
既存の概念に捉われず二輪車を再構築する
――横山さんはデザイナーとしてこれまでどのようなプロジェクトを担当してきたのでしょうか。
横山
これまで主にコンセプトモデルを中心にデザインしてきました。コンセプトモデルというのはモビリティショーなどの展示会で発表するためのものですが、2015年の東京モーターショーで発表したスポーツハイブリッド三輪の「NEO-WING」などを担当しましたね。量産モデルでは、2022年に発売した「Dax125」などもデザインしています。


――モーターサイクルのデザインはどのように進めていくのでしょう。
横山
そのモデルに求められる用途や使用環境などを設定し、それに必要な機能・性能を満たすように仕様を決定します。バッテリーやモーターなどの機能部品をレイアウトしながら、一台のモーターサイクルにそれを収めていく作業になります。さらに、そこに込めたいメッセージを表現できるようなデザインに落とし込んでいくわけです。
――Hondaは2024年を電動二輪車のグローバル展開元年と位置づけ、電動二輪車市場への参入を本格化していくことになりました。
横山
はい。それを受けて我々デザイン部門としても、電動二輪車におけるデザインの新しい方向性を検討しています。様々な方向性を検討する中で、その一つの方向性を体現するモデルとして、今回の2台をデザインしています。

未来の都市での使用を想定したアーバンモデル
――まずは「EV Urban Concept(イーヴィー アーバン コンセプト)」から教えてください。どのような進め方でデザインしていったのでしょうか。
横山
従来のICEの考え方とは切り離し、バッテリーやモーターの位置などもゼロから構築してきました。まず、使用される環境などを想定し、バッテリーはこのくらいの大きさ、ヘルメットを収納する、しないといった様々な要件を設定します。そのうえで、デザイナーが「Precision
of Intrinsic Design」をテーマにアイデアを出し合い、スタイリングを創出していきました。
デザインの最大の特徴は、一目でわかる水平基調を中心としたボディー形状です。
我々が新しいデザインの方向性で目指すのは、内包している機能や構成部品、素材を無視した、全く機能部品とは関係ない未来的なスタイリングでデザインを成り立たせることではありません。「機能を研ぎ澄まし、本質を表現する」ためには、水平基調で大きなバッテリーなどの形態を活かし、それをスタイリングに昇華させることが必要でした。


我々が新しいデザインの方向性で目指すのは、内包している機能や構成部品、素材を無視した、全く機能部品とは関係ない未来的なスタイリングでデザインを成り立たせることではありません。「機能を研ぎ澄まし、本質を表現する」ためには、水平基調で大きなバッテリーなどの形態を活かし、それをスタイリングに昇華させることが必要でした。
一方で、ただ水平基調なだけの構成では、二輪車の動体としての躍動感や、滑らかな走りは表現できません。そこで、前輪、後輪を意識した台形プロポーションに、各部に勢いを感じさせるラインを加えることで、家電などのプロダクトとは異なる、動体としてのダイナミックなスタンスを生み出しました。
また、研ぎ澄ましたボディー形状と、長めのホイールベースや太いタイヤとの対比によって、都市部での機動性を確保しながらも所有感を感じる堂々とした佇まいを実現しています。これは従来のコミューターとは異なるアプローチです。

――苦労した点はありますか。
横山
ゼロから再構築する、ということがこれまでとの大きな違いです。ICEは設計的にもデザイン的にも、「エンジンはこうあるべき」「吸気から排気までの流れを美しく表現する」などの定石があります。でも電動二輪車は黎明期ですから、各社もいろいろ試していて、まだスタンダードがない状況です。
Hondaが長年二輪車を開発してきたことで培い、大きなアドバンテージである「走る・曲がる・止まる」という性能。その実現において外せない機能や要素は押さえつつ、従来の表現手法にとらわれず、電動ならではの新しさをどう表現するのか。この試行錯誤がデザインするにあたって一番苦労した点です。

電動ならではのエモーショナルな走りを実現するFUNモデル
――続いて、FUNモデルの「EV Fun Concept」です。Honda初となるスポーツモデルの電動二輪車ということで、期待もかなり高いようです。デザインについて聞かせてください。
横山
EV Fun Conceptも「機能を研ぎ澄まし、本質を表現する」という大きなテーマはEV Urban Conceptと同様です。
ICEで培ってきたHondaの「走る・曲がる・止まる」に加えて、電動二輪車ならではの圧倒的な加速力と、静かで軽快な走りを表現するために、スリムでシームレスなデザインを目指しました。肉を盛って造形するというよりは、塊を削って造形したイメージです。ネイキッドとモタードの中間にあたるようなイメージの、カテゴリーレスのモデルを目指しています。



――参考にしたものはありますか。
横山
全くありません。もちろん彼我比較として様々な電動二輪車は見ていますが、世の中にないものを作ろうとしているので、なるべく現存の二輪車からは離れたいと考えていました。
一方で、ギミックを多用した、表層的な新規性を求めたデザインは、我々が目指す方向ではありません。今、様々なデザインの電動二輪車が出てきている中で、Hondaとしては今までの延長線上にない新しさを表現すると同時に、モーターサイクルとしての趣味性や機能美もしっかり押さえたデザインを心がけました。

――Hondaの電動二輪車では初のスポーツモデルとして、気負いやプレッシャーもあったのでは。
横山
新しいものをデザインするときは、ゴールが見えない状態で絵を描き続けることになります。正直、悩み苦しんだ時期もありました。でも、絵を描いているときは深く考えず、自分が「これなら乗りたい、欲しい」と思うものをデザインしていきました。結果的に、多くの方に乗りたいと思っていただけるようなデザインに到達できたのではないかと自負しています。
今回のモデルは、まだ正解のない電動二輪車の黎明期において、Hondaとして出した一つの解です。今後も様々なモデルが出てくると思いますが、技術や性能の進化に伴って形も変わっていくでしょう。その最初の一歩として世の中に発信する、全く新しいデザインを自ら創出できたことは、困難ではありましたが、本当に良い経験となりました。世界中のお客様に、電動二輪車に対するHondaの本気度を感じ取っていただければと思っています。
――どんな人たちに乗ってもらいたいですか。
横山
イメージしたのは、新たな発見や新しい体験を求める、アクティブで未来志向なお客様です。そういった人々が、市街地やワインディング路をキビキビと軽やかに走っていく姿を思い描きながらデザインしました。AT(オートマチックトランスミッション)ですし、スリムなので足つき性もいい。初めてモーターサイクルに乗ってみたいという人にとっても、敷居は高くないと思います。もちろん、既存のFUNモデルのライダーにも乗ってもらいたいですね。ICEとは全く異なる、異次元にワープするような加速感や静粛性には、今までにない驚きと感動があるはずです。ぜひ体験してみてほしいです。
Profiles

横山悠一
モーターサイクル・パワープロダクツ
プロダクトデザイナー