POWERED by HONDA

RA615H

2015McLaren Honda MP4-30

車体貢献を狙い新規定のパワーユニットを設計
新機構のハードルは高く、耐久信頼性に苦しむ

2013年5月、Hondaはマクラーレンとパートナーシップを結び、パワーユニットを供給しF1に復帰することを発表した。1980年代にアイルトン・セナとともにF1を席巻した伝説的なマクラーレン・Hondaの復活は、世界中の注目を集めた。

F1は2014年から新たなレギュレーションが実施され、エンジンと呼ばれていた動力源は、内燃機関(ICE)とモーターによるエネルギー回生システム(ERS)を組み合わせて動力源とするパワーユニット(PU)とその名称を変えた。従来から使われていた回生エネルギーによって発電するMGU-Kと、ターボチャージャーのタービン回転によって発電するMGU-Hを採用し、それによって作られた電気エネルギーによってモーターを動かし、駆動力をアシストするシステムである。内燃機関は1.6ℓのV型6気筒、ガソリン使用量は最大燃料流量を100kg/hと規定され、電動エネルギーの活用拡大と合わせ、世界的な環境への配慮に向けた方向性を新レギュレーションはアピールしていた。

Hondaは2015年からの実戦参加を決め、新たなPUの開発に全力を尽くしたが、2008年いっぱいで第3期F1活動を終え、F1に関してはおよそ5年のブランクがあった。そして、新たなシステムに必要な複雑で技術的にもハードルの高い機構を完全に作り上げるには、あまりに時間が不足していた。Hondaは本田技術研究所に属するモータースポーツ開発部署をHRD Sakuraという新たな事業所として体制を整え、2013年から開発は始められたものの、まずは新たなシステムに対応する知見の習得や、設備とサプライヤーなどの準備から始めなければならず、実質的な開発期間は1年にも満たなかなかった。

RA615Hは短期間での開発という困難とともに、マクラーレンとの協議によってPUが車体性能に貢献すべく最小限の大きさにするという難題も抱えていた。のちに「サイズ・ゼロ」と呼ばれるマシン作りのコンセプトは理論的には正しいものであったが、PUの高いパフォーマンスと信頼性との両立は、予想以上にハードルが高いものだった。

パッケージのコンパクト化を目指したRA615Hは、MGU-Hを挟み込むかたちでコンプレッサーを前端、タービンを後端に配し、ターボ/MGU-Hユニット全体をVバンクのセンター部に納めてICEの前後長と合わせるレイアウトを採用した。スペース効率を考慮したこのレイアウトは、ターボ/MGU-HがICEの上に乗るかたちを採っていたため吸気およびオイル経路が複雑になり、かつタービン、コンプレッサーの大きさにも制限があったため、パフォーマンスアップ向上の余地が少なかった。また、個々のパーツ交換が非常に難しい設置状態となり、整備性の悪さゆえに個々のパーツ交換ではなくユニットごと交換せざるを得ない状況も致命的となった。また、複雑なシステムをコントロールする制御系も、熟成に至る時間が足らず、正常な作動の妨げとなることも多かった。

2015年シーズンを通してRA615Hはさまざまなトラブルに見舞われ、十分なパフォーマンスを発揮するには至らなかった。各部の耐久信頼性不足とともに、悩みの種は新機構であるMGU-Hの回生量不足とトラブルだった。Hondaの技術者も毎戦必死に対応したが、早い段階からこの新機構の研究開発を進めていたライバルとの差は、そう簡単に埋まるものではなかったのである。

このRA615Hを搭載したマクラーレンMP4-30は、「サイズ・ゼロ」コンセプトによって、空力性能を最大限に追求した車体で、エンジン周りのリヤセクションはかなり絞られたフォルムで登場した。空力面では、シーズン中も試行錯誤が繰り返され、ノーズ形状やウイングなど多くのアップデートが行われた。車体もまた、熟成過程と言えるシーズンだった。

2015年シーズン、マクラーレンMP4-30/Honda RA615Hの成績は、第10戦ハンガリーGPのフェルナンド・アロンソによる5位が最高位で、アロンソは2回の入賞。ジェンソン・バトンが4回の入賞を果たしている。入賞は6回となり27ポイントを獲得し、コンストラクターズ・ランキングは9位に終わった。

マクラーレン・Hondaにとって復活のシーズンは、苦難のスタートとなってしまった。

McLaren Honda MP4-30