革命ともいえる大型カウルでパリダカを疾走
左右+後部に配置された大容量燃料タンクの採用、それに連なるウィンドプロテクションと空力を考慮した大型のカウリング。NXR750(以下「NXR」)はラリーレイドに新しい車体デザインとスタイリングを持ち込んだ。それは自然の森羅万象を敬い、また畏怖する心から生まれた、ライダーに対する優しさの象徴。結果、パリ~ダカールラリー(以下「パリダカ」)4連覇という記録とその後のラリーレイドモデル、ひいては量産アドベンチャーモデルのデザインへとつながっていくのであった。
NXRの独創性を象徴した燃料タンク
当時パリダカのレギュレーションでは、450kmの距離を無給油で走ることが定められていた。開発チームが目標とした燃費は9.1km/ℓ。つまり、燃料タンクには少なくとも49ℓ以上の容量が必要だった。これに安全マージンを上乗せすると二割増しの59ℓという計算だったが、事前の実走テストで10/kmℓの燃費を実現。燃費を悪くする高回転域をキープしての走行や激しいスロットル操作が思ったほどない、つまりNXRの出力特性がライダーにとって優しかったことの証左で、結果1986年の実戦車では容量を57ℓにとどめることができた。
しかしながら、レース距離が長距離化する傾向にともない、その後タンク容量は拡大されていき、1987年モデルまでは57ℓだったが、1988年は58ℓ、1989年は59ℓとした。このため1989年モデルは容量が拡大された燃料タンクに連なるカウリングの形状がエッジの効いたものとなっており、それまでのNXRとは異なる外観の雰囲気を持っている。
ちなみに、走行速度も年々上がっていき、相応の耐衝撃性が求められることでフレームの肉厚も増すなどにより車重は増加していった。当然軽量化も推進されたが、車体の改良や燃料タンク拡大による車重増加は免れなかった。その重量は1986年モデル190.5kg、1987年モデル189.0kg、1988年モデル195.6kg、1989年モデルが196kgである(いずれもガソリン含まず)。(本連載 第四回 参照)
必ず帰ってこられるよう二重三重の安全設計
燃料タンクが大容量になると、それをエンジン上部に載せるという通常のレイアウトや形状では無理があった。車体の重量バランスが取りにくいだけでなく(何しろ満タン時にはガソリンだけでも約40kgの重さになる)、巨大な構造物がライダーの懐に鎮座してしまう関係で操作性や居住性まで大きく阻害してしまう。
そこで容量を確保しながらも重量バランスへの影響を最小限に抑えるために、車体の左右にタンクを配置。加えて車体後部にもタンクを設けてその容量・重量を分散したのである。
また、3つのタンクは独立した燃料供給系統とし、3つ同時にでも別々にでも使用ができた。ひとつのタンクがダメージを受けても、ほかのタンクがバックアップすることで走り続けられる構成だ。ガス欠ストップだけは何としても回避し、「ライダーを必ずキャンプ地まで帰還させる」という強い思いが開発チームにあった。砂漠のレースにおいてガソリンは、ある意味水以上に大切な命綱であったからだ。
ちなみに、飲料水用のタンクもNXRには設置されていて、フロントカウルの下、左右に張り出た白い容器がそれだ。容量はふたつ合わせて数ℓ程度。またスペアパーツの携行も義務づけられていたため、その水タンクのあいだに収納ケースを設けた。ケース内には左右レバー数本ずつ、スロットル本体にスロットルワイヤーほかケーブル類、燃料ポンプやラジエターのバイパスキット等「帰ってこられる」ための装備が満載された。
タンクを一体化したモノコック構造も検討
左右に振り分けられたメインタンクを前方から見ると、ハートの形を逆さまにしたような優しい曲線を持っている。
実は開発当初の検討段階では、剛性・強度・軽量化・デザインの自由度といった観点から、車体と燃料タンクが一体となったモノコック構造を取り入れようと考えていた。しかし、完全なモノコック構造だと、破損時の修復性に難があると同時に構造変更も容易には行えない。このため、リア周りのみシートレールとサブフレーム、そしてフェンダーの大半をタンクと一体化したセミモノコックと言うべきボディシェル構造としたのである。
このリアの燃料タンクには、当時の二輪レーシングマシンでは使用例のなかったガスバッグ(特殊繊維とゴム材を編み込んだ袋状の構造体)を採用し、激しい転倒によってボディシェルが破損した場合でもガソリンが漏出しないよう確実性を期している。
また、キャブレターの搭載位置より大幅に低いところまで伸びた燃料タンクからはポンプでガソリンを汲み上げるのだが、3つのタンク間で燃料の移動がスムーズになるよう、各タンクの底面は同じ水準とした。リアのセミモノコック構造とあわせてその技術的ノウハウは、1980年代初頭にモトクロス用バイク開発で得た知見が大いに活きたのであった。
時代を先取りしたかのような車体デザイン
外装は大型のカウリングがこの時代の特徴だ。NXRの場合、燃料タンクとリアのボディシェルのあいだにライダーを配置し、これをカウリングで包み込むようなデザイン。高い防風効果を発揮したのと同時にライダーの疲労低減に寄与したのは言うまでもない。また空気抵抗を減らすことで速度と燃費の高いバランスを実現した。
この大型カウリングと大容量燃料タンクによるエアロダイナミクスの確保は、その後にパリダカマシンでの定番装備となり、やがて量産アドベンチャーモデルの源流となっていく。砂漠という大自然を舞台に、「どうしたら勝てるのか」という難題に向き合い、ライダーからの声を真摯に聞いたからこそ生まれたNXRの車体デザインは、数十年の時を経ても色あせない、いまを走る多くのライダーからも支持されるものとなるのであった。(つづく)
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