Honda R&D Technical Review Vol.32 No.2

Honda R&D
Technical Review Vol.32 No.2

N for work 積む・運ぶ生活を豊かに広げたN-VANのデザイン
要旨

N-VANはACTY VANの後継車として19年ぶりにフルモデルチェンジされた軽バンである。Hondaは創業以来、お客様の生活を豊かにするための体験価値を追求してきた。Honda Designでは、これをエクスペリエンスデザインと呼び、お客様の体験価値をさらに深く考えてクルマをデザインしている。N-VANの開発においても、このような考えに基づき、お客様の理解を深めるために働く人や荷物を積む・運ぶ人たちの現状をリサーチした。デザイナー自らパッケージモデルを使い、どのような荷物をどう積むか、積みこむときの問題は何か、苦労するポイントはどこか、などを体感・体験する試行錯誤を重ねた。その結果、機能を重視するお客様と、機能に加えスタイルも主張したいお客様の二通りがあると考えた。まず機能を重視するお客様に対し、身体になじんだ使いやすい道具のようになる、「積む運ぶ生活の道具」というコンセプトを掲げた。そして「自在感」「安心感」「しっかり感」「機能美」の四つのキーワードを中心に、ベースとなるGおよびLグレードをデザインした。このGおよびLグレードを基盤として、機能に加えスタイルも主張したいお客様の個々の世界観に応えるために、+STYLEグレードを設定した。この二つのグレードで、毎日の積む・運ぶ生活になくてはならない道具になるような、新しい軽バンの新基準を創出した。

山口 真生、加藤 千明、柳本 佳久、石田 憲行

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2020 CRF1100L Africa Twinの開発
要旨

2016年に復活を遂げたAfrica Twinは、オフロード走行とツーリング走行をどちらも楽しめるアドベンチャーモデルとして高い支持を得ている。本開発では、2016年から4年を経てモデルチェンジを実施し、エンジン、車体骨格、足回り、外装すべての刷新をおこなった。その結果、排気量拡大による出力向上や完成車重量の低減を達成した。これによりオフロード走行をより楽しめるAfrica Twinと、装備の充実を図りより快適なツーリングを可能とするAfrica Twin Adventure Sportsを実現した。

森田 健二、岡田 望、岡村 広志、鈴木 将太

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2020 CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES用電子制御サスペンションシステムの開発
要旨

Africa Twinはオフロード走行とツーリング走行をどちらも楽しめる大型アドベンチャモデルである。2020年モデルとして新たに電子制御サスペンションを採用した、CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ESを開発した。二人乗りや多くの荷物を積載して高速巡航するツアラ用途から過酷なオフロード用途まで、幅広い用途のそれぞれで最適な性能を発揮する四つのサスペンションモード(HARD、MID、SOFT、OFFROAD)を設定した。このサスペンションモードに加え、エンジン出力特性、エンジンブレーキ特性、クラッチ特性(DCTモデルのみ)、ABS特性、の計五つの要素を統合制御したライディングモードを設定した。走行中でもライダがハンドルスイッチ操作一つで選択でき、走行シーンと車両のコンディションに応じて、ライダが意のままに操れる特性を得られるシステムを実現した。

岡村 広志、津田 剛、小河原 充史

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2020 CRF1100L Africa Twin Adventure Sportsに搭載した
二輪車用追加光源式コーナリングライト
要旨

2013年に国際連合規則の改正以降、コーナリングライトは二輪車への装備が認められ、今日までに複数の二輪車に搭載されている。我々はツーリング時の快適性、つまり、中速域を重視し郊外路に適したコーナリングライトを開発し、CRF1100L Africa Twin Adventure Sportsに搭載した。コーナリングライトを設計する上で必要な、バンク角に応じた作動範囲の設定、追加光源による配光の設定、誘目性の抑制、の三つの要素についてCRF1100L Africa Twin Adventure Sportsを用いて検討した。コーナリングライトの作動範囲は、実際の夜間走行時のバンク角発生頻度から設定し、追加光源による配光は、すれ違いビームと同程度の明るさの照射範囲をコーナリング方向に照射するように設定した。また、誘目性については、コーナリングライト点灯時の、徐々に100%点灯させる制御と、ON/OFFにヒステリシスを設定することで抑制した。これらにより、ツーリングに適したコーナリングライトを実現した。

木﨑 徳次郎、佐藤 宏貴

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ニュース記事を話題にできる音声対話システム検証のための実験環境
要旨

Web上に配信されているニュース記事を話題として、情報伝達をしながら、ユーザの発話へ多様に応答できる独自の音声対話システムを開発した。従来の音声対話システムでは一問一答型が主流であり、ニュース記事のようなまとまった情報の伝達には適していない。また、ニュース記事の読み上げシステムの場合は、ユーザが質問をはさむことができない。そこで、会話用要約技術、パラ言語認識器、間の調整、音声合成器といった音声対話システムに関する新たな要素技術を開発し、Web上にリアルタイムに配信されているニュース記事を話題にして日本語で音声対話が可能な実験システムを構築した。これにより、さまざまな利用シーンでシステムの検証を容易におこなうことができるようになった。今後、本システムを実用化することにより、運転中にドライバの話し相手となるような音声対話が可能となる。

本田 裕、高津 弘明、松山 洋一、小林 哲則

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案内ロボット運用システムの開発
要旨

案内ロボットシステムは、ロボットが公共の空間で案内サービスを実行するシステムである。複数種類・複数台のロボットが協調しながら効率的に案内サービスを実行するために、運行管理を担う「案内ロボット運用システム」を開発した。ロボットの移動範囲やインフラ構築の制約にしばられないように、クラウドおよびIoT通信を用いてシステムを構築した。公共の施設で案内サービスを想定した実機確認をおこない、ロボットの運用が適切にできることを確認した。

西宮 憲治、金子 真也

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小型二輪車用デバイスレスタンブル強化技術
要旨

小型二輪車用を対象として、吸気通路の切り替え機構を用いずに低負荷領域のみのタンブルを強化する技術をCFDにより探求した。バタフライ式スロットルバルブの下流では、スロットル低開度領域において吸気流が逆流する現象が発生する。スロットルバルブの下流に吸気ポートを上下に分割する隔壁を設置することで一方の流路に逆流を捕捉できることが確認された。さらに、隔壁の位置を最適化することで、大半の吸気流を一方の流路に集約し、タンブル流の生成に必要な流量が得られることが確認された。実機エンジンの燃焼指圧解析により、低負荷領域における燃焼期間がコンベンショナルポートに比べて短縮し、ねらいどおりのタンブル特性になっていることを確認した。この結果、完成車のWMTCモード燃費で1.7%の向上が得られるとともに、EURO5/インドBS-Ⅵ排気ガス規制値に適合した。量産化にあたっては、ポート中子に隔壁部を形成するスリットを設けることで、隔壁を鋳造一体成形した。これにより、専用部品の付加や、既存設備の変更を加えることなく実用化を可能とした。

藤久保 誠、中村 洋平、井上 陽介、亀田 圭悟、日高 葉月、及川 浩信

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2020年モデルCITY用高効率CVT
要旨

燃費性能と動力性能を高次元で両立させることを目標として、2020年モデルCITY用CVTを開発した。
新機構として、ロッキング位置変更ベルトおよび複合V面形状プーリ、機電直列配置オイルポンプシステムを採用した。これにより、金属ベルト式CVTの主要損失を低減し、動力伝達効率を向上した。新機構を組み合わせるにあたり、CVTとして損失低減効果を発揮できるようにCVT制御の最適化を実施した。
また、燃費性能を最適化する制御による動力性能低下がないように、ドライバの加速意思をCVT制御の切り替えによって実現した。CVTの変速制御目標を駆動力とすることで、駆動力の落ち込みがない設定とした。さらに、ステップシフトを採用することで、車速がエンジン回転数にリニアに追従し、駆動力に伸びを感じられる設定とした。
その結果、New European Driving Cycleモードにおいて、CVTとして従来モデルに対しCO2排出量を5.7 g/km削減した。また、2020年モデルCITYとして、タイの第2期エコカー政策の基準となるCO2排出量100 g/km以下を達成した。

隅田 聡一朗、村上 好文、中曽根 牧人

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2020年モデルFIT用小型パワーコントロールユニット
要旨

Hondaでは2020年モデルFIT用に第3世代小型車向けパワーコントロールユニット開発をおこなった。
小型化に対してはパワーコントロールユニットの主要構成部品であるパワーモジュールに使用されるパワー半導体にRC-IGBTを採用し前後方向長さを12%削減した。第2世代では制御基板であるモータECUと駆動回路基板であるゲートドライバに分割されていた制御基板を統合し、それにより各基板間を接続するハーネスを削減し小型化をおこなった。キャパシタに関してはVoltage control unit制御の電流追従性を向上させることで容量を50%低減した。これら技術を投入したことにより、PCU内部に12 V DC-DCコンバータを内蔵したうえで、容積8.5 Lを達成し、小型車両への搭載可能な最大出力267 kVAのPCUを開発することができた。

西尾 仁志、近藤 康彦、上野 雄一郎、野中 賢一、樫村 之哉、武林 賢一

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フローフォームを用いたリバースリムアルミホイールの1ピース製造手法
要旨

車両の意匠性を向上するため、同一サイズでも視覚的に大径に見えるリバースリム構造のアルミホイールを、軽量かつ低コストで製造する手法を開発した。GDC製法のフローフォーム工程における金型の構造とリム部の加工工程を見直し、加工方法と加工条件を最適化した。その結果、リバースリムホイールを1ピースで製造することができた。リバースリム化することでホイールのディスク面とビードドロップエリアの間に生じる無駄肉を低減することができ、18インチ以上のホイールで5%以上軽量化ができることをCAE解析により確認した。次に、18インチのホイールを試作しCAE通りの軽量化ができることを確認した。さらに、スポーツタイプの車に使用されているホイールの試作もおこない、軽量にデザインされたホイールでも2%以上軽量化できることを確認した。

大橋 正義、澤井 宗美、酒井 智紀、小林 絵里菜、鈴木 秀之、川上 穣

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四輪開発業務における生産性向上のためのエキスパートの知識 経験 思考の構造化と活用
要旨

設計業務における業務効率の向上を目的として、暗黙知として属人化しているエキスパートの知識と思考を構造化することに取り組んだ。
通常は文書化され管理されている手順書やチェックリストなどから、言葉を抽出し、それらを設計情報と作業手順に分類した上で、二つの機械構文を用いて構造化した。さらにエキスパートの暗黙知である知識、思考の両方を発言から直接抽出することで、情報の鮮度と量を短期間で確保するとともに、エキスパートが自身の経験値から実行する思考を構造化しモデルに反映した。そのモデルの業務での有効性検証をおこなうため、対人ではなく機械から示唆を得るシステムを構築し、実際の衝突性能の設計業務に適用した。その結果、従来のように手順書のみを参照したケースに対して、本モデルを用いて業務をおこなったケースでは、効率よく業務を進めることが可能となり、約半分の時間で目標を達成できることが確認できた。

安原 重人、吉本 毅、岡田 英之

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実験と第一原理計算およびマテリアルズインフォマティクスの
統合フローによる自動車排ガス用合金触媒の探索
要旨

自動車排ガス浄化用触媒に用いられる貴金属使用量を低減できる合金触媒の探索を効率的におこなう新たなフローを構築した。このフローの特徴は、従来からおこなわれてきている触媒活性試験や光電子分光法など実験的手法と、計算機を用いた第一原理計算ならびにマテリアルズインフォマティクスそれぞれの特徴を機能的に統合したことである。まず初めに実験と第一原理計算を併用して一酸化窒素の還元反応解析をおこない、触媒性能指標となる電子状態密度を設定した。次にその電子状態密度を目的変数として、マテリアルズインフォマティクスと第一原理計算を用いて二元系合金触媒の性能序列を予測した。そして性能上位と計算された十数種類の二元系合金触媒を実際に合成し性能測定をおこなった。その結果、現在触媒の活性金属として主に用いられているパラジウム触媒より高性能を発揮する合金触媒を創出することができ、統合フローの有用性を確認できた。

廣瀬 哲、三上 仁志、迫田 昌史、竹折 浩樹、岡山 竜也

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マテリアルズインフォマティクスを活用した高効率開発のための材料データベース
要旨

情報科学を応用して特性予測をおこなうことで実験による試行錯誤を削減するなど、高効率な材料研究をおこなえるマテリアルズインフォマティクスの活用を促進するため、材料データと関連情報を統一された形式で格納、管理、出力できる包括的な材料データベースを構築した。
データベースのツール選定と内部構造の構築において、利用者のユーザビリティや専門性などの違いを考慮することにより、約1万件におよぶ各材料分野の試験データと標準物性の格納が完了した。
これによって、マテリアルズインフォマティクスの活用上の課題であるデータクレンジングにかかる工数を低減できることに加えて、設計やCAEなどで必要となるデータの入手が容易となり、業務効率向上と開発費の削減に貢献できることが確認できた。

伊藤 剛、石井 達子、本田 寛、杉本 直、豊岡 洋一、古沢 透流

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高容量リチウムイオン電池への三次元構造電極の適用検討
要旨

リチウムイオン電池の性能向上を目的として、三次元構造体を電極の集電体に適用する検討をおこなった。
単位面積当たりの電極合剤塗布量である目付け量を、正極で150 mg/cm2まで向上することが可能であることを確認した。その電極を適用した場合の体積エネルギー密度を計算した結果、集電箔電極に対し体積エネルギー密度を10%増加できることを明らかにした。
正極の目付け量を90 mg/cm2と固定し、集電箔電極と三次元構造電極を比較した結果、活物質と集電体の接触面積が増加することにより、初期の抵抗値が集電箔電極に対し、17%低減できることを確認した。また、サイクル試験における抵抗増加率が、集電箔電極では149%に対し、三次元構造電極では構造変化が抑制されることにより、29%に抑制されていることを確認した。
三次元構造電極をリチウムイオン電池に適用することで、体積エネルギー密度の向上に加え、課題である抵抗増加と耐久性低下の抑制が両立できることを明らかにした。

田名網 潔、磯谷 祐二、青柳 真太郎、奥野 一樹、竹林 浩、妹尾 菊雄、細江 晃久

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EHEVモータ用マグネットワイヤ絶縁被膜の低誘電率化
要旨

HEVモータ用に耐熱性と絶縁性を両立させた絶縁被膜を開発した。ポリイミド樹脂に対して、独立した気泡を均一に分散させることで、温度指数が250℃という高い耐熱性を持ちながら、比誘電率をポリエチレンなどの低誘電率材料と同等水準の2.4まで下げる技術を確立した。本技術により従来のマグネットワイヤに対して絶縁性を維持しながら被膜厚さを約20%低減することができ、導体断面積が約6%増加した。その結果として新開発モータの損失を従来モータ比で5%低減することができた。

金子 遼太郎、西山 忠夫、梓沢 慶介

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自由記述キーワード抽出法による日本と米国の自動車ユーザ主観価値の分析
要旨

Hondaフィロソフィの一つである「お客様の喜び」について調べるため、自動車の魅力や価値についてのキーワードを収集する調査を日本と米国で実施した。数量化Ⅲ類の手法である離散データの特異値分解を使い、得られたキーワードデータをクラスタとして可視化した。そして、それらクラスタに含まれるキーワード群を分析者が意味的に解釈することで、ユーザが感じている自動車の魅力と価値の概念構造を捉えた。そして、日本および米国の自動車ユーザとも共通して経済性や燃費性能は重要と捉えていること、日本では操縦性や安全性が重視される一方、米国では信頼性、資産価値、積載性、快適性が重視されているという、日本と米国の差異が解釈できるようになった。さらに、調査の際に収集したユーザ属性を分析することで、年齢による価値の差異や、性別による価値の嗜好も視覚化された。また、HondaとAcuraのブランド認識の差が、信頼性、資産価値、プレミアム価値といった価値概念の差にあることも説明できた。

日下 馨、神田 稔也、中島 健彰、粥見 哲也、益田 綾子

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屋外不整地におけるロボットの自律移動を目的とした路面の走行可否判定手法の構築
要旨

本研究では、ロボットが屋外不整地において自律移動を行うために必要な路面のモデル化および同路面の走行可否判定手法を構築した。本手法は、多くの先行研究と同じように、三つのステップから構成される。同ステップは、まず、(1)ロボットの周辺路面をグリッド分割し、(2)各グリッドについて路面モデルを生成したのち、(3)同モデルを評価することによって同路面の走行可否判定を行うというものである。本手法は、モデル化する路面のグリッドサイズを最適化することにより、屋外不整地の路面を平面でモデル化することの妥当性を担保することができる点で新規性を有しており、さらに計測点群の外れ値や最大最小値付近のノイズに堅牢かつ設定パラメータが少ないという特徴を有する。傾斜や凹凸面、障害物を含む屋外不整地環境に本手法を適用した結果、ロボットは路面の走行可否判定を正しく行い、同環境における自律移動をすることができた。

日高 真太朗、根木 教男

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