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イノベーション 2023.10.19

自動運転タクシーサービスを2026年初頭に東京で。Hondaが手掛ける「移動の喜び」の未来

自動運転タクシーサービスを2026年初頭に東京で。Hondaが手掛ける「移動の喜び」の未来

ハンドルやペダルがない完全無人の自動運転専用車両「クルーズ・オリジン」で、自由に移動できる「自動運転タクシーサービス」の実現に向け、2018年からGM、クルーズと協力してきたHonda。これまで、栃木県での技術実証を中心に、日本国内での自動運転レベル4の自動運転サービスの事業化に取り組んできました。そしていよいよ新たに、2026年初頭に東京都心部でサービスを提供すると、3社で合意し発表。果たして今、どのような成果が見えてきているのでしょうか。プロジェクトのキーマン3名の言葉から、このサービスが実現する「移動の未来」を紐解きます。

奥康徳(おく やすのり)

本田技研工業株式会社
コーポレート戦略本部
コーポレート事業開発統括部
エグゼクティブチーフエンジニア
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志水康祐(しみず こうすけ)

ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第一ソリューション部
技術開発推進ユニット
アシスタントマネージャー
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松岡知宏(まつおか ともひろ)


ホンダモビリティソリューションズ株式会社
第一ソリューション部
事業企画推進ユニット
アシスタントマネージャー
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東京都心部で2026年初頭に自動運転タクシーサービスの事業化を目指す

Hondaは、2018年に米国・ゼネラルモーターズ(GM)、GM クルーズホールディングスLLC(クルーズ)の2社と自動運転技術を活用したモビリティ変革に向けた協業に合意。資本・業務提携関係を基に、2021年には「日本での自動運転モビリティサービスに向けた協業」を発表しました。まず、自動運転タクシーサービスがどういったものかお聞かせください。

奥

私たちが目指している自動運転タクシーサービスは、スマホ一つで、配車・移動・決済までをシームレスに提供する取り組みです。今回のサービスでは、GM・クルーズ・Hondaの3社で共同開発した自動運転専用車両「クルーズ・オリジン」というこれまでにない車両を活用します。

日本でのサービス開始予定の「クルーズ・オリジン」。高いプライベート性、広い室内空間、そして利用者の乗り降りしやすさを実現している 日本でのサービス開始予定の「クルーズ・オリジン」。高いプライベート性、広い室内空間、そして利用者の乗り降りしやすさを実現している
志水
志水

クルーズ・オリジンは、人間の運転を想定していない、自動運転レベル4を採用しました。運転席が存在せず、中の空間を有効活用できるのが特徴です。向かい合わせで6人が座れるスペースがあるなど、これまでにない移動体験を提供できると考えています。

奥

移動体験だけでなく環境や安全への貢献など、様々な社会課題への貢献も目指しています。

今回、新たにGM・クルーズと合意書が発表されました。こちらはどういう内容なのでしょうか。

奥

今回の合意書は、自動運転タクシーサービスを「2026年初頭に」「東京都心部で」開始することに合意する内容になっています。ゴールを明確にし、3社で取り組みを加速させていく考えです。

※発表の詳細は、ニュースリリースをご覧ください。

今回のプロジェクトの副リーダーを務める奥。これまで開発畑を歩んできたが、今回はサービスの創造を目指すという新たなチャレンジをしている 今回のプロジェクトの副リーダーを務める奥。これまで開発畑を歩んできたが、今回はサービスの創造を目指すという新たなチャレンジをしている
松岡
松岡

日本国内で提供するサービスですので、今後は国内の利用者や社会全体からいかに受け入れられるかが重要です。そのため、車両開発だけでなくサービスの立ち上げにおいても、Hondaがリードして取り組みを進めていきます。

日米の交通環境やルールの「違い」への懸念を解消。技術実証の現在地

国内でのサービス提供に向けて、これまで栃木県で技術実証を進められてきました。こちらはどのような取り組みなのでしょうか。

志水
志水

栃木県での技術実証は、基本的には米国で事業化されているものを日本に持ってきつつ、交通環境などの異なる部分を適合させる観点で行っています。具体的なステップは、3つです。まず、ベースとなる高精度地図を作成し、次にテストコースで安全性を検証します。そして現在行っている最後のステップが、公道での検証です。歩行者や自転車が比較的多い住宅地エリアや大型トラックが多く車線も広い工業団地などで実証を行っています。

米国との違いは、交通ルールだけでなく、緊急車両のサイレンの音、道路周辺の施設など様々です。ドライバーの気質も異なります。例えば、日本人は車線に忠実に走りますが、米国のドライバーの走り方は「ちょっと車線を踏むくらい、当たり前」という声もあるくらいです。

自動運転車両が安全に走行するのに欠かせない地図作成車両 自動運転車両が安全に走行するのに欠かせない地図作成車両
奥

実際に日本で初めて車両を走らせたときは、運転がかなりアメリカナイズされていると感じました(笑)。車線の捉え方や曲がり方などは、何とか技術実証を通じて「日本の交通マナーに合わせた運転」になるようにしています。

志水
志水

細かい部分では、信号の色などへの対応も進めています。日光の当たる角度でも見え方が変わってしまい、うまく認識できないことがあります。こうした一つひとつの問題をつぶし、日本への適合を進めています。

これまでの技術実証で特に苦労したことはありますか。

志水
志水

初めて公道実証のコースの高精度地図を作成して以降、1年以上が経過したため地図データ上では存在しない自転車レーンのペイントが、実際の道路に新たにできていたことがありました。すると、車両がその場所で違和感を覚え、急にブレーキをかけてしまうことも。こうした、「実際の道路では何もない場所」で急ブレーキを生じさせる原因を特定していくのは、実証を始めた頃は大変でした。

また、実際に自動運転システムの改良を行うのは当社ではなくクルーズです。いかに丁寧にコミュニケーションし、現場の状況を伝え、問題を特定・改善していくかにも苦労しましたね。

松岡
松岡

クルーズは海外の企業ですので、日本の商習慣や法令に慣れていないところがあります。業務を進める際には、特に丁寧に対話するよう心がけました。この点は、苦労でもありやりがいでもありますね。

事業スキームの検討や役割責任分担の策定を行い、上記に関連するステークホルダーとの 協業・協議を進める松岡(右) 事業スキームの検討や役割責任分担の策定を行い、上記に関連するステークホルダーとの 協業・協議を進める松岡(右)
奥

私は、志水さんや松岡さんと異なり、これまでHondaでのキャリアしかありません。計画を事前にきっちり立てて、忠実に進めていく。そうしたHonda流のやり方が当たり前だと思ってやってきましたが、クルーズとは企業文化がかなり異なると感じました。

クルーズでは「こうなりたい」といった目標を掲げ、アグレッシブな計画を立てていきます。Hondaから見ていると「本当にできるの?」と感じることもあるくらい、大胆に進めていくのです

ただ振り返ってみると、実はHondaもそうした文化が根底にあるんですよね。「こんなクルマをつくりたい」といった想いから始まり、がむしゃらに取り組んだ経験は、自分自身にもあります。そうした意味でどこか懐かしい、ある意味で血が沸き立つような部分もあり、苦労とともに喜びを感じています。

提供するのは自由で楽しい「移動の喜び」。新たな交通の選択肢へ

先ほどのお話にあったように、新たに、2026年初頭に東京都心部でサービスを提供するマイルストーンを掲げられました。これまでの技術実証を通して手応えを感じたからこそ、今回の発表につながった部分もあるのでしょうか。

自動運転システムの日本適合に向けた技術実証の計画、進捗管理、現場や各社との総合調整を任されている志水。 道路運送車両法や道路交通法の許認可取得に向けた渉外も行う 自動運転システムの日本適合に向けた技術実証の計画、進捗管理、現場や各社との総合調整を任されている志水。 道路運送車両法や道路交通法の許認可取得に向けた渉外も行う
志水
志水

技術実証ではこれまで多くの課題が見つかってきました。その一つひとつを確実に解決でき、前に進んでいる実感があります。そこがやりがいにつながっています。また、自分が実際に乗ってみて「こんなこともできるのか」と驚かされることもあります。

例えば、道路工事でカラーコーンが置いてあることがありますよね。固定の構造物ではないので地図データにはカラーコーンの情報がないですが、自動運転車両がカラーコーンを認識し、きれいに避けて走ることができ「すごいな」と感じました。もちろん、都内で走る上でもっと難しい交通環境はあると思いますが、こういった状況に対応できるポテンシャルはすでに発揮できています。あとは、いかに走り込んでブラッシュアップしていけるかですね。

松岡
松岡

2023年4月に道路交通法など自動運転レベル4に関する法改正がありました。事業サイドでは、新たな法律に則りどう業務を進めて責任を分掌していくかを、国土交通省を中心とした関係省庁とディスカッションしているところです。国と密に連携しながら、事業化のマイルストーンに向けて一歩ずつ進められている実感があります。

その他、タクシー会社との協業検討も進めている最中です。大枠から具体的な細かい部分まで詰め始められているところは、大きな手応えに感じています。

奥

今、志水さんと松岡さんから非常に心強い発言がありましたが、内心はかなりドキドキしているのが実際のところです(笑)。ただ、2026年初頭に東京都心部でサービスを始める。都内の道路をクルーズ・オリジンが走る。このことを考えるだけでワクワクしますし、非常に意義のある取り組みだと考えています。時間は限られており、チャレンジングなプロジェクトであるのは事実です。しかし、ゴールに向けて着実に進んでいると断言できます。

今回の取り組みによって、どのような変化や価値が生まれていくと考えますか。

松岡
松岡

スマートフォンが登場した当初、多くの人はまだその価値を理解できていませんでした。それが今では、生活に浸透してその基盤となっています。同様に、自動運転によって移動の楽しみ方が多様になるのではないでしょうか。これまで諦めていたような移動や遠出が、どんどん気軽になっていくと考えています。

既存の交通機関とも共存するはずです。タクシーやバスには自動運転と違った利点があります。例えば、バスのような低価格性は、今のところクルーズ・オリジンでは実現できません。それぞれのメリットをもとにして、利用者が好きなものを選ぶ。そうした都市交通へと進化していくのではないでしょうか。

超長期的には、自動運転を基盤に「移動」と他の産業が組み合わさり、ビジネスの在り方や付加価値がどんどん変わっていくと考えています。

志水
志水

まずは東京から商業化するということで利用者の利便性とともに、都市の国際競争力が高まることにも期待しています。自動運転が移動のインフラになり、新たな価値が生まれる。それによって、引き続き海外から東京に企業や人が集まり、経済が活性化していくことを期待しています。

奥

Hondaが本当に提供したいものは「移動の喜び」です。今回のサービスはその中で移動時間と空間の質を高めるものとして考えています。もちろん、「移動の喜び」の一つとして運転する喜びがありますし、そちらも引き続き、Hondaは提供していきます。自動運転技術が進化を続け、パーソナルカーとしてのクルマと、移動サービスが、いずれは交差することもあるかもしれません。これまで予想できなかったような、新しく、素晴らしい未来が待っているのではないかと期待しています。

年齢差を感じさせない3人。新たな「移動の喜び」を実現すべく、それぞれの担当領域で奮闘している 年齢差を感じさせない3人。新たな「移動の喜び」を実現すべく、それぞれの担当領域で奮闘している

クルーズ・オリジンと自動運転タクシーサービスをどのように使ってほしい、また「自分はこう使いたい」と考えてらっしゃいますか。

志水
志水

前職で3年間、沖縄で仕事をしていたこともあり、もう一度沖縄で暮らしたいと考えています。美しい景色を眺めながら、クルーズ・オリジンで移動したいですね。

松岡
松岡

家族でどこかへ出かけたいとき、都市圏ではクルマを持っていない人も多く、諦めた経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。そうした方にぜひ、気軽に外出する際の手段として使っていただきたいですし、私自身も使いたいと考えています。

奥

どこかへ「行ってみようかな」と思えるきっかけになるとともに、「行けるんだ!」と多くの方に感じていただけるとうれしいですね

私自身は運転が好きですし、苦になったことがありません。それでも、好きなタイミングで好きなように、快適でゆったりとした移動の時間を過ごしたいと感じるときはあります。クルーズ・オリジンで精神を開放しながら、ゆったりと移動できる時間を味わいたいです。

 

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