POWERED by HONDA
RA616H

トラブルは減り、デプロイも改善
しかし競争力不足は否めず、根本的な変化の必要を認識
復帰初年度にF1の厳しい洗礼を受けたHondaは、2年目の2016年に向けて、できる限りのトラブルシュートを行い、RA616Hを実戦に送り出した。まず大きな課題は信頼性の向上と、新規定の肝とも言える電気エネルギーの回生量と制御の熟成だった。
1シーズンの実戦を経て、スペース効率を優先させた設計では十分なパワーが出せないと判断したHondaは、ターボチャージャーのタービンを大型化し、可変吸気システムを内蔵するサージタンクの位置を30㎜高くするなど、マクラーレンの理解を得て改良している。しかし、MGU-HをVバンク内に収めるレイアウトは踏襲し、「サイズ・ゼロ」への貢献という方向性に変わりはなかった。
ICE(内燃機関)の燃焼に関する改良点として、気筒内に燃料を噴射するインジェクターを吸気側からのサイドインジェクターからトップインジェクターに変更。これにより、より適切な燃料と空気の混合を実現し出力向上が図られている。
エンジニア陣の懸命の努力によって、RA616Hの信頼性は格段に向上した。参戦初年度の経験とデータ解析によってトラブルシュートに全力を尽くし、開幕前のウインターテストでは順調に周回を重ね、課題だった電気エネルギーの回生量不足についても改善が顕著で、チームやドライバーから高評価のコメントが相次いだ。
信頼性に一定の成果を確認できたRA616Hの次の課題はパフォーマンス向上だった。シーズン開幕からトラブルなく走り切れたものの、その結果見えてきたのはトップレベルとの大きな差だった。そこでシーズン中にも改良は進められ、バージョンアップを行った。第7戦カナダGPでターボチャージャーに改良を施した仕様を、そして第10戦イギリスGPには吸気系の改良や燃焼効率の向上を図った「スペック2」を投入。続く第13戦ベルギーGPには、吸気系やターボチャージャーのさらなる改良とともに燃焼室形状を変更した「スペック3」を投入した。このスペック3で確実にパフォーマンス向上を実現し、開発進化の成果を実感できるものだった。
マクラーレンの車体MP4-31も進化と熟成を遂げて、マクラーレン・Hondaのポジションは時に中団勢のトップ争いを演じるまでに上がったが、それでも優勝争いをするトップチームとはまだ大きな差があることを見せつけられたシーズンでもあった。
シーズンを振り返ると、RA616Hの信頼性向上により完走率は大幅に改善した。全21戦中、フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンの両ドライバーがリタイアしたのは10回にとどまり、そのうち明らかにパワーユニット(PU)のトラブルが原因となったのは3回だけだった。最高位はアロンソが5位を2度、バトンが6位で、目標の表彰台には届かなかったが、コンストラクターズ・ランキングは6位に上昇したシーズンとなった。
Hondaの開発責任者である角田哲史は2016年を「熟成の年」と振り返っている。RA616Hは、参戦初年度に投入したRA615Hのトラブルシュートと改善に終始したPUであるとともに、優勝争いに加わるには根本的な変化が必要であることを示したPUでもあった。
McLaren Honda MP4-31
