POWERED by HONDA
RA620H

コロナ禍に揺れたシーズン
緊急レギュレーションの下、予想外の苦戦を強いられる
前年レッドブルとのジョイント初年度に3勝を上げたHondaは、悲願のチャンピオン獲得に向けてパワーユニット(PU)のさらなる性能向上に取り組んだ。RA620Hは、前年に実績を上げたRA619Hスペック4の正常進化版で、燃焼室の形状は変更せずにピストンまわりを改良し圧縮比を高めた仕様とした。熟成を続ける高速燃焼の技術には、まだ発展余地があると判断したのである。
タイトル獲得が現実的な目標として見えてきた2020年だったが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大によってF1は開幕戦から大混乱の様相を呈することとなった。開幕戦オーストリアGPには全チームが集結し準備を進めたが、グランプリウィークになってチーム関係者の感染が確認され、レースは急遽キャンセルに。その後も全世界的に感染が広がり、F1開幕はまったく見通せない状況となった。F1界が一丸となってシーズン成立に尽力し、5月になって新たなスケジュールが発表。シーズン開幕は7月となり、開催サーキットも大幅に変更され全17戦での戦いとなった。
FIAはコロナ禍に対応した緊急対策レギュレーションを設定。開発費高騰を避け、公平性を保つためにシーズン中の開発凍結を決め、ファクトリーの閉鎖を含めベンチの作動時間などを制限するなどの方針を打ち出し開幕に控えた。
Hondaはさまざまな制約のなかでも、それら規則を守りながらできるだけの開発作業を続けた。その成果として代表的ものは「熊製めっき」と呼ばれシリンダー表面の加工技術である。高速燃焼によって燃焼圧が一段と強くなり、部品の劣化が激しく初期性能を維持するのが難しくなっていた。その解決策として、Honda熊本製作所と連携しピストンリングの攻撃に強いシリンダーめっきを開発。これにより耐久信頼性は大幅に向上し、より高い出力にも耐え得るようになったのである。
緊急レギュレーションによりシーズン中のアップデートが禁止され、RA620Hはバージョンアップを施されることなくグランプリを戦った。ライバルであるメルセデスが予想以上に戦闘力を増していたことにより、レッドブル・Hondaは苦戦が続く。第5戦イギリス・シルバーストンでの70周年記念GPでマックス・フェルスタッペンがシーズン初優勝を果たし、その後も上位に食い込むが勝利には至らないレースが繰り返された。Hondaにとって予想外に嬉しいレースとなったのは第8戦イタリアGP。アルファタウリ(前トロロッソ)のピエール・ガスリーが波乱のレースを制して自身初優勝を飾り、それは2018年にトロロッソとHondaがパートナーとなって50戦目の記念すべきレースでの勝利であった。
2020年10月2日、Hondaは2021年シーズンをもってF1活動を終了すると発表した。カーボンニュートラル時代に対応するため、エンジニアや開発費などのリソースをそれに集中するというのがその理由である。発表のおよそ1カ月前に活動終了を告げられた開発メンバーは、ラストイヤーとなる2021年シーズンにタイトル奪取をかけて、新たなPUの開発に取り掛かっていた。
変則スケジュールとなったが、2020年シーズンは全17戦を行い、F1はシリーズ継続を成し遂げた。フェルスタッペンは最終戦アブダビGPでポールポジションから優勝し、シリーズ2勝目を挙げた。フェルスタッペンはドライバーズ・ランキング3位、レッドブル・Hondaはコンストラクターズ・ランキング2位でシーズンを終えている。
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