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RA273E

3ℓF1黎明期にファンを魅了したハイパワーエンジン
RA273Eは、1966年からスタートした3ℓエンジン規定によって開発され、Honda F1チームが1967年までの2シーズンに実戦投入されたエンジンである。
この年から1986年まで21年間続いたF1エンジン規定は、3ℓ自然吸気=NA(Natural Aspiration)エンジンとともに1.5ℓ過給器付きエンジンの参戦も容認をしていたが、F1初のターボエンジンが登場する1977年までの11年間はもっぱらNAの時代として展開された。F1はV型8気筒、V型12気筒、H型16気筒、水平対向12気筒といったマルチシリンダー・エンジンの時代になっていった。
Hondaは1.5ℓ時代からのV12DOHC4バルブという基本構成を継続的に選択し、3ℓのRA273Eを設計製作した。公表したスペックは、ボア×ストローク78.0×52.2㎜の2992cc、最大出力400馬力以上/10,500rpm、エンジン単体重量230kgである。
バンク角90度は異例の広さだが、これはエンジンと車体とのベストマッチングや排気系のレイアウトの自由度が広がるといった狙いから決められた角度であった。RA273Eはそれまでの横置きではなく、オーソドックスな縦置きになった。2倍の排気量になった3ℓV12を横置きすることは現実的ではなかった。400馬力以上を発生するRA273Eは、ライバルエンジンを圧倒する高回転高出力で、当代ナンバーワンのエンジンパワーを誇った。
しかしローラーベアリング軸受の組み立て式クランクにみられるような過度な耐久信頼性をもとめたメカニズムを採用しているために大きく重いエンジンであった。このRA273Eを搭載する66年型RA273の車体も、強度や剛性そして信頼耐久性をもとめるあまり、大型化して重い車体になっていた。
したがって、パワフルなエンジンを搭載していたもののパワーウエイトレシオはライバルたちと同レベルになってしまう。レースにおいて上位入賞はできたが、大きく重いという大きな課題があり、それをエンジンパワーで克服し切れず、優勝にはなかなか手が届かないレースが続いた。
だが、そのように合理性一辺倒ではないRA273とRA273Eは、それが強烈な個性であり最大の魅力でもあった。猛烈なパワーを発揮するエンジンで、大きく重い車体を、超高速で走らせるHonda F1の姿が、世界中のファンを魅了したことも事実である。
熟成2年目にして両選手権4位に飛躍
1966年にデビューしたRA273Eは、さまざまな改良が施され翌年も戦い続けた。1967年バージョンのRA273Eは、シリンダーブロックの材料をアルミからマグネシウム合金に変更し、ギヤボックスを設計変更して小型軽量化するなど、エンジン重量を17%減量して190kgに落とす大改造をおこなった。また、新型のフューエルインジェクションを開発するために、7月の1レースを欠場する決断をして、8月にはエキゾーストマニホールドの大幅な形状変更を行った。公表する最高出力は20馬力アップして420馬力以上/11500rpm。外観も大きく変わり、Vバンク中央から盛り上がるシルエットになったエキゾーストマニホールドは、まるでツノのように凛々しく、燃料噴射装置の引き締まったラムパイプ形状などとともに、その単体フォルムは精悍さを増した。
そして9月の第9戦イタリアGPにおいて、小型軽量のニューマシンRA300に搭載されたRA273Eは、ついに待望の優勝を成し遂げた。ジョン・サーティースのドライブによって獲得したこの勝利は、Hondaにとって2度目のF1グランプリ優勝となった。1勝を上げたサーティースはこのシーズンでランキング4位となり、Hondaはコンストラクターズ・ランキングにおいてスクーデリア・フェラーリと並んで4位となっている。
Honda RA273

Honda RA300
