一般市民が障害について理解を高める交通バリアフリー教育を対象としました。調査の結果は端的に言って、一般市民や学校では十分な交通バリアフリー教育が行われていないということでした。これまでの障害を理解する教育は、障害者に対する『思いやりの気持ちを育てる』『やさしく接する』という抽象的な目標設定で、障害者が困っているときに声をかける、手助けすると教えてきました。しかし、それでは障害者が具体的にどのようなことに困っていて、どのような支援が必要なのかという視点からの教育が欠けていたと言えます」。
今回の調査結果で、一般市民は障害者の具体的なことを知らないということは予想していたが、予想外だったのは、企業の交通安全担当者、教習所の指導員、そして学校の教師がバリアフリー教育のことを知りたい、そして教えたいという意欲をもっていることでした。日本通運や佐川急便などプロドライバーの調査では、障害者のことは教えられていないし、よく分からないので学習したいが、教材がないという状況がありました。
「バリアフリー教育を進めるには、学校では発達段階に応じた適正な教育が必要です。それには、ほとんど障害理解教育を受けていない教師に対する教育と、教科書を変えることから始めることになります。現行の教科書については、明らかな間違いや時代遅れな記述があるだけでなく、交通場面の写真やイラストしか出てこないという偏りがあります。大人の教育では、企業研修とともに、教習所でのバリアフリー教育が重要です。免許試験の学科に障害者についての問題を入れるだけでも効果的です」。
欧米ではバリアフリー教育は人権教育と位置づけて、教会をはじめあらゆる場で行われています。日本の交通バリアフリー教育はまだ始まったばかりです。

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