Honda R&D Technical Review Vol.33 No.2

Honda R&D
Technical Review Vol.33 No.2

Honda eのデザイン開発 -先進技術が人に寄り添うクルマ-
要旨

Honda eは、街なかベストのコンパクトサイズ・コミューターとして開発された、Honda初の量産型電気自動車である。10年後の未来を見据え、「高度な先進技術がシームレスに人とつながった世界で、毎日の生活に寄り添うパートナーのようなクルマ」を志した。
デザインは、「Affinity & Modern」という言葉をキーワードにその具現化をおこなった。パッケージは徹底した街なかベストサイズを狙った。エクステリアはシンプルを極めながらもクルマらしい安定したスタンスと、スタイリングを際立たせるボディーカラーが特徴である。インテリアは居心地の良いリビングルームを質感高く表現した。

内田 智、佐原 健、明井 亨訓、半澤 小百合

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交通安全アドバイスロボットRopotの開発
要旨

歩行中の交通事故は、日本では7歳児が突出して多い。そのため、小学校低学年の児童に対する交通安全教育の一助となる交通安全アドバイスロボットRopotを開発した。
Ropotには教育機能と受容性機能を持たせた。特に、「安全確認地点リマインド」「後方確認リマインド」「振り返り機能」の三つの教育機能が今までの機器にはない特徴である。
これらの機能実現のために、高精度の位置計測が可能な全球測位衛星システムと環境ロバスト性の高いミリ波レーダを用い開発をおこなった。これを児童にとって親しみがわく相棒デザインの中に収め、受容性機能を向上させた。
教育展示会、実証実験を通じて、教育機能と受容性機能が児童、保護者、学校関係者に受け入れられ、効果が確認できた。

菊池 紗、藤井 智士、楠戸 淳也、甘利 友也、若田 邦治、才津 優

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COVID-19感染者搬送車両の短期開発 -迅速な車両提供による社会貢献-
要旨

COVID-19に対応する自治体、医療機関を支援するため、感染者搬送車両を開発した。感染または感染の疑いのある市民を医療機関などへ搬送する際に、運転手への感染を防止する仕様を開発し、それを既存車両に組み込んだ感染者搬送車両を2週間で自治体へ納入した。この短期間での開発と提供のため、感染防止手法として既存の車両の運転席背面にフラットな隔壁を取り付け、車載のエアコンの送風能力を活用するというシンプルな機構を採用した。感染防止機能の指標となる隔壁前後の差圧は目標とした手術室の管理目標値2.5 Pa以上を、キャビンの換気能力は目標の12回/h以上を達成した。この車両を2020年4月から12月までに計158台を仕立て、25都道府県に提供した。

中尾 敬一郎、田中 利享

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二台一組の薄型ロボットを用いた無人車両搬送システム
要旨

人に代わってクルマの搬送をおこなう無人車両搬送システムを考案した。幅広い車種や、自動運転機能が搭載されていない車両にも適用できるよう、車両の搬送にはクルマ本体の性能に制約を受けない車両搬送ロボットを用いることとした。また、屋内や都市部の狭小スペースでも車両を搬送するため、二台一組のロボットが車両の下を自在に移動し、対象車両のタイヤを同時に持ち上げ、協調しながら全方向へ自由自在に搬送をおこなう方式とした。システムの実現可能性を検証することを目的とし、車両搬送ロボットの試作機開発をおこなった。開発した試作機を用いて、狭小スペースにおける動作検証実験をおこない、所望の搬送動作が実現できていることを確認した。

近藤 修平、益田 晃次、鹿野 直人、室園 智紀

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高拡散型千鳥噴射ノズルを用いた拡散燃焼の分割化によるNOxとスモークの同時低減
要旨

拡散ディーゼル燃焼において極低エミッション化を実現するため、NOx低減に有効な高過給高EGR条件下におけるスモーク抑制手法について検討をおこなった。従来燃焼におけるスモークの主な生成元となっていたメイン拡散燃焼リッチ部を低減するため、メイン燃料噴射量の減量と、早期噴射量の増量による予混合燃焼を組み合わせた分割燃焼を採用した。この分割燃焼の採用により従来燃焼音により制限されていた燃料噴射圧力を高めることができ、分割燃焼の効果と合わせてスモーク低減効果が確認された。また、予混合噴射のダイリューション低減のため、千鳥配置噴霧を採用した。これらの手法を組み合わせることにより、従来燃焼に対し熱効率の低下と燃焼音の増大、スモークの増加をさせることなくNOxを40%低減、拡散ディーゼル燃焼の極低エミッション化を実現した。

安藤 博和、青柳 聡、中津 雅之、大矢 直樹

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低慣性・高剛性ダイナモによるエンジントルク変動再現
要旨

エンジンのトルク変動に起因する課題事象の解析効率を向上させるため、バーチャル・アンド・リアル・シミュレータに用いるダイナモを改良した。再現周波数領域拡大のため、ダイナモ構成部品の寄与度を1D CAEを用いて明確にし、構造変更を実施した。その結果、トルク変動の再現周波数を拡大し、4気筒及び6気筒エンジンでNVが課題となる運転領域において、バーチャル・アンド・リアル・シミュレータで解析できるようになった。このベンチシステムを用いることで、ラトルノイズなど、エンジントルク変動に起因する駆動系ねじり振動のメカニズム解析を部品の組み替えをすることなく試験できるようになった。本研究は、エンジントルク変動に起因する駆動系ねじり振動課題の解析効率向上を実現し、早期仕様決定に貢献できる。

塩田 啓二、佐川 正記、天野 雅文、末竹 和幸

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硫化物全固体電池湿式プロセス用溶媒の検討
要旨

硫化物全固体電池の湿式プロセスを構築するにあたり、それに適した溶媒を探索する必要性から、固体電解質と溶媒の反応性を系統的に検討した。高いリチウムイオン伝導性を示すハロゲンドープ型アルジロダイト固体電解質は、極性基を有しない炭化水素化合物とは反応しなかった。一方、エーテル類、エステル類、ケトン類、およびニトリル類はそれぞれの極性基に存在する酸素原子と窒素原子が固体電解質と強く相互作用し、電解質中のリチウムイオンと錯体を形成することが想定されたが、アルキル鎖長が炭素数4の溶媒は、錯体の形成が見られず、固体電解質のイオン伝導度を著しく低下させることはなかった。アルキル鎖が長くなることにより、溶媒分子中の配位酸素原子のアプローチ可能な表面積が減少することにより、溶媒が固体電解質の表面にアプローチすることが阻害されたためであると考えられ、溶媒の探索指針として、アルキル基の鎖長を炭素数4以上とすることで湿式プロセス実用化の方向性が得られた。

銭 朴、酒井 洋、小川 篤、前山 裕登、古田 照実

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