HONDA The Power of Dreams

F１活動終了を発表したHondaにとって、2021年は悲願のタイトル獲得のラストチャンスのシーズンとなった。開発陣はそれに賭けるべく、短期間で新骨格のパワーユニット（PU）を開発し投入した。それがRA621Hである。

ほぼすべての部品を見直し、新たな設計によって開発されたRA621Hは頂点に立つための最終兵器と言えるPUとして仕上がった。新骨格開発のコンセプトは、最大の武器となった高速燃焼のポテンシャルを最大限に引き出す諸元とすること、そして出来るだけ軽量コンパクトにし、車体貢献の度合いを高めることだった。具体的には吸気側と排気側のカムシャフトの間隔を縮め、バルブの挟み角を小さくした。これによりシリンダーヘッド側の形状がコンパクトになり、高い圧縮比で最適な燃焼室形状を作ることができた。シリンダーブロックは鋳造だったものをアルミ合金の塊から削り出す総削りに変更し、強度アップを図るとともに小型化と軽量化も実現し、車体の設計自由度や運動性能に大きく貢献するものとした。

時間的にギリギリのタイミングで間に合わせたのが、新たなデバイスとなるCACバイパスである。これは熱エネルギーの回生効率を高める働きをする新機構で、これにより回生量にマージンを作ることができるものだった。

最新技術を詰め込んだRA621Hはパフォーマンスに自信はあったものの、あまりに短い開発製造期間ゆえ耐久信頼性には若干の懸念が残ったと、のちにエンジニアは語っている。しかし、小さな初期トラブルはあったものの、致命的なトラブルや欠陥の発覚はまったくなくシーズンを戦い、Hondaの狙い通り、RA621Hはライバルとトップ争いを繰り広げる最強の武器となったのである。

シーズン開幕前にホモロゲーションを取ると、レギュレーションによってその後はパフォーマンス向上を目的とした改良や変更は認められない。したがってRA621Hのバージョンアップは行われていないが、第12戦ベルギーG Pに自社開発の新型E S S（バッテリー）を投入し競争力向上を果たしている。

2021年シーズン、アルファタウリから角田裕毅がF１にフル参戦し、Hondaドライバーとしては佐藤琢磨以来の日本人F１ドライバーが誕生。前年FIA-F2選手権で好成績を挙げた角田は、Hondaとレッドブルの育成ドライバーとしてステップアップを果たし、F1初戦となる開幕戦で入賞を果たす活躍を見せた。

このシーズンは開幕戦から最大のライバルであるメルセデスのルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンは激しい優勝争いを繰り広げた。第2戦エミリオ・ロマーニャG Pでマックス・フェルスタッペンがシーズン初優勝を果たし、第5戦モナコG Pからレッドブル・Hondaが５連勝（うちフェルスタッペンが４勝）を挙げる。シーズン後半に入る頃にはフェルスタッペンがポイントで優位に立っていたが、終盤戦でハミルトンが連勝して巻き返し、最終戦を同点で迎えるという大接戦だった。そして最終戦アブダビG Pでは、最終盤に起きたアクシデントがレースの流れを変え、フェルスタッペンが逆転勝利を飾り、自身初のワールドチャンピオンに輝いた。

最終戦の劇的な幕切れでHondaは悲願のタイトル獲得を果たした。短期間で完成させた新骨格のRA621Hはタイトル獲得の原動力となり、Hondaの挑戦は有終の美を飾り、幕を閉じるはずだった。しかし現実には、HondaはPU供給を継続することになるのであった。