販売店の再定義。いつでもふらりと立ち寄れる場所へ
カスタマイズをするだけでなく、バイクとともに流れる時間を楽しめるCub HOUSE
――2026年4月25日、埼玉県の戸田市に国内展開のトライアル店となる「Cub HOUSE(カブハウス)」が、日本に初上陸しました。活気あふれるタイの市場で生まれた、バイクのカスタマイズを起点としたライフスタイルを提案する新たな店舗。オープン当日は多くのお客様が開店前から行列をつくり、ライダーたちのコミュニティ拠点となりつつあります。
――「バイクを買いに行く場所」「整備をする場所」という従来の二輪販売店とは異なり、カフェのような居心地の良さを提供する日本のCub HOUSE。プロジェクトメンバーとして立ち上げを牽引した鈴木咲香(ホンダモーターサイクルジャパン)と、デザイナーの立場から共創に取り組んだ黒田耕介(Honda R&D)の2人に、空間設計に込められた想いや、仕掛けられた数々のアイデアの裏側を聞きました。
――バイクを単なる効率的な移動手段としてではなく、自己表現やライフスタイルの一部として楽しむライダーは大勢いらっしゃいます。だからこそ「売る・乗る」の先にある「カスタマイズ」を通じて、バイクのある暮らしそのものを楽しむための提案が必要でした。
―Cub HOUSEは、これまでの販売店とどう異なるのでしょうか。
鈴木
ただバイクを販売する場所ではなく、気軽に入れる空間でありながら、一歩足を踏み入れると思わずドキドキするような仕掛けやデザインが広がっている「行きたくなる場所」を目指しました。お客様同士や店舗スタッフとのコミュニケーションを生み出し、「バイクのある暮らしそのもの」をトータルコーディネートすることで、最終的にバイクカルチャーを愛し続けてもらえる拠点になれたらうれしいですね。
黒田
従来の二輪販売店は、どうしても購入や試乗、整備などの明確な目的を持って訪れる場所でした。しかし、このCub HOUSEは、目的や用事がなくても誰もが気軽にふらりと訪れ、バイクの魅力をカジュアルに体感できるようにしています。
鈴木
「買うため」「直すため」だけではハードルが高いので、気軽にステッカーなどで自分らしいカスタマイズを楽しんでいただき、何度も足を運んでいただける場所になればと考えています。
異業種から着想を得た 「選ぶ楽しさ」のある空間
—国内展開のCub HOUSEをデザインするにあたり、どのような工夫を行ったのでしょう。
鈴木
プロジェクトメンバーには、アイデア出しの段階から「二輪業界の常識にとどまらず、柔軟に様々なトレンドを取り入れたい」という共通認識があり、異業種も含めた市場調査を行いました。
鈴木
ネットショッピングで何でも手に入る時代だからこそ、わざわざお店に行き、実際に見て、触れて、確かめて、納得して買う。そういう理想の体験に近づけたいと考え、アパレルショップなども参考にしました。
黒田
私はスポーツ自転車のショップが非常に参考になりました。店内に入ると、様々なデザインの車体、ホイール、細かなボルトパーツに至るまで、美しくディスプレイされていて、プロの店員さんと会話しながら自分だけの1台に組み上げていくことができる。そのワクワク感にとてもインスピレーションを受けました。加えて、気兼ねなくくつろげるスペースがあったり、店内のデザイン性が高かったりと、長時間滞在したくなる空間設計がされていたのです。
—従来のカスタマイズコーナーは上級者向けのイメージもあります。ハードルの高さを感じさせないための空間設計で意識した点はありますか。
鈴木
バイクは自然と目線に入る高さに配置し、壁面には美しいカスタマイズパーツをアートのように並べ、アパレルショップのように、空間全体でブランドの世界観を感じさせる手法を取り入れることにしました。また、店内照明のトーンを落とし、植物を配置するなど、居心地の良さを徹底的に追求しました。
黒田
タイのCub HOUSEから引き継いだのは、店内から見渡せるピット(作業場)です。通常、バイクショップのピットは作業スペースとして表から見えにくいのですが、Cub HOUSEでは自分のバイクが仕上がっていく過程を店内の特等席から眺めることができます。
黒田
作業スペースをあえて見せることにより、愛車が変わっていくプロセスそのものをエンターテインメントとして楽しんでもらうための設計です。今までの二輪販売店が持たれがちな「雑然としていて入りにくい」イメージとは一味違う、洗練されたかたちでバイクのある暮らしを表現しました。
引き算のデザインで洗練された空間に。‘70を現代に落とし込む
カスタマイズパーツを制作
「Cub HOUSE ‘70 Collection」
――Monkey やCT、Daxといった、現代も愛されるHondaのプロダクトブランドの原点は、1970年代にあるといえます。原点回帰と半世紀の歴史へのリスペクトを込めて、Cub HOUSEではオリジナルのヘルメットやカスタマイズパーツ「Cub HOUSE ‘70 Collection(カブハウス セブンティーズコレクション)」を制作しました。
――オリジナルパーツでドレスアップしたバイクの展示も見どころの一つです。乗り心地や快適性は時代に合わせてアップデートする一方で、デザインには70年代のアイコンを色濃く落とし込んでいます。
――一方、店舗の内装については、あえて70年代らしさを抑えています。居心地の良さを重視し、現代的で洗練されたデザインで空間を構成することで、懐古的になりすぎないようバランスをとっています。
ヘルメットにも’70のエッセンスを
――こうした「伝統と現代のバランス」は、Cub HOUSEで扱うオリジナルヘルメットにも息づいています。今までの伝統的なデザインを尊重しながら、現代のライダーのスタイルに合うように細部まで見直したと黒田は振り返ります。
—Cub HOUSE Monkeyヘルメットはどんな方向性でデザインされたのでしょうか。
黒田
一番のこだわりはロゴマークの位置です。最近は、レトロなヘルメットにゴーグルを合わせてバイクに乗る方も非常に増えていますが、従来のヘルメットだと、ゴーグルのベルトによって、最も大切なブランドロゴが隠れてしまっていたんです。
今回はお客様ごとに異なる様々な使い方や、ゴーグルのベルトが通る位置を考慮し、ゴーグルの有無に関わらず、ロゴマークがバランス良く綺麗に見えるようデザインしました。気分に合わせて使い分けていただいても良いと思います。色調についても、屋外での見え方やファッションとの親和性を含め、ちょうどいいバランスのトーンを狙いました。
鈴木
ヘルメットの外箱も注目してほしいポイントです。国内外のどんなに洗練された店舗空間であっても、お店の隅には配送用の茶色いダンボールが山積みになってしまうという課題がありました。せっかく店舗を良い雰囲気にしても、それでは少し残念です。「Cub HOUSEの外箱は、全部可愛くしてディスプレイに変えてしまおう」と考え、白と黒のモノトーンで統一し、積み重ねることでインテリアとしても成立する外箱をデザインしました。
黒田
Cub HOUSEの店舗デザインは、基本的に白と黒をベースにしたミニマルな世界観で統一されています。ダークトーンの内装なら黒い面を、明るい内装なら白い面を表にできるようなバイカラーデザインとしました。白黒交互に設置して市松模様にすれば、それだけでレーシングフラッグのようなディスプレイが完成するんです。
気軽に始められる「自分らしさ」の表現
—カスタマイズ文化を盛り上げるための仕掛けとして、手軽なステッカーキットも用意されていますね。
黒田
カスタマイズの世界では、費用さえ掛ければ一品物のスペシャル品もつくれてしまいます。しかし、Cub HOUSEにおいて一番大切なのは、お客様に自分でつくり上げる楽しさを味わっていただくこと。すなわち「体験」そのものです。
鈴木
高額な外装キットだけだと「カスタマイズって自分には遠い世界だな」と思われる方もいるでしょう。まずは手の届きそうな価格で雰囲気をガラリと変えられるステッカーキットから、気軽にバイクのカスタマイズを楽しんでほしかったのです。
時代とともに楽しみ方を広げ、誰もが気軽に「自分らしく」なれる場所へ
バイクの新たなコミュニティ拠点へ
—これからCub HOUSEは、日本のバイクカルチャーにおいてどのような存在になっていってほしいですか?
鈴木
やはり、幅広いお客様に気軽に立ち寄っていただける場所にしていきたいです。オープン当日、駐車場には何十台ものバイクが並びましたが、一台として同じものはありませんでした。全く面識のない人たちがお互いのバイクを見て、「これいいね!」と自然に会話が生まれる。一方で、最後には、自分のバイクに誇らしげまたがり帰っていく――そんな心地よい光景が広がっていました。
鈴木
Cub HOUSEが、お客様にとってバイクへの想いやこだわりを共有し、その魅力に共感する仲間と出会える場所、そんな温かいコミュニティの拠点になればうれしいですね。
黒田
所有しているバイクをCub HOUSEで少しずつカスタマイズして自分色に染めていくのもいいですし、このCub HOUSEで新車を購入し、様々なコミュニケーションを通じてカスタマイズやバイクライフを楽しむのもいい。ここはどんな人でも楽しめる間口の広い場所でありたいです。「ここに来れば、絶対に新しいワクワクがある」。時代やお客様に合わせて、Cub HOUSE自体も変化し続けることで、そういった期待に応え続けられる場所でありたいと思っています。
Profiles

鈴木 咲香
Cub HOUSEプロジェクトメンバー(ホンダモーターサイクルジャパン)
