経営 2025.09.11

軽乗用EVの可能性を切り拓く「N-ONE e:」。N360から続く伝統を継承し、現代のニーズをとらえた軽自動車

軽乗用EVの可能性を切り拓く「N-ONE e:」。N360から続く伝統を継承し、現代のニーズをとらえた軽自動車

 POINTこの記事でわかること

  • 「N-ONE e:」は、軽乗用車の原点「N360」の志を継承するモデル
  • N-ONEの空間価値である広い車内と高い積載性の実現には開発現場の大変な苦労があった

Hondaは2024年、地球に優しいはたらくEV(電気自動車)として、軽商用車N-VANがベースの「N-VAN e:」を発売しました。そして2025年9月、軽EVの第2弾として軽乗用EV「N-ONE e:」を発売します。本記事では、同車の開発責任者・堀田英智にインタビュー。ベース車となっているN-ONEとの違いをはじめ、1967年に発売されたHonda軽乗用車の原点といえる「N360」との共通点や、グランドコンセプト「e:Daily Partner(イーデイリー パートナー)」のに込めた思いなどを聞きました。

堀田 英智

N-ONE e: 開発責任者
チーフエンジニア 四輪開発本部 完成車開発統括部 LPL 室
もっと見る 閉じる 堀田 英智

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目指したのは、手が届く軽乗用EV。N360のDNA を継承した「N-ONE e:」

Hondaの軽EVの第1弾は、商用モデルの「N-VAN e:」でした。そこから第2弾として軽乗用EV「N-ONE e:」の開発に至った背景を教えてください。

堀田
堀田

N-VAN e:は、カーボンニュートラルを軸にSDGsやESG対応のニーズがある法人のお客様、そしてランニングコストを軽減したいと考えられている個人事業主の方にお応えするモデルとして開発しました。

 

カーボンニュートラルを実現する為には、乗用モデルへのEV展開が必須であり、日本の新車販売の4割を占める軽自動車カテゴリーのEV化は避けては通れません。

 

Hondaとして軽乗用EVのモデルを決める議論の中で、Hondaの軽乗用車の原点である「N360」の志を継承するモデルである「N-ONE」をベースにする案が出てきました。

 

N-ONEはN360のDNAを色濃く受け継ぎ、個性的でかわいらしいデザイン、室内空間の広さや使い勝手の良さ、立体駐車場にも対応していることから、お客様にご好評を頂いているモデルです。

 

N-ONEをベースとして日々の暮らしに寄り添う実用性と、N-ONEならではのデザイン性を活かしながらEV化することで、現代のお客様のニーズもきっと満たせると考えました。

 

カーボンニュートラルに向けてモビリティの責任がより重要になるなか、現代における「手が届く軽乗用EV」をお客様にお届けすることで、EV普及に貢献していきたいという想いでN-ONE e:の開発がスタートしました。

1967年3月に発売された軽自動車「N360」 1967年3月に発売された軽自動車「N360」
2025年9月12日に発売する軽乗用EV「N-ONE e:」 2025年9月12日に発売する軽乗用EV「N-ONE e:」

軽自動車は、日本の新車販売台数の約4割を占めています。その巨大市場に軽乗用EVを投入することに対しては、どんな意気込みがありましたか?

堀田
堀田

軽自動車は、限られたサイズの中にたくさんの技術を詰め込んだ、日本特有のカテゴリーです。今日の日本におけるEV市場はまだ本格的な成長期には入っていません。一方でカーボンニュートラルに向けた乗り物として最適なのはEVという考え方に変わりはありません。また、乗用車と軽自動車の販売比率からも、EVが普及していくには軽のEV化が非常に重要だと考えています。

 

EVの先進性や価値に魅力を感じてくださる方も増えてきている一方で、やはり航続距離などに不安を抱くお客様も多いと思います。そういった方々の不安を少しでも払拭し、安心して普段使いいただける軽乗用EVをお届けしたいと考えていました。

 

また、Hondaは原点のN360から始まって、2011年に登場したN-BOX、2012年に登場したN-ONEなど、現在に至るまで「Nシリーズ」を軽自動車のブランドとして育ててきました。軽乗用EVというカテゴリーにおいても幅広いお客様に選んでいただけるよう、Nシリーズらしく、機能面やデザイン性を大事にしていきたいと考えました。

N-ONE e: 開発責任者の堀田英智 N-ONE e: 開発責任者の堀田英智

N-ONE e:のグランドコンセプト「e:Daily Partner」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか? その言葉に込められた想いや、目指した価値についても教えてください。

堀田
堀田

従来のN-ONEには、個性的でかわいらしいデザインや身軽さ・気軽さというコア価値があり、若い方からご年配の方まで、特に女性のお客様にご好評いただいているのが特徴です。N-ONE e:もそうしたお客様をターゲットユーザーとして開発をしました。

 

ターゲットユーザーのライフスタイルや意識について調査した結果、コロナ禍以前に比べると「自分のための時間」を重視する傾向が強まり、女性の半数以上がタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスをより大切にされていることがわかりました。

 

そこで導き出した答えが、生活圏内における日々の買い物や通勤などの20〜30km程度の短距離移動にふさわしい「身軽さ・手軽さ」を実現する機能性と、使いやすくシンプルで飽きがこないデザイン性を重要視すべきだということ。何気ない毎日をイキイキと活発に過ごすためのパートナーになってほしい。このような想いから「e:Daily Partner」というグランドコンセプトが生まれました。

「軽だからこそ」に挑む。空間と思想を守り抜くために

N-ONEをベースに軽乗用EVをつくるにあたり、どのような苦労がありましたか?

堀田
堀田

ベースのN-ONEは使い勝手も良く、HondaのM・M思想※1を体現したクルマです。N-ONEをEV化するにあたり、特に重視したのは空間価値および機能性の継承、そしてM・M思想※1を守り切ることでした。

 

開発において特に苦労したのは、N-ONEの価値である広い車内と高い積載性、立体駐車場にも入る低全高をEVとなったN-ONE e:でも実現することです。一般的なEV車の場合は、床下に高圧・大容量のバッテリーを搭載する必要があるため、室内空間をキープするには多くの課題があります。N-ONE e:では、バッテリーパックの薄型化やパワーユニットの小型化、集中配置など試行錯誤を行い、室内スペースや荷室スペースの広さ、立体駐車場にも入る低全高をキープすることに成功しました。

※1「マンマキシマム・メカミニマム」の略語。クルマの機械部分は最小限に抑え、人間のためのスペースを最大限に広くするというHondaの基本思想。

大人の男性が乗っても広さ・高さにゆとりがある後部座席 大人の男性が乗っても広さ・高さにゆとりがある後部座席
後部座席を折りたためば、フラットで広々した荷室スペースに 後部座席を折りたためば、フラットで広々した荷室スペースに

デザイン面はどのような点にこだわりましたか?

堀田
堀田

インテリアデザインでは快適な空間の確保に加えて、「誰でもサッとわかりやすく使える身軽な使い勝手」「毎日の暮らしに馴染むディティール」も意識しました。どなたでも運転や取り回しがしやすい視界の確保はもちろん、自分の手荷物や小物を気軽に置けてパッと取りやすいトレーの充実なども実現しました。

 

さらに、ターゲットユーザーの方々のご意見や日々の行動分析、それとシンプルさを追い求めていくなかで、「そもそもナビの液晶画面が必要なのか」「画面すら無い、究極にすっきりしたデザインを優先するクルマがあってもいいのではないか」という話になり、思い切ってシンプルに振った「Bluetooth®対応オーディオ」仕様もバリエーションの一つとして生まれました。

堀田
堀田

また、エクステリアデザインは従来のN-ONEの特徴も踏襲しつつ、ふっくらとした上質な丸みを持ち、撫でたくなるような“つるん”とした素材感と、毎日ともに過ごしたくなる愛らしい顔立ちにしました。日常のパートナーとして、愛着が湧くようなクルマに仕上げられたと思っています。

街中ジャストな走行性能へのこだわりと、安心して乗れる軽EVトップの航続距離

街中ジャストな走行性能へのこだわりと、安心して乗れる軽EVトップの航続距離の性能と航続距離において、工夫した点はありますか?

堀田
堀田

もちろん走行性能にもこだわっています。

 

EVならでは力強い加速感はもちろんのこと、モーターと電動サーボブレーキの協調制御によるリニアで安心感のある減速特性としています。

 

ハンドリングについては、低ハイトな高圧バッテリーを車両中心に配置することで、きびきびとしたリニアで楽な操作性や、住宅街での取り回しのしやすさに磨きをかけるため、電動ステアリングのレシオの見直しも行いました。

 

また、シングルペダルコントロールは、加速から減速においてアクセル操作だけでスムーズな運転ができるだけでなく、停車時はスーッと止まれるようにセッティングを行うなど、街中で気持ちの良い走りができるようにこだわって開発しました。

 

また、EVで懸念されがちな航続距離にもしっかり向き合い、広い室内空間を確保しながら大容量のバッテリーを搭載することで、安心して乗れる軽EVトップの航続距離295km※2を達成しました。

※2 WLTCモード 一充電航続距離

今回、軽乗用EVの開発という新しい領域へ挑戦するにあたり、開発責任者としてチーム内の意思統一はどのように図っていきましたか?

堀田
堀田

「失敗を恐れず、チーム全員で挑戦しよう」という気持ちを大切にしていました。具体的には、チャレンジングな目標を設定し、前向きな議論を何回も行いました。そうすることで、チーム内での意思統一や意思疎通のスピードも速まり、さまざまな課題を解決できたと思っています。

 

これまでチャレンジングな製品開発を実現させてきたHondaの企業文化として、志の高いメンバーが多くいます。今回もそうしたメンバーと気軽にディスカッションできたことが、e:Daily Partnerという皆が腹落ちするコンセプトを決定できた大きな要因だと思います。

今後、日本のEV市場や軽EV市場にとって、N-ONE e:にはどのような存在になってほしいと考えていますか?

堀田
堀田

EVの先進性や価値に魅力を感じてくださる方がたくさんいる一方で、やはり航続距離などに不安を抱くお客様も多いと思います。N-ONE e:は日常生活に十分な航続距離を確保しており、そういった方々の不安を少しでも払拭し、安心して普段使いいただける軽乗用EVになったと考えています。

 

軽乗用EVには多くのメリットがあります。軽自動車が苦手とする坂道や山道でも、EVなら唸るようなエンジン音は無く、静かにストレスフリーでぐんぐん登っていきます。また、当然のことながらガソリンスタンドに行く必要もありません。

 

軽EVの良い部分を感じてもらいながら日々の生活のなかで「N-ONE e:を選んでよかった」と感じてもらえる存在になったら嬉しいです。「お客様の毎日に寄り添えるクルマ(パートナー)」と感じていただけると幸いです。

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