MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2004年6月号
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山梨園芸高等学校が1年生を対象に年間35時間行なっている「安全教育」の授業
生徒が自ら気づく力を育てる

高校における交通安全教育はどのように行なわれるべきなのでしょうか。歩行者、自転車、二輪車、プレドライバー教育など、高校生世代に伝える教育は何か。高校の現場、識者への取材から高校の交通安全教育のあり方をさぐりました。

「交通安全」を授業に取り入れ推進
 山梨県立山梨園芸高等学校
山梨園芸高等学校では交通安全の授業が「安全教育」という科目として1年生(119人・4クラス)のカリキュラムに組み込まれています。安全教育の授業は年間35時間で、2週間に1回、1回に2時間の連続授業を行ないます。4月28日の午後5、6時限、1年2組農業土木科の15人が受ける交通安全コースの授業が、原付バイクの実技講習などを行なう練習コース脇の教室で始まりました。指導するのは体育の山本秀治教諭と生徒指導係・交通指導担当の坂本篤教諭。そして、昨年まで交通指導を担当した熊谷栄二教諭が適宜、加わる体制で今年1年間は進めています。
この日のテーマは「責任と義務」。坂本教諭は「責任と義務は大事なので、年間に何回か、繰り返して教えています。過失割合、被害者と加害者の気持ち、危険予測なども取り上げていきます。1年生はまだ免許がないので、自転車の交通指導も行ないます。次の時間はもう一度、責任と義務、その次はヘルメットと服装です。この授業は2週に1回で、年に17回ほど組みますが、行事が入るなどして休むので、実際は12〜13回しかできないことが課題」と言います。
同校は、「平成14・15年度文部科学省交通安全教育実践地域事業」の指定校となり、「二輪車の安全運転指導と遵法精神の育成」を研究テーマとして意欲的に特色のある授業に取り組み、今年もその成果をふまえ、継続して実施することにしています。教師が生徒と同じ目線で話せるために行なう職員の原付講習会は7月に、また免許を取るにあたり親子で話し合う時間を作ることをめざす四輪の「親子ふれあい指導」は9月に実施する予定。また、年に3回、バイク通学の許可証交付式(5月、9月、2月)での実技の事前指導も行なっています。
熊谷教諭は「目に見える成果も確かに欲しいが、安全教育そのものは、高校3年間がよければそれでいいという考え方ではない。生涯に渡って安全を確保するために、高校3年間では何を考えなければいけないのかということを、生徒自身が気づくことが大切だと思っています。1年で結果を出すというより、3年という長いスパンで、同じようなことを繰り返していく中で、そうなのかと気づいてもらう。それがその後の生き方につながっていけばいいと思っています」と語ってくれました。

 生徒が活き活きと参加する原付安全運転講習
 栃木県立真岡工業高等学校
栃木県では、免許の取得を許可している県立高校に安全運転講習を義務づけています。このことから真岡工業高校では毎年、アクティブセーフティトレーニングパークもてぎで原付の安全運転講習を行なっています。今年も4月26日、原付免許を持っている2年生68名、3年生23名が参加して開催されました。講習は午前と午後の2グループに分かれて行われ、講習は「スラローム」「ブレーキング」「シミュレーター」の3つの課題によるトレーニング。基本技能の習熟と事故防止資質向上の項目で構成されています。
スラロームはパイロンが並べられた特設コースを走行。ブレーキングは、まず30km/hから安全に停止する練習。ブレーキ操作の基本を学んだ後、「公道では出せない40km/hからのブレーキングも体験してみましょう」とインストラクターが次の課題を指示しました。
シミュレーターでは、代表4名がHondaライディングシミュレーターに乗って、市街地や住宅街などを模擬走行しました。4人が終わった後、インストラクターは、「後の人ほど、『あの人のあの場面は危なかったから注意しよう』という危険感受性が高くなってきていました。みなさんは、これを街中でも実行してください。危険な状況を理解できていれば、自分から危険な状態に入っていくことはないでしょう。危ないなと思ったら、『止まる』『様子を見る』ということを心がけてください」とアドバイスしました。
同校生徒指導部の茂出木健教諭は「もてぎで受講するようになってから、生徒が活き活きと参加してくれるようになったと感じています。もてぎでは危険なことを安全に体験できるのが魅力的です。この講習で、こういう場面の危険な行動とはどのような行動なのか、気づいてほしい」と言います。
同校では原付安全運転講習のほかにも、年5回、ロングホームルームの時間に交通安全の授業を実施しています。そのテーマは、1年生は自転車。2年生は二輪車。3年生は四輪車。また、教師向けの安全運転教育も年1回、アクティブセーフティトレーニングパークもてぎで3日間実施しています。これは、バイク通学の許可を申請した生徒に対して、まず教師が安全運転講習を行なうためのものです。地域の交通安全教育の資源ともいうべきアクティブセーフティトレーニングパークもてぎを積極的に活用しているのが、真岡工業高校の特徴です。

 交通安全は大人になるための格好の教材
 長野県北部高等学校
長野県はいわゆる「三ない運動」を堅持していますが、北部高校は以前から原付免許の取得を認めており、バイク通学も一部許可しています。免許を取らせて乗せる以上、教育しなければならないという姿勢から交通安全教育に取り組んできました。原付バイク講習会は、原付免許取得生徒全員に対し年2回実施。長野中央自動車学校で、実技講習と学科講習を行なっています。そして、昨年初めて試みたのが10月3日、長野県須坂市にあるドリームモータースクール須坂で実施された「プレドライバーズ・セミナー」です。このセミナーは、普通免許取得間もない若者たちの交通違反、事故が多いことから免許取得後に安全に走れるように、体験講習を主として実施されました。午前9時30分から午後3時30分まで同乗体験によるブレーキング、コーナリング、実演講習として携帯電話の危険性、死角・内輪差、事故事例研究などを行ないました。
生徒指導主事の倉澤克弥教諭は「事故事例研究でこんなに活発に生徒から意見が出るとは思いませんでした。午前中からの自動車の重量による停止距離、携帯電話の危険性、ブレーキングなどの体験が、事例の『免許取り立ての夜間のドライブでガードレールに衝突』に対して想像力を膨らませて、危険予測につながったと思います」と振り返ります。このプレドライバーズ・セミナーは好評だったことから、今年も9月29日に開催することになっています。同校はプレドライバー教育※1を四輪と原付の相互教育と位置づけて取り組んでいます。例えば、昨年のケーススタディ「トラックの陰から原付が直進しようとして対向右折車とぶつかりそうになるケースを実車で再現」では、生徒は原付側に立ったり四輪側に立ったりしてそれぞれがどう見えるかを確認したそうです。
こうした体験型の実技教育の基本にあるのが、「交通安全という題材を通して人間形成をはかる」(倉澤教諭)という考え方です。総合的な学習の時間の「地域」という授業のなかの「超ボランティア講座※2」に7月はカーブミラーを生徒が清掃するというテーマがあります。通学路にあるカーブミラーを清掃することで、生徒たちが交通安全に目を向けるきっかけになり、地域社会における役割も果たしています。また、小学生への交通安全指導を「福祉」の講座で行なっており、下校時の小学生と1対1で手をつないで一緒に通学路を歩き、信号のない交差点やトラックが通る危険な道での対処法などの指導をしています。
「交通安全という教材を通じて周囲のことを考え、気を配るようになる。私たちの指導に終わりはありません。交通安全のいろいろな題材をあの手この手で生徒に提供していき、そこから生徒自らがつかんでいくものだと思います」。倉澤教諭の言葉は、今回、登場した3つの高校に共通していると言えるでしょう。
※1
プレドライバー教育=免許取得年代である高校生を対象とする。参加体験型実践教育の手法により、危険感受性を高めることによって、交通状況を的確に把握し、積極的に安全な行動をとろうとする態度・能力を高める教育

※2
超ボランティア講座=生徒がボランティア活動を通じて、社会との関わり方を学び、人間形成をはかっていく。冬には雪かきなどが行なわれる
アクティブセーフティトレーニングパークで行なわれた真岡工業高校の原付安全運転講習

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