「人間尊重」のフィロソフィーに基づく人事の取り組みについて

~総合モビリティカンパニーとしての進化に向けて~

 Hondaは、本日、「人間尊重」のフィロソフィーに基づく人事の取り組みについて説明会を開催し、取締役 代表執行役副社長 貝原 典也(かいはら のりや)、人事統括部長 安田 啓一(やすだ けいいち)が出席して説明を行いました。以下、その概要をお知らせします。

Hondaにおける人事の基本的な考え方

 Hondaは、「Hondaフィロソフィー」の基本理念である「人間尊重」をベースに、「主体性」「公平」「相互信頼」を人事の3原則として、従業員一人ひとりの意欲や能力を高める環境づくりと、持てる力を発揮できる職場づくりに力を注いできました。

 この3原則に基づき、Hondaは長年にわたり、以下のような人事の取り組みを行っています。

1.主体性

  • Hondaでは、大胆な権限委譲と上司からの適切な支援によって個人の成長を促せるという考えのもと、本人の実力より少し高いレベルの仕事をアサインし、そのうちの4割ができるようになれば、その仕事をすべて任せるということを実践しています。これを指して「二階に上げてはしごを外す」という言葉もよく使われています。
  • 従業員が主体性を持ってキャリアを描くという観点で、自ら手を上げて職場を異動する社内公募制度「チャレンジ公募」を20年以上前から実施しています。毎年1,000名程度の応募者のうち、選考を通過した200名程度が、新たな職場で新しい仕事にチャレンジしています。

2.公平

  • Hondaの定期採用のアプリケーションシートには学校名を記入する欄がありません。学歴ではなく、「Hondaというフィールドを活用して自分が何を成し遂げたいのか」を尋ね、その上で合否を判断する、人物重視の採用をしています。役職者・一般従業員とも従来から実力主義をとっており、期初に従業員が自ら役割を申告し、その役割における成果に対して、処遇が連動する仕組みとなっています。Hondaには肩書は役割を示すものにすぎない、という考え方があり、社長・部長といった「肩書」ではなく、「さん」付けでお互いを呼び合うのが自然な光景です。

3.相互信頼

  • Hondaでは、30年以上前から「2Way」と呼ばれる面談を実施しています。部下が自らのキャリア観や所属組織での役割を申告し、上司との2Wayを通じて組織の方針とのすり合わせを行います。期初・期中に複数回実施しており、実施率は100%です。
  • 役割を超え、個人が徹底的にお互いの意見をぶつけ合い、成果を出す、「ワイガヤ」と呼ばれる文化があります。なお、Hondaでは各役員の個室の執務室はなく、「大部屋役員室」というシステムを採用しています。これは、大きな1つの部屋に、社長含め全役員が集まって執務を行うシステムで、いつでもワイガヤができる環境になっています。
1970年代の大部屋役員室
1970年代の大部屋役員室
現在の大部屋役員室
現在の大部屋役員室

総合モビリティカンパニーとしての進化に向けた人事の取り組みの方向性

 Hondaは総合モビリティカンパニーとして2050年のカーボンニュートラルを達成し、お客様に将来にわたって自由な移動の喜びを提供し続けていくために、さまざまな事業・製品において「電動化」と「知能化」を進めています。また、モビリティそのものの進化に加え、モビリティの電動化にともなって拡大する新たな事業にも積極的に関わりを強めるとともに、eVTOLやロケットなど、従来のモビリティのフィールドを大きく拡張させる新価値の創造にも積極的にチャレンジしています。

 こうした「第二の創業期」ともいうべき変革期に伴いHondaの事業も大きく変わろうとする中で“存在を期待される企業”であり続けるためには、事業戦略に連動した人事戦略が必要です。また、社会の急速な変化に伴い個人のキャリア観も大きく変化しています。「自律的なキャリア形成」や「自己成長」がこれまで以上に重要視されており、志を持った人がHondaという場を活用し、自らのキャリアを築き、成長していける環境を整えることが非常に重要だと考えています。これらの観点を踏まえ、中長期の視点から「従業員の内発的動機の喚起と多様な個の融合」、短中期の視点から「事業上の注力領域の人材の量的・質的充足」という2つの人材マテリアリティを設定しています。

 具体的には、組織の土台である風土については、Hondaで働く一人ひとりが「夢」に向かって、持てる能力を最大限に発揮できる環境の整備を加速させます。
 人材の量と質の観点では、事業戦略の到達点からバックキャストした将来必要な人材ポートフォリオを形成すべく、ソフトウェアやバッテリー、デジタルといった「電動化」「知能化」における注力領域に必要な人材を迅速に充足するとともに、それぞれの従業員に求められる知識・スキルの拡充を進めます。
 人材の活用・処遇においては、さらなる変革やイノベーションの創出に向け、適材適所、実力主義を今まで以上に徹底して進めます。

 これらの観点に沿って、「個の違いを認め合い、尊重する企業風土」「大胆かつ柔軟な人材獲得と育成」「主体性の尊重と実力主義の徹底」の3つを柱に具体的な人事施策を展開しています。これらを確実に進めることで、変革期における人・組織の力の最大化につなげていきます。

1.個の違いを認め合い、尊重する企業風土

多様な働き方

選択定年制と、一部従業員の定年制度廃止

 2017年より全従業員を対象に、自らの意向に基づき、60歳から65歳までの間の任意の年に定年を選択できる「選択定年制」を導入しています。「60歳で雇用を終了、そのあと再雇用」ではなく「定年延長」という形で雇用を保証するとともに、個々人の価値観によってライフデザインが異なることを踏まえ、定年時期を一律に延長するのではなく、自分自身で選択することができるようにしています。
 また、高い技術・技能をもつ一部の従業員に対して、2025年6月から定年制度を廃止し、65歳以降の就労が可能な制度を導入します。これにより、企業としての競争力の維持と、高齢化社会における安定的な雇用創出の両立を図ります。

自由度の高いフレックスタイム制とリモートワーク

 Hondaのフレックスタイム制はコアタイムがなく、業務可能な時間帯も午前6:30から夜10:00までと自由度が高くなっています。また、三現主義※1で物事の本質を考え、さらなる進化を生み出すために対面でのコミュニケーションを基本としながらも、個人の事情や業務効率向上のためにリモートワークが選択でき、出社とリモートを組み合わせた勤務も可能です。

有給休暇の100%取得

 過去から労使で年次有給休暇(有休)の消滅をなくす「有休カットゼロ」に積極的に取り組んでおり、有休取得率2は100%を超えています。

短日数勤務・短時間勤務制度

 育児・介護など事情に合わせて週3日・4日などの短日数勤務や、4時間から7時間まで選択できる短時間勤務、フルリモートワークを選択することができます。また、育児・介護に加え、2024年からは疾病・障がい治療も対象に含めるようになりました。

休職制度・帯同転勤制度

 出産・育児・介護・疾病治療に加え、同居する配偶者の海外駐在などにより、現在の勤務地への通勤が困難となる従業員向けの休職制度を導入しています。また、配偶者の転勤に帯同する場合、転勤先にHondaの事業所があり、ポストがあれば、そこで勤務できる制度も導入しています。
 なお、近年では男性の育児休職も促進しており、直近の育児目的休暇5日間の取得率は70%を超えています。

企業風土改革

「企業風土改革プログラム」開始

 環境変化のスピードを踏まえると、事業戦略の遂行スピードを今以上に速めていく必要がありますが、社内では企業風土の弱まりや、変革を阻む部門間の対立、変革に伴う痛みへのちゅうちょといった課題も見えてきています。このような状況を踏まえ、2025年4月から「企業風土改革プログラム」を全社でスタートします。具体的には、変革期における行動要件「Honda 6 ACTIONS for Change」を明示し、それぞれの現場であるべき姿に近づくための取り組みを組織開発的にボトムアップで実行していきます。一人ひとりの行動そのものを変え、チャレンジと能力の最大発揮を促し、企業風土を強化、進化させます。

2. 大胆かつ柔軟な人材採用と育成

人材採用

国内の採用

 Hondaは現在、国内最大規模※3の年間2,300名の採用を行っており、2025年度はキャリア採用約1,500名・定期採用約1,000名の採用を予定しています。Hondaは昔からキャリア採用比率が高く、過去から概ねキャリア採用3割・定期採用7割でしたが、近年はキャリア採用が6割を超えています。また、キャリア採用は、約6割がソフトウェアをはじめとする注力領域の人材です。

注力領域の採用強化

 「ソフトウェアエンジニアが働ける場所の拡充」を進めており、2023年10月の大阪を皮切りに、名古屋、福岡、大宮と拡大し、2025年4月には大阪のグラングリーンにオフィスをオープンします。また、2026年初めには東京都内にも新たなオフィスを開設予定です。

ソフトウェア開発拠点の国内展開
ソフトウェア開発拠点の国内展開
海外から日本への採用

 海外から日本へのキャリア採用・定期採用も年間60名規模で行っています。2024年度は、インドをはじめとしたアジア諸国を中心に10か国以上で採用活動を展開しており、定期採用ではインド工科大学やベトナム国家大学など、各国屈指の大学から高いスキルを持った人材を採用しています。
 また、日本語を要件としない採用を拡大し、多様な人材の活躍によるイノベーションのさらなる促進を図ります。

育成

注力領域(ソフトウェア・電動化)のリテラシー向上

 Hondaの事業が電動化・知能化により新たな領域にシフトすることを踏まえ、全従業員に対して、集中的なリテラシー向上プログラムを展開しています。2023年には、ソフトウェア領域のビジネスアーキテクトやデータサイエンスなどの5つのテーマに関する16時間のEラーニングプログラムを3か月間で国内従業員3万人が受講しました。2024年は、電動化領域について約4時間のEラーニングを、2か月間で国内従業員3万人が受講し、今後は海外の従業員についても、約8万人を対象に受講を進めます。

 また、注力領域で新たな価値を創出する人材を育成すべく、スペシャリスト・領域トップレベルのエンジニアの人材育成の加速を中心に、2030年に向けて今後5年間で約150億円の人材投資を行います。

従業員の自律的な学びの支援

「これからは『仕事』や『遊び』に加え、『学び』も徹底的にやる」をコンセプトに、従業員が社内外で通用するプロフェッショナルとなるために求められる能力を定義するとともに、国内の従業員約3万人を対象にオンラインの選択型学習プログラムを展開しています。また、職場のリーダー層約17,000人を対象とした「エキスパート基金」制度では、年間約13万円まで、自らの能力開発のために自由に活用できます。オンラインコーチングも積極的に展開しており、Hondaでは対象者を絞らず、希望すれば誰でも社外の有資格者から、自身の成長にフォーカスした約3時間のコーチングを受けることが可能です。

グローバル人材育成

 Hondaはこれまで、現地採用のアソシエイトと日本から派遣する駐在員が協働して現地法人のオペレーションを担うことで、現地アソシエイト・駐在員の育成を進めてきました。2012年以降は、グローバルリーダーの育成に向けた研修プログラムも展開し、これまでのべ1,000人が受講しています。キャリアの早期におけるグローバルリーダーとしての基盤の形成からグローバルリーダーへの適性の見極めまで幅広くカバーするとともに、適材適所の配置やタレントの能力の最大発揮につなげています。

新価値探索プログラム「MINERVA」

 2024年からスタートした取り組みで、自身の価値観が揺さぶられるような未知の領域でのフィールドワークを体験したのち、その体験を通じて得られた知をメンバー同士でぶつけ合い、Hondaが創業期から大切にしてきたワイガヤを実践することで、新たな価値の探索を試みます。MINERVAを通じて個人のなかに生まれた夢を、新たな価値提供につなげていくことを目指します。

3. 主体性の尊重と実力主義の徹底

役職者 給与・評価制度の改定

 Hondaは2025年の6月に役職者の給与・評価制度を大幅に改定し、経営事業基盤の変革をリードする「トランスフォーメーション」職と、技術革新と新事業の創出をリードする「イノベーション」職の2つの給与・評価体系を導入します。トランスフォーメーション職は、役割と報酬がダイレクトに連動し、完全な脱年功・脱一律な制度です。実力によって特定のポジションにつけば、年齢に関係なく、実力に応じた報酬を得られます。イノベーション職は、能力や専門性の発揮をダイレクトに処遇に反映します。
 また、役員のみならず、役職者の一部に株式報酬を導入し、中長期の企業業績の価値向上につなげます。

役職者 給与・評価制度の改定
役職者 給与・評価制度の改定
高度専門人材の処遇

 半導体やAIなどの領域で、高度な専門性を生かして変革をリードしていく人材に対しては、その方の市場価値に照らしてより柔軟に報酬や労働条件を提示できる制度を導入しており、一般従業員とは異なるプロフェッショナル人材として採用しています。

Gen-AIエキスパート制度

 2024年6月に開始したGen-AI(生成AI)エキスパート制度は、生成AIに関する高い知識、技術、経験を生かして自らシステム構築が可能なエキスパートを社内で発掘・認定し、認定を受けた従業員をプロジェクトへアサインすることで、組織の枠に捉われず活躍できる制度です。プロジェクトに従事している期間は、認定レベルに応じて最大月15万円のエキスパート加算を支給します。

現場、現物、現実の三つを重視する姿勢

雇用主が従業員に付与した有休の日数を、実際に従業員がどれだけ取得したかを示す指標

日本国内の自動車OEMにおいて。2025年1月時点Honda調べ