ガバナンスと執行の両翼を強化し、
Hondaの夢を企業価値につなげる
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取締役会議長
指名委員会委員長
社外取締役 國分 文也 -
監査委員会委員長
社外取締役 小川 陽一郎 -
報酬委員会委員長
社外取締役 東 和浩
社外取締役 三委員長鼎談
技術力を事業成長に
つなげ切れていない
國分:改めて現状を俯瞰すると、「技術力で勝っているのに、ビジネスで負けている」という構図が浮かび上がります。Hondaの技術力は高くR&D投資も高水準にありますが、その強みを十分にビジネスに結び付けられていないと思います。
また、現状の当社のバリュエーションを見ると、投資家から成長力に対して疑問符が付けられていると感じます。実際に四輪事業はこの20年以上あまり成長しておらず、問題は今回見直したEV戦略による大規模減損だけではなく、もっと小さなスケールで同様のことが過去にも繰り返されてきたはずです。
根底にあるのは、良いものをつくれば評価されるというプロダクトアウトの発想だと感じており、消費者の嗜好がこれほど多様化した時代に、マーケットインの視点が十分ではなかったのではないでしょうか。
さらに言えば、二輪、四輪、パワープロダクツ、航空機と、これだけ多様なアセットを持ちながら、事業間の掛け合わせがほとんど実現できておらず、それぞれが独立したままで全体としての一体感も十分ではありませんでした。今後は具体的かつ説得力のある成長戦略を示せるか否かに尽きるのではないでしょうか。
東:そうですね。技術の未来を示すと同時に、お金の未来を示すことがビジネスとしての期待につながると思います。これは単純な計算式、すなわち「単価×お客様の数」を、将来の市場予測と成長予測から説明することから始まります。また、私はHondaフィロソフィーにある「買う喜び、売る喜び、創る喜び」のバランスが崩れてきていると感じます。「創る喜び」は追求できている一方で、「売る喜び」、とりわけ「買う喜び」への取り組みが弱くなっているように思います。エンドユーザーにはコアなHondaファンと一般のお客様の二つの層があります。Hondaを愛してくださるコアなファン層への対応は間違いありません。しかし、お客様の世界はもっと広く捉えるべきでしょう。技術や製造、地域ごとに組織がサイロ化している状況を認識し、自分たちの考える良い商品が、本当にお客様にとっての良い商品なのかを問い直す視点を高めなければなりません。この機会に一歩引いて、私たち自身の現状をしっかり見つめ直す必要があると考えます。
本気で変わる覚悟が
Hondaの将来を決める
小川:Hondaが置かれている現在の局面は、Hondaに対する信頼を取り戻すための正念場です。投資家も従業員も社会も、我々への信頼が揺らいでいるのではないでしょうか。
一方で、今回の大きな損失を先送りすることなく、しっかりと計上し開示した点は、Hondaのカルチャーが持つ誠実さの表れでもあります。
今までのHondaが大事にしてきたものを守りつつも、「本気で変わる覚悟があるか」が、Hondaの将来を決める分岐点になると考えています。
夢を追うことはHondaの強みです。しかし、規律なく全員が夢を追うだけでは企業として持続できません。「夢を追う領域」と、「稼いでビジネスを安定させる領域」という使い分けが必要です。
また、私たちが実現したい夢と、お客様の夢が本当に一致しているのかも問わなくてはなりません。今回痛感したのは、投資判断の実現可能性をもっと現実的な視点から検証すべきだったということです。投資に際しては一定の規律を保持することが重要で、事業戦略立案や投資判断の前提が合理的に設定され、常に当初設定した前提と進捗状況が正しくモニタリングされることが必要です。日々の環境変化の中で進捗を正しくモニタリングし、必要に応じて軌道修正する仕組みがなければ、逆に思い切った戦略すら立てられなくなります。現場で「まずいぞ」と感じた声がきちんと経営に届き、ブレーキをかけられる規律が不可欠です。もともとHondaにはワイガヤの文化、現場で感じたことがトップに伝わる風土がありました。
しかし、いつしか「決められたことをきっちりこなす組織」になってしまった面があります。マネジメントもその変化に気づいており、企業風土改革に取り組み始めていますが、この流れをさらに加速させる必要があります。

東:技術が強いこと自体は素晴らしいことです。しかし、それだけに偏ってしまった面があると感じています。
Hondaの強みは、「こんな技術があるのか」という驚きでお客様を惹きつけてきたことにありました。しかし近年では、消費者の嗜好も生活スタイルも大きく変わってきています。技術の未来を示すと同時に、それがどうキャッシュ・フローにつながるのか、夢が事業の成長にいかに結びつくのかも示さなければ、投資家の期待にも応えられません。
小川:その意味で、顧客を起点に商品や事業のあり方を見直す動きは重要だと考えています。
例えばインドでは、まず現地のお客様が求める性能と価格のバランスを起点に商品を考え、そこにHondaらしい価値を組み合わせる方向へ、開発の考え方を転換していますよね。
こうした現場の声が経営に届くワイガヤ文化を取り戻し、トップダウンとボトムアップの両輪がかみ合う組織にしていくことが肝要です。
2050年カーボンニュートラル達成の目標は堅持しつつも、EV戦略見直しに伴いロードマップは再構築が必要です。目標と実行計画の整合性を取締役会でも議論し、投資家に説得力ある道筋を示していきたいと考えています。
國分:こうした変革を着実に進めていくためには、取締役会に主体的に関与していく必要があります。
私はHondaのガバナンスが機能していなかったとは考えていません。取締役会も各委員会も、一定の実効性を持って機能してきたと評価しています。
しかし、指名委員会等設置会社に移行した際に大幅な権限委譲を行い、モニタリングボードに寄り過ぎていたという点はあります。
大きな投資判断が経営会議決議で行われ、取締役会は事後的に報告を受けていたため、どのような議論を経て投資が行われたのかを十分に把握することが難しかったのは事実です。
今般、私は取締役会議長に任命されましたが、意思決定に対する責任と覚悟を持ち、議長として必要に応じて経営会議にもオブザーバーとして出席し、重要な情報を社外取締役と共有していく考えです。
各取締役も従来のマインドセットを変える必要がありますが、社内取締役と社外取締役の情報の非対称は必ずしも埋まらないため、社外取締役としては、自分のこれまでの知見や経験から、おかしいと思ったことは指摘をし、Hondaの常識が世間の非常識になっていないかを問い続けることが、私たちの存在意義です。相当なコミットメントを要しますが、この覚悟なくして変革期の監督は務まらないと考えています。
東:監督を強化すると執行のスピードが落ちるという見方がありますが、これは誤りです。
社内での議論が予定調和的に進んでしまうことは起こり得ることです。社外取締役の役割は単なる牽制ではなく、社内論理に陥りがちな議論を一般常識の観点からスクリーニングし、検討漏れを防ぐことにあります。「それはなぜなのか」という問いかけは、意思決定を妨げるのではなく、背中を押すことにつながります。取締役会における「説明と議論」のループを最速化し、実質的な議論が行われる仕組みを整えることも重要な課題です。

小川:何もかもをマイクロマネジメントするわけではありませんが、今後のHondaにおける重要テーマである中国戦略やインド戦略、パートナーとの協業、四輪事業の生命線となるソフトウェア技術の選択などについては、戦略上の重要性に基づいて、取締役会にタイムリーに共有されることが望ましいです。
その上で経営戦略や事業戦略の適正性、合理性、実現可能性に関する議論には時間を割き、より深いコミュニケーションが必要です。
責任を持って賛同する以上は、その進捗にも深く関わっていく必要があり、投資判断とその進捗、成果を定点的に測るKPIの設定は必要でしょう。
國分さんがおっしゃった「覚悟」という言葉は私にも響きました。私たち自身が責任を引き受けることで、執行との信頼関係がより強固になり、経営の質そのものが変わっていくと確信しています。
多様な事業と顧客接点をつなぎ、
新たな成長を生み出す
國分:ガバナンスを強化する目的は、守りを固めることだけではありません。Hondaの強みを、次の成長につなげることも重要です。
そもそも「Hondaらしさ」とは必ずしも明確ではなく、その概念自体が多様化していく時代の中では大きく変化してきているのかもしれません。
私たちの夢が本当に市場とマッチしているのか。ハードとしての車だけでなく、生活に組み込まれ愛される存在になるために何をすべきか。
営業力や販売力の強化にとどまらず、顧客を中心として事業を有機的につなぐ全体像、言うなればHondaとしてのエコシステムというものをいかに構築するかが、根本的な経営課題だと認識しています。
その具体化に向けて、Hondaが持つ多様な取り組みをどう組み合わせるかが重要になります。例えば、HondaJetのユーザーが必ずしもHondaの車に乗っているわけではなく、二輪のユーザーが四輪へ自然に移行する導線も十分に整ってはいないと思います。東南アジアでさえ、四輪のリピート率は満足なレベルに届いていません。
Hondaが持つ顧客との信頼関係やグローバルネットワーク、事業ポートフォリオといったものは、事業成長を実現し続けられる可能性を大いに有するアセットです。
そのため、各事業セグメントがそれぞれで事業成長を図るだけではなく、顧客を中心に事業を有機的につなぐ全体観を描き直すことが、成長戦略の出発点になると考えています。
東:私は、多様な事業を持つからこそ「Honda」なのだと捉えています。その多様性は単なるリスクの分散ではなく、未来の事業を生み育てることにあります。未来の事業が成長するためには各事業が独立するのではなく、融合していく仕組みも必要です。
一方で、自動運転など新たな技術が実現可能になる中では、お客様にとっての価値そのものが変容していきます。移動の喜びだけでなく、移動そのものが自動化される時代に、Hondaがどのような付加価値を提供できるのか。事業同士が融合し、互いの知見を掛け合わせてこそ、Hondaにしかできない新しい価値が生まれると確信しています。
変えるべきものを変え、
「夢の力」を次の成長へ
東:だからこそ、次の成長に向けては、変えるものと守るものを明確にすることが重要だと思います。会社には変えてはいけないものと、変えなければいけないことがあります。Hondaフィロソフィーは従業員にも株主にも深く根付いた大切な財産です。
一方で、仕事の進め方やこれまでの常識に縛られている部分は、勇気を持って変えるべきです。痛みを伴うかもしれませんが、今こそこれまでの常識を疑い、変革への好機と捉えるべきだと私は考えています。
小川:私は公認会計士という職業柄、さまざまな企業に関わってきましたが、その中でもHondaは好きな会社です。
現場を訪れると、一人ひとりが情熱を持って、与えられた役割に愚直に向き合っている姿を目にしてきました。毎年行われている研究発表会でも、技術者たちの真剣なまなざしに接するたびに、この会社の底力を感じます。
Hondaには、変革に立ち向かってきた実績があります。そのため今後は、ビジネスアップデートで示した3つの柱とコミットメントをしっかりと実行し、その道筋を社会にも社内にも示していくことが重要です。私たち社外取締役も、これまで以上に覚悟を持って経営に関与し、変革と成長を全力で支えていく考えです。
國分:私は今のHondaに対して、ひとことで言えば「こんなことで縮こまるな」ということを思っています。それは、私が幼少期から好きだった「ワクワクさせてくれるHonda」というイメージは、多くの人々の心に今でも残っていると感じているからです。そうした夢を抱かせてくれる企業という存在価値を最大限に発揮し、今後も人々の心に驚きや感動を届けられる会社であり続けてほしいと願っています。
Hondaが持つ夢の力とは、ここで終わるものでは決してありません。
