POWERED by HONDA

RA617H

2017McLaren Honda MCL-32

トップレベルの性能を目指しレイアウト変更
初期トラブル多発も、将来に可能性をもたらす

第4期参戦3年目を迎えたHondaは、これまでの改良版ではなく新しい設計開発を施したパワーユニット(PU)RA617Hを投入した。代表的な改良点は「スプリットターボ」と呼ばれるレイアウトで、分割したターボチャージャーのコンプレッサーをICE(内燃機関)の前方に、タービンを後方に配したレイアウトで、これらを繋ぐシャフトを低い位置に設置することによってコンプレッサーの背後にあるMGU-Hも搭載位置を低くすることができる。従来のVバンク内に収めるレイアウトから外に出したことにより、サイズの制約から解放されコンプレッサーの大型化が可能となり、回生量を大幅に増やすことができた。また、搭載位置を低くしたことで上部にスペースができ、吸気系のレイアウトに自由度が生まれたことも重要なポイントとなった。しかし、この変更はコンプレッサーとタービンの距離が離れることとなり、それらを超高回転で繋ぐシャフトが長くなるため、非常に高い耐久信頼性が必要となった。

燃焼に関しても大きな改良が加えられた。プレチャンバー(副室)を設置し、そこで点火した火炎が主燃焼室のリーン(希薄)な混合気を短時間かつ確実に燃焼させるシステムで、これにより燃焼効率は大きく向上した。

MGU-Kを駆動するギヤトレーンをリヤからフロントに変更したのも大きな改良点だった。ICEの補機やカムシャフトを駆動するフロント側ギヤトレーンをHGU-Kの駆動にも併用することで全体の効率化を図ることが狙いで、すでにライバルが採る手法にHondaも追従したかたちである。

これら大きな変更と改良によって、完全ブランニューのRA617Hは実戦投入された。Hondaはもちろん、マクラーレンもこの新PUには大いに期待をかけたが、開幕前のテストからトラブルが多発し、十分な周回数を稼ぐことはできなかった。そしてシーズン開幕以降もトラブルは続いた。

大きく前方に張り出したコンプレッサーによりスペースが犠牲になったオイルタンクの形状変更による潤滑問題、コンプレッサーとタービンを繋ぐシャフトの耐久性不足、レイアウト変更したMGU-Kでは共振によるトラブルなど、複合的なもの合わせ序盤戦からシーズン前半を通して、初年度に逆戻りしたかのごとくトラブルシュートに追われた。

その一方で、性能アップの改良もシーズンを通して行われ、第5戦スペインGPには吸気系やインジェクションなど燃焼効率向上を図った「スペック2」を投入。第8戦アゼルバイジャンGPでは、吸気ポートやビストン、カムシャフトなど主要パーツを改良した「スペック3」を投入し、以降も「スペック3.8」と呼ばれる仕様まで細かいバージョンアップを施している。これらの効果とトラブルシュートの進捗によって、シーズン後半から終盤にかけてRA617Hは進化を続け、それはレース成績としても現れることとなった。

しかし、懸命に努力を続けるエンジニアサイドとは別の次元で、期待を裏切られたかたちとなったマクラーレン首脳陣はシーズン序盤からHondaとのジョイントに限界を感じ、契約期間内ではあったが提携解消を模索していた。そして第14戦シンガポールGPの初日にHondaとの契約解消を正式に発表。同時に、Hondaは翌年からトロロッソ(のちにアルファタウリ→レーシングブルズと名称を変更)へのPU供給開始を明らかにし、F1活動の継続を決めている。

新機軸で開発されたRA617Hは、トラブルが重なりその真価を発揮することなくシーズンを終えた。が、F1活動継続を決めたHondaにとって、RA617Hに投入した技術とノウハウが、その後の土台となったことに間違いはない。

McLaren Honda MCL-32