POWERED by HONDA
RA808E

共通ECU搭載下でのドライバビリティを追求
8年間でリッター当たり出力を23%向上
2008年、F1エンジン規定はスタンダードECU(エンジンコントロールユニット)の導入に踏み切った。前年までエンジンメーカーは独自のECUによってエンジンの電子制御を行っていたが、2008年からはすべてのチームが国際自動車連盟(FIA)から供給されるMES(マクラーレンエレクトリックシステム)製のスタンダードECUに統一された。さらにこの導入とともに、トラクションコントロール(TC)の禁止もレギュレーションに追記されている。これまではコーナーの立ち上がりでドライバーがアクセルを開けていく過程で、リヤタイヤが空転しそうになるとTCによってエンジンのイグニッション(点火)をカットするなどの方法でリヤタイヤのトルクを落とし、チームごとに独自の制御で対応していた。
HondaのTCシステムはエンジン回転が低い状態では4気筒しか使わず、アクセルを踏み込んでいくにしたがって、5気筒、6気筒、7気筒、8気筒と段階的に点火するようになっていたが、MES製のECUではその制御が不可能で、4気筒から8気筒にいきなり移行してしまっていた。そのため、急激なトルク立ち上がりによってコーナー出口での挙動がオーバーステアになってしまう。そこでHondaはアクセルを全開にする前のパーシャル時のエンジンのドライバビリティを改善して対応した。ドライバビリティを改善するために行われたのは、エンジンのトルクを制御するマッピングをより精巧に作ることだった。マッピングとは、エンジンの出力に併せてトルクカーブをどのように描くかを決めるもので、ドライバーやサーキットによって細かくチューニングされている。このマッピングをスロットルの踏み込み量とエンジンの回転領域、そしてトルクの発生量を三次元的にサーキットごとに最適化することでドライバビリティを向上させた。
2007年からエンジン本体の開発は凍結されたが、2008年からその凍結される分野がさらに広がった。これまで開発可能だった吸排気系が、吸気に関しては「エアフィルターより下」、すなわちインジェクターやエアファンネル周辺については開発が禁止された。これにより、吸気系ではインダクションボックス、排気系ではエキゾーストパイプ、そして燃料・潤滑油のみが開発のターゲットとなった。燃料については2008年からバイオ燃料を5.75%含めた燃料の使用が義務づけられた。バイオ燃料はガソリンに比べて熱量が小さいので、そのままでは出力が落ちる。そこでHondaは混合する成分を見直すことで出力低下の要因を排除することに成功した。その他、基本ディメンションはRA807Eのスペックを踏襲する。最高出力は735馬力以上。2000年の復帰以来、耐久距離を3倍以上に伸ばしながら、1ℓあたり出力は23%の向上を果たしていた。
2008年シーズンは、こうしたエンジン側の努力が結果につながらないレースが続いた。それは、課題となっていた車体のエアロダイナミクスを改善するために、2007年半ばに空力部隊を再編したことで、マシン全体の開発が遅れたことが大きな要因となっている。
この状況に対しこの年からチーム代表に就任したロス・ブラウン代表は、思い切った方向性を示した。それは、これ以上開発しても成果の期待できないRA108の開発を段階的に停止し、大きくレギュレーションが変わる2009年マシンの開発に注力するという決断だった。RA108を開発してきたスタッフにとっては断腸の思いだったが、チャンピオンになるという目標を達成するために、Hondaは開幕して間もなく、2009年に向けて開発をシフトした。
しかしこの年の秋にリーマンショックが世界中を駆け巡り、Hondaを取り巻く経営環境にも激震が走った。2009年に向けて準備を進めていたHonda F1だったが、2008年12月5日にこの年限りでのF1撤退を発表、その思いを果たすことなく幕を閉じることとなった。
SUPER AGURI Honda SA08

HondaRA108
