POWERED by HONDA
RA618H

トロロッソと再出発を果たしたシーズン
高速燃焼の開発でパフォーマンス急上昇
2018年からHondaはレッドブル・グループ傘下のスクーデリア・トロロッソにパワーユニット(PU)供給を開始した。RA618Hは新たなパートナーとの良好な関係を築くために、重要な意味を持つPUだった。パワーユニット年間使用基数規定がそれまでの4基からこの年3基に変更されたこともあり、HondaはRA618H開発に際し信頼性向上を最優先課題とした。特に前年トラブルが多発したMGU-Hの改良に注力。2017年9月に開発総責任者に就任した浅木泰昭はHonda Jetの知見を取り入れるために社内調整を行い問題解決の突破口を開いた。高度なタービン技術を持つ技術スタッフを招集し、超高回転で作動するシャフト、軸受、ベアリングなど主要部品の改善に取り組み、信頼性向上に大きな成果を得ることに成功している。
RA618Hは、前年に投入した新設計RA617Hの正常進化版である。とはいえ、基本コンセプトと骨格を踏襲したという点で進化版といえるが、多くのパーツの見直しなど変更点は数多く、信頼性対策も含めて進化の度合いは大きなものだった。
最も大きな改良は、吸排気バルブの鋏角を小さくしたことである。これは燃焼室をコンパクト化し、圧縮比を上げるための変更だった。当然、燃焼室の形状やカムシャフト始めシリンダーヘッドまわりも大きく変更、燃焼に関する主要部分は新設計に近いものとなっている。
トロロッソでのパフォーマンスを見てHondaとのパートナーシップを検討していたレッドブルがその可否を決めるとあって、再びトップチームとのジョイントを望むHondaとしては、信頼性の確保を確認すると、パフォーマンス向上に注力した。開発のメインテーマは燃焼効率の向上だった。RA618Hは、RA617Hで採用したプレチャンバー・イグニッション(副室燃焼)を踏襲していたが、第7戦カナダGPにさらに燃焼および排気系の改良などを施し出力向上を目指した「スペック2」を投入。さらにHondaはシーズン中に新たな燃焼技術を開発し、第16戦ロシアGPに「スペック3」として投入した。自着火燃焼の研究のなかで生まれた高速燃焼による大幅な出力アップを実現したこの仕様は、のちの燃焼技術の核となるもので、Hondaにとって技術のターニングポイントと言えるものだった。
トロロッソとのジョイントは、Hondaにとってとても順調なものとなった。PUの信頼性が確保されたことで、トラブルが大幅に減ったことがその要因のひとつではあるが、オープンでフレンドリーなチームのムードと、お互いをリスペクトする信頼感があった。第2戦バーレーンGPでピエール・ガスリーが4位入賞を果たす大健闘を見せ、チームの一体感はさらに高まった。その後、トロロッソ・Hondaは一進一退のシーズンとなり、最高位4位を更新することはできず、コンストラクターズ・ランキングは9位に終わった。
一方、第8戦フランスGPで、2019年からレッドブルがHonda製PUを搭載することが正式発表された。シーズン序盤から本格的な交渉が始まり、Hondaの姿勢と将来性を評価したレッドブルの決断だった。「おそらく、シーズン前半は(HondaのPUは)まだライバルと比べて対等ではないだろう。しかしその差を、Hondaは着実に縮めていくことができるはずだ」と、マックス・フェルスタッペンはHondaへの期待を表している。
2018年は、Hondaの開発技術的に、そしてF1におけるHondaのポジションにも大きな転機となったシーズンだった。
Red Bull Toro Rosso-Honda STR13
