Honda R&D
Technical Review Vol.34 No.2
- 大気中の二酸化炭素の資源化に向けた微細藻類の屋外安定培養技術の研究
- 要旨
カーボンニュートラル社会構築に向け、大気中の二酸化炭素を有価物へ転用可能な微細藻類を用いた二酸化炭素固定化技術の構築を目的とし、Hondaオリジナル株とフラットパネル式培養槽を用い、培養条件と培養槽構造の適正化の検討をおこなった。培養条件は、栄養塩成分である窒素、カリウム、リン濃度の設定をおこなった。かくはんガイド形状を、一方向に液とガスを吐出する形状を採用することで、培養液の流れ場流速を0.02 [m/sec]以上を達成した。以上の培養条件の適正化により、微細藻類の生産量が向上できた。培養槽構造については、断熱層構造により、年間を通じて管理温度範囲に制御が可能となった。また、培養槽の45 [°]チルト設置により培養槽に入射する光量を増大することができた。これらを反映した屋外培養試験から藻生産量13.5 [g/m2/day]の見通しが得られた。この結果からDREAMOは、カーボンニュートラル燃料であるサトウキビ由来のバイオエタノールと同等以上の作付面積当たりのエタノール生産量を達成する可能性が示された。
木下 翔平、福島 のぞみ、土肥 瑞穂、後藤 稔
論文詳細 - リチウムイオン電池の内部状態を予測して劣化挙動を高精度に算出するSemi-Physical Model
- 要旨
車載用リチウムイオン二次電池の長期間における耐久性を高精度に予測するため、リチウムイオン二次電池性能の性能発現メカニズムに基づいた劣化シミュレーションモデルを開発した。これまで、リチウムイオン二次電池の長期耐久性を担保するにはそれに相応する長期間のテストや設計値に予測精度の観点から大きなマージンが必要であった。本モデルの性能を算出するモデル部は劣化メカニズムに影響する物理量を説明変数に用いたPhysical Modelとし、各因子の劣化挙動は実験結果から学習するEmpirical Modelとしたハイブリッド構造を有するSemi-Physical Modelを提案した。その結果、耐久性の予測精度が向上し、長時間における性能劣化遷移の非線形挙動を表現できることを示した。しかし、その内部状態を解体解析によって取得する場合、モデル学習に多くの開発コストが必要となるため、本検討では学習コストの低減による適用性の向上も狙い、内部状態の測定はリチウムイオン二次電池を解体せずに電圧、電流データから算出するアプローチを選択した。これにより、設計に必要な余裕代を小さくし、利便性を向上することが可能になる。
冨永 由騎、大道 馨、加我 正、西本 有里佳
論文詳細 - アルミニウム鋳物合金の熱伝導率に及ぼす熱処理条件の研究
- 要旨
アルミニウム鋳物合金製の部品に要求される機械的特性を達成した上で、熱伝導率を高める熱処理条件を設定するアプローチを研究した。シリンダヘッドの材料として使用されるアルミニウム鋳物合金AC4Bにおいて、アルミニウム金属マトリクスに固溶して熱伝導を阻害する溶質原子の挙動に着目することで熱伝導率を高める熱処理条件を検証した。本研究は熱処理型アルミニウム合金全般への応用性があり、放熱特性の要求が高いアルミニウム合金製部品への展開が可能である。また、熱伝導率と電気伝導率の密接な関係から熱伝導率の簡便な代替測定方法の可能性を示した。
上田 順一、家永 裕一、須藤 建次
論文詳細 - 量産組立工程での超音波によるリアルタイムボルト軸力締結システム
- 要旨
量産組立工程における締結力ばらつきを削減するため、自動設備や人による作業に係わらず、締結力が安定するリアルタイムボルト軸力締結システムを開発した。軸力の測定は、超音波方式を用い、精度向上のため、ボルト頭部とプローブ間にギャップを設けた。測定用のボルトは、既存製造工程で成形ができる仕様とした。プローブは超音波を発振し、それが新たに開発した固形式伝搬媒質を介し伝搬され、ボルトの頭部と底面からのエコーをそれぞれ受信する。受信した二つのエコーを同時演算することにより締結中でも測定が安定し、リアルタイムでの軸力測定を実現している。その結果、生産タクトタイムやボルトの製造コストなど、既存条件を変えることなく締結中の軸力測定を実現した。
本技術は、量産締結工程で広く普及しているナットランナー電動締結設備との双方向通信をおこなうことができる。締結力は、あらかじめ設定した軸力値に制御することができ、既存トルク法締付に対し、軸力ばらつきを1/10以下まで低減することができた。津﨑 一浩、榊原 利次、原 安史、石田 司
論文詳細 - バッテリ電圧推定を目的とした機械学習モデルにおける精度評価指標の提案
- 要旨
リチウムイオンバッテリの電圧を推定する機械学習モデルの評価を目的として,アレニウス則に基づいた精度指標を新たに構築し,機械学習モデルの優劣を判断できるか検証した.機械学習モデルとして,データが存在しない領域で離散的な推定をするモデルと,連続的な推定が可能なモデルの二種類を選定した.その上で電動車から収集したフローティングカーデータを基に温度が離散的なデータを生成し,モデルの学習と評価をおこなった.その結果,一般的に用いられる評価指標であるテストデータに対する誤差評価では,二種類のモデルの評価結果に明確な差が出ないことを確認した.その一方で,我々が新たに構築したアレニウス則に基づいた評価指標では,モデル評価の差がより明確となることを確認した.本指標の導入により,収集データが限られる場合でも機械学習モデルの評価が可能となり,機械学習モデルを活用したバッテリ電圧推定技術の実用化に向けて前進できた.
川原 卓磨、佐藤 優気、佐藤 功二
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