Honda R&D
Technical Review Vol.33 No.1
- 空港案内ロボットシステムの開発とデザイン
- 要旨
「人と共存、協調して社会の中で役に立つロボット」の実現を目指し、人々が行きかう公共空間の一つである空港施設内で案内サービスを行うロボットシステム開発において、コンセプトを「つき添う羅針盤」と定めた。空港関係者、Honda所員の家族へのアンケート調査を実施し、生の声を聞き潜在的な要望を探りながらデザインを熟成させた。開発の進捗に連動した駆動機構の改良や各種センサ類の成立性を精査し、モックアップや試作機を経て受付ロボットと誘導ロボットを親しみやすく機能的なデザインとして具現化した。
お客様が戸惑うことなく利用できるインタフェースと、空港利用者で混雑する環境でも人と同じように誘導移動できる技術を開発し、コンセプトに沿ったサービス提供の可能性を空港施設実地にて検証した。斉藤 陽子、輿石 健
論文詳細 - 空港案内受付ロボットの開発
- 要旨
案内ロボットシステムは、ロボットが成田国際空港で案内サービスを実行するシステムである。案内ロボットシステムは受付ロボットと誘導ロボットの2種類のロボットが協調しながら案内サービスを実行する。受付ロボットは、お客様の窓口となるロボットであり、お客様が目的地を音声とタッチパネルで入力すると、道順を示し、運用システムを通じて誘導ロボットに目的地を送信する。この受付ロボットの開発にあたり、案内ロボットサービスのつき添う羅針盤というコンセプトを分解した機能として、多様なお客様への対応(多言語対応・昇降機能)、戸惑わない対話(音声認識・対話エンジン)、違和感の無いロボットの応答(動き・音・画面)を実現した。ユーザ評価の結果、80%の調査参加者から空港にあれば使ってみたいという回答を得た。
大西 潤哉、益田 綾子、大林 千尋、川崎 雄一、竹部 雄貴
論文詳細 - 空港案内誘導ロボットにおけるロバストなフォロワ認識機能の研究
- 要旨
案内ロボットの実用化に対して、ホスピタリティは重要な要素である。本稿では、案内対象者の認識機能、すなわち、フォロワ認識機能を定義し、ハイブリッドな手法を提案した。本手法は、顔認識、人物追跡とPerson re-identificationの三つの技術を融合することで、それぞれの技術特性を活かし、ロボット視点におけるフォロワまでの認識距離や照明の変化、物や人によるフォロワの隠れなどの課題に対するロバスト性の向上を図った。成田国際空港内での実証実験を通じ、フォロワ認識機能の案内誘導ロボットサービスへの実用化の見通しを立てた。
沙 子鈞、名取 洋一、有泉 孝裕
論文詳細 - 2020 CRF1100L Africa Twinのカラーリングデザイン
- 要旨
2016年に発表されたAfrica Twinは、その再興を掲げて、トリコロール、CRF Rallyカラー、モノトーンカラーの3タイプのカラーバリエーションを展開した。それらは単純なカラーバリエーションではなく、主たる使用用途と連動させた、カラーリングごとに違う世界観を持つ特徴的なものとなった。2020年モデルでは、オフロード走行をより楽しめるAfrica Twinと快適なツーリングのための進化を図ったAfrica Twin Adventure Sportsの二つのタイプを設定した。カラーリングを検討するにあたっては、それぞれのカラーが持つ特徴やヘリテージとリンクさせることにより、さらに深化した世界観を表現した。
桂川 碧
論文詳細 - 無限音階のコンセプトを利用した電動化車両向けアクティブサウンドコントロール技術
- 要旨
モータによる電動走行の特徴であるシームレスな加速にマッチした車内音を実現するために、電動化車両向けのアクティブサウンドコントロール技術を開発した。本技術は、無限音階の考え方に基づいたサウンドを、車速に同期して生成することを基本とする。無限音階理論をもとに生成したメイントーンに、あらかじめ設定した周波数比で複数のサブトーンを重ね合わせることで、更に自由度の高い加速サウンドを実現できる。本技術によってエンジンサウンドとは異なる、電動化車両にマッチした音色を有する加速サウンドを実現した。
王 循、前坂 拓摩、井上 敏郎
論文詳細 - 電磁接触器が励振する電動車騒音の予測技術
- 要旨
電動車には高電圧バッテリーユニットが車体に搭載されており、このユニット内の電磁接触器の作動音は乗員にとって不快に感じられる。この騒音を、高電圧バッテリーユニット単体の加振力と車体の構造音響伝達特性から予測する手法を構築した。コンポーネントベース伝達経路解析を採用することで、振動源と伝達系を切り離し、高電圧バッテリーユニット単体の車体側へ伝達する荷重と車体構造伝達とキャビン音響伝達を複合した伝達関数を用いることで完成車状態の騒音を予測できるようにした。さらに、サブユニットであるジャンクションボードの荷重から高電圧バッテリーユニット単体の荷重を予測するCAEモデルを構築し、高電圧バッテリーユニットの図面段階で加振力を予測できるようにした。以上の技術により、完成車状態における騒音の評価が、性能設計の段階で検討できるようになった。
下村 章人、外山 直基、川辺 正道、佐藤 嘉實
論文詳細 - 真実接触と油膜による摩擦係数算出モデルとその検証(ピストンリングとスリーブ)
- 要旨
しゅう動部品を検討する際、その摩擦係数を考慮するが、エンジンのピストンリングとスリーブのように比較的高速域となるとそのしゅう動試験自体が難しく、しゅう動特性が分かり難い。そこで、Liuらが提唱する確率論的手法に初期なじみ後の表面粗さやうねりを適用し、Guptaらの油膜厚さ減少係数を高速域に用いた。更に高速域で支配的になるすべりを考慮した新たな計算モデルを提案した。従来実施が容易でなかった高速域でのしゅう動試験を新規開発のドラムカム式試験機により実施可能とした。本モデルの妥当性を8 m/sまでのしゅう動試験結果と比較することで検証した。結果、本モデルの摩擦係数は、一般的なスリーブ材であるCast gray iron(FC250)において8 m/sの高速域まで実験結果と高い一致性が得られていることが確認できた。また、いままで求める事のできなかった高速域での摩擦係数を得る事ができると共に検証試験速度以上の高速域摩擦係数を予測する事が可能となった。
古賀 秀晴、松本 謙司、小野 佑樹
論文詳細 - 往復動による高伝熱可能なヒートパイプ(自動車用エンジンピストン適用検討)
- 要旨
一般にヒートパイプは振動や傾斜等によって、気液の流れが阻害され、極端に熱伝導率が低下するため、自動車やオートバイ等で使用されている事例がない。
そこで、我々は配管内部の摩擦エネルギー損失を変え、自励振動を強制的におこなう事によって気液二相の流れを制御し、熱輸送量を低下させない新たなヒートパイプを提案した。
往復動による振動を与え、熱伝達率を計測した結果、静止状態の熱伝達率に比べ1.6倍の熱伝達率を示す事が明らかとなった。そのメカニズムは、ヒートパイプ中に密封した液体が、初期の段階で往復により細かな液滴に分解する。その後、この液滴の状態で、ゲートとの接触しながら巨視的に一定の方向の駆動力を得て流れが一方向になる。更にループする事で気液が衝突する事がなく、凝縮領域から蒸発領域への気液の移動を可能にしたと考えている。
今回はエンジンピストンに適用した場合の熱解析を実施し、ピストンヘッド中央温度を39 K下げる事ができ、⊿Tも140 Kから75 Kまで低下させる事ができたため、サーマルストレス低減効果が期待される。松本 謙司
論文詳細 - 三次元網目構造電極を適用した高容量リチウムイオン電池の内部抵抗低減
- 要旨
リチウムイオン電池のエネルギー密度の向上を目的に、金属の三次元網目構造体を集電体に適用し、正極の改善検討を小型セルで、体積エネルギー密度の向上の実証を積層セルでおこなった。
小型セルでは、正極の二つの課題に対し対応策を実施し、その効果の確認と要因を整理した。一つ目の課題は、集電体と活物質の間の接触性の向上であり、集電体表面を導電性カーボンで被覆することで対応した。二つ目の課題は、活物質間の電子伝導パスの形成の向上であり、微粒導電助剤を分散液で適用することで対応した。その結果、いずれの課題対応策においても、抵抗抑制と耐久性向上の効果を確認することができた。また、その要因を把握するために、SPM測定による活物質の導電性評価を実施した結果、電子伝導パスの断裂を抑制しているためであることを確認した。
積層セルでは、電極の厚膜化により、その積層数を削減できた結果、セルエレメントの体積エネルギー密度が集電箔電極セルの614 Wh/Lから、三次元網目構造電極セルにより674 Wh/Lと9.8%の向上を確認した。田名網 潔、田中 俊充、磯谷 祐二、青柳 真太郎、細江 晃久、竹林 浩、奥野 一樹、山本 琢磨
論文詳細 - ケイ酸塩系無機バインダを用いた高性能Si負極
- 要旨
Si負極の充放電に伴う体積膨張を抑制する目的で、ケイ酸塩系無機バインダを用いる検討をおこなった。
導電助剤により電極の密度を下げ、電極内部まで無機バインダが浸み込んだSi負極を用いることで、充放電に伴う電極膨張量を制御でき、集電体からの剥離と活物質層内の導電パス切断を抑えられたことにより、大きな可逆充放電容量を持つ高性能なSi負極が実現できた。
その要因を解明するために、XPS解析とSTEM-EDX解析をおこなったところ、無機バインダコート電極では、シロキサン結合ネットワークが形成され強固な結合が得られていること、Siと無機バインダが融合している界面相が形成されていることがわかった。髙橋 牧子、木下 智博、田名網 潔、青柳 真太郎、向井 孝志、池内 勇太、坂本 太地、山下 直人
論文詳細 - リチウムイオン電池用電解液の酸化電位と絶対ハードネスの関係
- 要旨
リチウムイオン二次電池の高電圧作動に対応するため、電解液の耐酸化性の向上を検討した。カーボネート溶媒の側鎖をフッ素化アルキル置換、主鎖の炭素を硫黄もしくは酸素に置換した分子モデルを作成し、DFT計算による構造最適化をおこなった。構造最適化後のフロンティア軌道エネルギーから絶対ハードネスを算出し、線形掃引ボルタンメトリーから求めた酸化電位との相関を検証した結果、比例関係が示唆された。絶対ハードネスを指標として、カーボネート溶媒以上の耐酸化性が予想されたスルホラン、フッ素化アルキルエーテルを混合して試作電解液を調製した。高電位作動正極として注目されているLiNi0.5Mn1.5O4を用いて、充放電サイクル試験による放電容量維持率を測定した結果、放電容量維持率80%に到達するサイクル数がカーボネート電解液使用時の45サイクルから80サイクルに向上した。
森田 善幸、前山 裕登、古川 敦史
論文詳細 - 腸骨荷重の3軸計測によるサブマリン現象の予兆検出
- 要旨
前面衝突試験における確認項目の一つである、サブマリン現象について、現象発生の予兆を一度の衝突試験にて検出することができれば、衝突安全性能の開発効率の向上に貢献できると考えられる。そこで、衝突ダミーの腸骨荷重計を3軸化し、腸骨前端部に加わるラップベルト拘束荷重の作用点の位置変化を算出することで、サブマリン現象の予兆とする手法を考案した。結果、サブマリン現象を意図的に発生させた前面衝突スレッド試験において、現象発生よりも手前の時間帯で、腸骨へ加わる荷重の作用点が腸骨前端部から上方へ向けて移動する様子が観察され、サブマリン現象の発生までの予兆を検出できるようになった。
前原 一範、伏見 匡洋、有馬 哲寛、伊藤 重雄、三上 秀則
論文詳細