CT Stories


ハンターカブからCT
ふたたびハンターカブへ
手軽に野山を走ることが出来るCT90 トレール90は、レジャー用だけではなく、牧場や農家などの業務用としても主にアメリカで安定した人気を得ました。
日本でも1961年、輸出仕様のCA105H トレール55をベースにしたハンターカブ55を発売しましたが、短期間のみの販売でした。1963年の全日本自動車ショーにも輸出モデルとしてC100Hを展示しましたが、国内販売には至らなかったようです。
当時は経済成長期でもあり、スーパーカブはあくまでビジネスバイクとしての印象が強く、またスーパーカブの需要も急激に伸び続け、1965年には早くも生産累計が470万台を突破しました。さらに新型OHCエンジンへのフルモデルチェンジを控えた時期でもあり、派生モデルを増やすことを控えたのかもしれません。
おそらくそのような事情もあってか、ハンターカブ55以降、スーパーカブをベースにしたトレールモデルは日本ではながらく登場しませんでした。
日本のGNP(国民総生産)が世界第2位に躍進した1968年、高度経済成長とともにレジャーブームが訪れます。
そのトレンドを追い風にようやく日本でもCT50を発売します。1961年以来7年ぶりのCTシリーズの国内発売で、輸出向けCT90 トレール90(K0)後期型の50ccバージョンといえる内容でした。レジャー用だけではなく、山間地や不整地での配達や巡回なども想定し、アップマフラー、バー付アップハンドル、フレームカバーなどの装備に、国内向け二輪車としては初めて副変速機を採用。スーパーカブと同じ自動遠心クラッチの3段に、さらにローとハイの2段を組み合わせ、通常の走行はハイレンジ、不整地や坂道ではローレンジと使い分けることができるようになりました。
幅広い用途に対応するオプションパーツも用意しました。初代ハンターカブのイメージが強かったこともあり、このモデルを「ハンターカブ」と呼ぶこともありますが、正式な名称は「ホンダCT50」で「ハンターカブ」の名称は付きません。
1968年8月20日CT50
レジャーだけではなく、山間部の業務用も想定したバイク。右はオプション装着例。日本の国内に向けて3年ほど販売したが、レジャーも重厚長大がもてはやされた経済成長期という時代背景もあってか、日本で広く定着するには至らなかった

CT50はレジャー、通勤通学、荷物の運搬、雪道など多様なニーズに対応できるよう、用途に適した各種キャリア、バッグ、ウインドシールド、ノビータイヤ、スノータイヤなどのオプションパーツを豊富に設定した
時は下り1981年、3月にCT250シルクロード、4月にTL125イーハトーブ、10月にCT110を続けて発売しました。この3機種は野山をトレッキングするように自然の雰囲気を楽しみながらゆったりと走行する「トレッキングバイク」というワードをホンダが初めて使用し世に紹介しました。
しかし、空前のバイクブームにより、高性能化へと目が向く中、「トレッキングバイク」という新しいジャンルは時期尚早であったようで、注目を集めるまでに至らず、国内ではこれも短期間の販売でした。CT110も「ハンターカブ」と呼ばれることが多いのですが、CT50と同様正式な名称ではありません。しかしCTシリーズ=ハンターカブという印象は、新しいモデルが発売されるたびに強くなる印象さえありました。
なお、国内は1981年モデルのみですが、アメリカではCT90 トレール90の後継モデルとしてCT110 トレール110を、1980年から1986年モデルまで販売しました。
1981年10月2日CT110
日本向けのCT110は、副変速機の付かない自動遠心クラッチの4段ミッション。バイクブームの中、高性能化に注目が集まったこともあり、販売したのは2年ほど。「ハンターカブ」の思想を受け継いだ「トレッキングバイク」というコンセプトだったが、生まれた時代が早すぎたのかもしれない
1980年CT110 TRAIL110
北米向けのCT110トレール110は1980年から販売を開始。105cc、7馬力のOHCシングルエンジンと自動遠心4速ミッションを採用。車体色はタイタンレッド。HONDAのロゴはレッド。TRAIL110ロゴは左側のサイドカバーのみに入っている

1981年CT110 TRAIL110
1981年モデルから副変速機を追加で装備。HONDAのロゴはホワイトの縁取りがないタイプ、サイドカバーはブラックになりTRAIL110ロゴは左右両側のサイドカバーに入っていた

1982年CT110 TRAIL110
点火方式がポイント方式からC.D.I方式に。車体色はタイタンレッドからモンツァレッドに変更された

1983年CT110 TRAIL110
HONDAロゴはブラック。サイドカバーはシルバーになった

1984年CT110 TRAIL110
HONDAロゴはレッドにホワイトの太いアウトライン、サイドカバーはホワイトの縁取りがあるブラック。以降最終モデルの1986年まで同じグラフィックで販売された

1990年代の豪州向けカタログ。北米向け以外の輸出モデルは、日本と同じCT110の名称で発売。北米向けは1986年モデルまでだが、豪州などに向けてそれ以降も輸出した

CT110はオーストラリア郵政公社で郵便配達用として正式採用され、2012年まで生産した。現在はクロスカブタイプの新型が採用されている
2012年、スーパーカブはフルモデルチェンジを行い、翌年その新型をベースとしたクロスカブを発売します。
そのプロトタイプをお披露目したのは、モーターショーではなく、ホンダウエルカムプラザ青山で開催された2012年のカフェカブミーティングでした。事前発表のない大勢のカブファンを前にしたサプライズで、ハンターカブを連想させるスタイルに「現代に蘇ったハンターカブ」と反響は想定を越えるものでした。初代ハンターカブの発売から半世紀、日本でもレジャーの多様化や自然回帰への志向の高まりなどもあって、「ハンターカブ」や「トレッキングバイクの」のコンセプトが広く浸透していたのです。クロスカブの車名は「スーパーカブのパーソナルユース」と「遊びの要素」のクロスオーバーを意味して付けれらました。

クロスカブのプロトタイプは、2012年に開催されたカフェカブミーティング青山で初公開された。全国からスーパーカブの愛好家が集まるユーザーミーティングでの初公開は異例だったが、クロスカブの話題が盛り上がり高い支持が集まったこともあって、後のCT125 ハンターカブの開発にもつながっていった

カフェカブミーティング青山で発表したクロスカブのプロトタイプ。ほぼこのままのスタイルでパールコーンイエローとファイティングレッドを翌年6月14日から販売した。2014年12月12日には新色のボスグレーメタリックも追加された

カフェカブミーティング青山ではパイプ製のアンダーガードやスキッドプレート、アップマフラー、右側サイドスタンドを装着したカスタマイズコンセプトも同時に発表。大きな話題になった

1995年の東京モーターショーには、アップマフラーやCT90をイメージしたカバーを装着したハンターカブラを参考出品した。後にキットパーツとしてホンダアクセスから発売された
2017年、生誕から60年を迎えたスーパーカブはフルモデルチェンジ、その翌年クロスカブも新型へとフルモデルチェンジを行いました。初代の雰囲気を残しつつ、CT110をイメージした新しさの中に懐かしさを感じさせるデザインとなりました。110だけではなく50も新たに設定し、より広い層のお客様に好評をもって迎えられました。
2018年2月23日クロスカブ50/110
クロスカブ110 (写真左)に加えクロスカブ50(写真中央)も設定。クロスカブ110がパールシャイニングイエロー、マグナレッド、カムフラージュグリーンの3色。クロスカブ50はマグナレッド、クラシカルホワイトの多彩なカラーバリエーションを用意。2019年6月21日、車体色を50と110共通のカムフラージュグリーン、クラシカルホワイトと、110専用のパールシャイニングイエローに変更した。また、ご当地キャラのくまモンをイメージしたグラファイトブラックに足跡をイメージしたデザイン、レッドのパイピングの入ったシートやくまモンのイラストが入ったエンブレム、スペシャルキーなどを採用したクロスカブ50、クロスカブ110・くまモンバージョン(写真右)も追加された
クロスカブの人気に後押しされるように、スーパーカブシリーズの上位モデルであるスーパーカブC125をベースに、初代ハンターカブから、CTシリーズへの流れを受け継いだCT125プロトタイプを2019年の東京モーターショーに出展しました。カブファンはもとより、アウトドア志向の人たちから注目され、販売への期待が寄せられました。
そして、2020年3月20日に世界に先駆けて日本でCT125・ハンターカブが発表されました。現代に蘇ったハンターカブは、新たなバイクライフを展開していく多くのライダーたちの相棒となることでしょう。

第46回東京モーターショーで市販予定車として初公開したCT125 ハンターカブ(コンセプトモデル)