MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2003年5月号
出席者: 岡村和子 (財)交通事故総合分析センター研究部研究第一課長
鈴木春男 自由学園最高学部長 千葉大学名誉教授
溝端光雄 東京都老人総合研究所室長
(五十音順)

交通事故死者のさらなる半減に向けて「世界一安全」な国をめざす日本。このような状況下で、高齢者の交通事故死者数は他の年齢層と比較して高い水準で推移しています。本格的な高齢社会の移行に向けて、高齢者の交通安全対策は今後重点的に取り組むべき課題です。3人の識者による座談会から、高齢者の交通場面における行動を明らかにし、問題点とその解決の方法を探りました。


 交通弱者にとって安全で快適な空間づくりを
岡村和子 (財)交通事故総合分析センター研究部研究第一課長

 これまでは高齢者が全体から見れば少数である、特殊な存在ということで社会が動いたわけですが、これからは交通に参加する人の多くが中高年以上という社会になります。そうなれば、物理的な面も当然変えなくてはいけなくなります。標識や表示を大きく見やすくする、誰もがわかるように変えようという動きが既にあるので、その動きをいかに加速させるかということになると思います。
ヨーロッパなどでは歩行者なり交通弱者といわれる人のために安全で快適な空間につくり直そうという動きが、早いところでは1970年から始まって定着しています。日本でもそれと同じ動きが近年出てきています。これまでのクルマ優先で、流れの円滑化重視から方向転換をして、歩行者、自転車のためにもっとスペースを割こうというものです。一概に比較はできませんが、ヨーロッパのように、日本にも歩行者と自転車のある種のルールが必要だと思います。


 交通事故減少のために今後、必要な処方箋は情報対策
鈴木春男 自由学園最高学部長 千葉大学名誉教授

 日本の交通安全対策は、1970年に施設や設備などの「モノ」対策にお金を投入したわけです。それが効果をあげて半分近くまで死者を減らしたのですが、1980年からまた増えはじめました。
第二の処方箋として登場したのが「ヒト」対策、つまり交通安全教育がその典型ですが、ヒトの問題を交通安全施策に導入していきました。これが今、功を奏して死者が半減するところまできています。これからの高齢社会を考えれば考えるほど、また交通事故は増えてくるという気がします。
 3番目の処方箋、ヒトの次は「情報」だと思います。情報対策を講じることで安全性がかなり高まるのではないか。たとえば安全に歩行する上で問題がある場所や場面には、クルマが横断できないような情報システムを構築するといったことは実現の可能性はかなりあると思います。これからの交通安全対策は、「モノ・ヒト・情報」という3つの側面がとても大事なると感じています。


 高齢者の行動特性を十分理解した上で運転してほしい
溝端光雄 東京都老人総合研究所室長

 若いドライバーは、高齢者の歩行速度が意外と遅いということをきちんと認識していないという気がします。75歳以上の平均歩行速度は秒速1mです。膝の関節を悪くされた方などで秒速0.5mともっと低い速度になります。ドライバーがこうした知識をあらかじめ持っていれば、高齢者を発見したときの運転はかなり違ってくるはずです。
 ドライバーの夜間視力(暗順応)を調べた際、ものを識別するのに高齢者は若者の約3倍の時間を要することがわかりました。夜間視力の低下している高齢者が横断しているところに、同じく視力の低下している高齢ドライバーがきて事故にあうケースも出てくると思います。
 将来は高齢者のライフスタイルが今の高齢者とはかなり違ってくると思います。高齢ドライバーが圧倒的に増えることは確実ですが、事故の起こり方も変わってくると思います。

写真右から鈴木春男さん、岡村和子さん、溝端光雄さん


高齢者の交通行動を理解するための小冊子
「トラフィック・シニア」〜街行く高齢者たち〜

 Hondaは高齢者の交通行動を理解するための小冊子「トラフィック・シニア〜街行く高齢者たち〜」を作成しました(監修:鈴木春男・自由学園最高学部長)。
これは、本格的な高齢社会の移行に向け、ドライバーやライダーが高齢者の交通行動の特性を理解し、すべての人々がお互いを理解しあえる豊かな交通社会の実現をめざすことが目的です。主に四輪販売会社で配布しているが、教育現場などでも活用できます。

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本田技研工業(株)安全運転普及本部
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