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RA806E

V10時代の知見を活かしコンパクト化
吸気系開発に注力し中低速トルクを確保
2006年より、F1エンジン規定はそれまでの3ℓV型10気筒から2.4ℓV型8気筒にダウンサイジングされた。加熱するパワー開発競争を規制する動きはこれまでもあったが、思い切ったスピード抑制とコスト削減に舵を切った変更だった。これにより、1000馬力に届こうかという出力は750馬力程度まで落とされることとなった。2006年エンジン規定では排気量と気筒数が変わっただけでなく、最低重量は95kg、Vバンクは90度に限定、重心高165㎜以上、ボア径98㎜以下、クランクシャフト58㎜以上、可変吸気システムの禁止、特殊鋼材の使用禁止など仕様の統一化が図られた。メタル・マトリクス・コンポジット材(MMC材)や金属間化合物、マグネシウム合金の使用禁止は重量増に直結したが、Hondaは予測コンピュータ解析で最適化されたチタン材への置き換えで、最低重量に近い95.2kgを達成。また重心高もこれまでの低重心化技術で規定ギリギリの165.5㎜が実現できた。そのため、これらの余裕部分を、車体剛性を向上させるためにアッパーマウント締結部分の剛性を高めるなど有効に使いながら、規定をクリアする設計を施すことができた。これらの技術により、車両トータルの横曲げ剛性は50%もアップした。
難題となったのは可変吸気システム禁止規定だった。これまでHondaは、エンジン回転数によって吸気管が30㎜ほど上下運動を繰り返す「連続可変」を行っていたが、それが使えなくなったことでトルクコントロールが難しくなり、対策が必要となった。可変吸気システムとは、具体的にはインテークマニホールド(吸気トランペット)の長さを変えることで各気筒が空気を吸い込む際に生じるインダクションボックス内の空気の“脈動”を上手く活かし、吸気弁が開いたとき空気を押し込む“共鳴効果”を利用して出力とトルクをコントロールする。それが禁止されたため、エンジン特性のトルクバンドを広くする技術が要求とされた。インダクションボックス内にスプリッター(仕切り板)を設け、中央4気筒と外側4気筒での空気干渉を変えることによってフラットなトルク特性を実現。排気系ではエキゾーストパイプの仕様をさまざまに試し、中低速トルクを太らせた。それにともない、トルクの少ない低回転域では損失の少ないギヤレシオにすることで対応した。またシーズン後半にはバルブ挟角を拡大することでより有効開口面積を広げ、吸気ポート形状もシミュレーション技術により動的効果を最大限発揮できる形状を開発し、出力向上を果たしている。
6月にはチームの組織改革を行った。2002年にレース&テストチームマネージャーとしてF1活動に加わり、その後4年間以上もチームと仕事をした中本修平をシニアテクニカルディレクターに任命した。その直後の8月6日のハンガリーGPで、バトンが念願の初優勝を果たした。これはバトンにとってF1初優勝となっただけでなく、Hondaエンジンにとって1992年オーストラリアGP以来の優勝であり、Hondaがワークスチームとして1967年第9戦イタリアGPでジョン・サーティースが獲得して以来、39年ぶりに成し遂げた勝利だった。
HondaRA106

SUPER AGURI Honda SA05/06
