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RA165E

1985Williams Honda FW10

F1常勝エンジンに飛躍する試金石となる

Honda RA165Eは、Honda第2期F1活動において初優勝を遂げたRA164EまでのF1用1.5ℓV6ターボエンジンから、また一歩脱皮を遂げF1グランプリ世界選手権を席巻する常勝エンジンとなった記念碑的な位置付けのイヤーモデルである。

1983年からスタートした第2期F1活動において、当初はF2エンジンをベースにしたRA163EとRA164Eで2シーズンを戦ってきたが、この2年間の経験をふまえHonda独自の技術を駆使して85年シーズンに向け新設計したのがRA165Eであり、「Eスペック」というニックネームで呼ばれることも多かった。

F1のターボエンジン時代は88年まで続いたが、この85年から88年までの4シーズン64レースで、Hondaは36回の優勝を獲得。勝率56%という圧倒的な勝利の記録したHondaの第2期における栄光の時代は、このRA165Eから始まった。

量産エンジン研究開発のノウハウが活かされた

RA165EがRA164Eから大きく変わった点はボア×ストロークの基本寸法である。バンク角80度V6の型式だけは踏襲しているが、それまでのストローク比0.43のショートストロークから、ストローク比0.57のロングストロークへと、大胆に変更した。このボア×ストローク82×47.3㎜のロングストロークは、燃焼効率と燃費性能を向上させてきた量産エンジン研究開発の結果から算出された寸法であった。もちろん、吸気温度コントロール、ツインインジェクターなど量産エンジン開発で培った電子制御技術もRA165Eには大いに盛り込まれている。ひたすら高出力を狙う孤高の存在であったレーシングエンジンの特殊な技術と、燃費向上とエミッション低減を絶対的な開発目的としてきた量産エンジンの最新技術が、有機的に融合したのである。この時からHondaの第2期F1活動は、勝利を目指すとともに、大衆車の量産メーカーとして蓄積してきた独自技術を基調とした開発に挑戦していく方針をも併せ持つことになった。

RA165Eはまた、2シーズンにわたって苦しんできた冷却性能不足を、根底的に解決する構造のエンジンであった。V6のシリンダーを独立冷却方式にし、鉄より冷却性が高いアルミのスリーブを採用した。排気バルブまわりへも冷却水が流れる工夫をも凝らした。

特筆すべきはRA165Eが、こうした各機構をセンシングする計測システムを初めて搭載した知能化されつつあるレーシングエンジンであったことだ。エンジン各部にセンサーを配置して計測したアナログデータを、デジタルデータに変換して車載データレコーダーに収録していた。この計測システムはHondaが50年代から創立者の本田宗一郎の発案で研究開発を続けてきた独自の開発手法技術である。この計測システムが翌年からテレメータ・システムへと進化発展し、伝家の宝刀というべきHondaの強力な武器になり、F1グランプリ全体の革新的技術進化にも寄与することとなった。

シーズン後半にいよいよ実力発揮

RA165Eの開発計画は、Hondaのエンジン技術者のなかで激しく深い技術論争があったために、設計開始が大幅に遅れ84年12月末になり、85年1月に試作機のテストがあわただしくおこなわれ、実戦投入は6月の第5戦カナダGPになった。

このデビューレースで4位に入賞し、翌第6戦デトロイトGPで早々に優勝するが、以後は短期間での開発が原因といえる初期トラブルに悩まされた。それらの対策が施され基本性能が発揮できるようになると、シーズン終了前の第14戦から第16戦の3レースを3連続優勝で飾り、その高い戦闘力を証明。翌年のチャンピオンシップに大きな希望をもたらすこととなった。

Williams Honda FW10